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【書籍化】私には必要ありません ~愛してくれない家族は捨てて隣国で幸せを掴みます~ web版  作者: 風見ゆうみ


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17  元婚約者の企み ①

 嫌な予感は的中し、船酔いしてしまった。私には侍女がいないことをナナから聞いていたイディス様が、侍女になる予定の女性を一人とメイドを三人連れてきてくれていたから、四人が必死に介抱してくれたので本当にありがたい。


 イディス様は心配して何度か部屋に来てくれたけれど、顔色が悪い上に吐いている姿なんて見られたくなかった。それを察した侍女たちが「今は眠っておられます」「やっと落ち着かれたところです」「今、お話になれば、また体調が悪くなるかもしれません」などと言って部屋に入らせようとはしなかった。


 横になって少し落ち着いた時、私は侍女たちにイディス様のことを聞いてみた。

 彼女たちも私の侍女やメイドになると決まってから、初めて彼の顔を見たらしく驚いたと答えた。


 イディス様の素顔を知っているのは、ごく一部の人間らしい。ちなみにもうすぐ5歳になる第二王子のファンダ様は公に顔出しはしていないが、城内で働く人たちはみんな、彼がどんな顔をしているか知っているそうだ。


 ファンダ様のことを侍女たちは揃って、やんちゃだけど、とても可愛らしい方だと言った。人懐っこい方だというし、お会いできるのが楽しみだわ。

  

 逆算してみると、ロフェス王国の王妃陛下は今の私と同じ年の時にイディス様を生んだのよね。そう考えるとすごいなと思ってしまう。

 ……いや、私がもっとしっかりしないといけないのでしょうね。

 お兄様だって十五歳の時には学園に通いながらも国政に携わっていたんだもの。

 仕事が忙しくて中退したあとは、教師の資格を持つ貴族に勉強を教えに来てもらっていたけれど、必要ないくらいだと言われていた。

 ちなみに私は、幼い頃に不義の子といじめられて、学園には通わずに家庭教師をつけられていた。

 私をいじめていた子供の両親は特に処罰はされていない。相手は子供だということもあるけれど、お父様にとっての私はお母様の不義の子だから、言われても間違っていないと判断したのでしょう。


 子供の時って本当に何も考えていなかった。あの頃の私が今のように周りの反応を気にしていれば、生きているのが辛くてロインからもらっていた毒を飲んでいたかもしれない。


 ……そういえば、あの毒らしきものはナナが持っていったままだけど、どうなったのかしら。イディス様に聞いてみなくちゃ……うう。気持ち悪い。


 色々と考えていたせいか、また気分が悪くなってきた私は、起きている間は風通しの良い甲板に簡易ベッドを作ってもらって横になり、気分が落ち着くと部屋に戻って眠りについた。

 港に着いた時には朝になっていて、昨日よりもかなり体調は良くなっていた。

 とても良い天気で空には雲一つない青空が広がっていて、侍女たちは私を歓迎しているのだろうと微笑んだ。


「大丈夫?」


 船から降りるとイディス様が駆け寄ってきた。港には多くの人がいるから、今はフードを深くかぶっている。


「大丈夫です。あの、ご迷惑をおかけして申し訳ございません!」

「僕は迷惑をかけられた覚えはないよ」

「なら良いのですが……」


 未だに嫌われたくないという気持ちが出てきて、顔色を窺おうとしてしまう。

 こんなのじゃ駄目よね。

 俯いたからか、イディス様は私の顔を覗き込む。


「まだ体調が悪そうだし、長い時間の馬車移動もきついかな。今日はゆっくり休んで、明日、もしくはそれ以上日にちがかかってもいいし、ダリアの体調が良くなってから王城に向かおう」

「そんな! 私のことは気になさらないでください」

「僕たちは婚約者同士なんだから気にしないほうが変だよ」

「イディス様たちにご迷惑をおかけしたくないんです」

「迷惑じゃないって。君に話をしておきたいことがあるんだ。歩くには遠いから少しだけ馬車を利用してもいいかな」

「もちろんです」


 それから馬車に揺られて一時間も経たないうちに、イディス様は港近くにある、王家の別荘へと連れて行ってくれた。

 森の中にある白亜色の二階建ての洋館で、すぐ近くには使用人が寝泊まりする建物やガゼボが見える。

 屋敷の隣には伝書鳩の小屋があり、たくさんの白い鳩がいた。

 伝書鳩が気になると言うと、イディス様は見に行こうと誘ってくれた。


「可愛いです」


 動物が好きな私が伝書鳩を見て喜んでいると、イディス殿下は鳩の頭を撫でながら微笑む。


「とても人間に慣れている子たちだから触れられるよ。それから、この子がナナと僕たちの連絡役だ」


 黒色の足輪をつけた伝書鳩は、私たちのことなど気にせずに餌を貪っている。

 その姿も可愛い。


「この子たちでナナと連絡を取り合っていたんだ。リックス殿下も知っているし、彼とのやり取りもこの子ともう一羽が頑張ってくれてる」

「じゃあナナを置いてきたのは……」

「本当はナナも連れて帰るつもりだったんだけど、彼女の気持ちが整理できていなかったみたいだし、色々と確認したいこともあったから、連絡役をもう少し続けてもらおうと思ったんだ」

「そうだったんですね」


 ナナの背中を押してあげただけかと思っていた。私はまだまだ考えが甘いわ。


「リックス殿下から君が元婚約者からもらった粉の鑑定結果を教えてもらったんだけど

聞く?」

「お願いします」

「さすがに試したわけではないんだけど、薬師に言わせればやはり毒物だった。ただ、致死量ではないということだよ」

「致死量ではないって……、じゃあ、私を苦しめようとしていただけということですか?」


 尋ねると、イディス様は眉根を寄せて答える。


「ナナとリックス殿下が彼を騎士団に渡す前に聞き取りをしてくれるそうだから、詳しいことはすぐにわかると思う」


 どういうこと?

 苦しめようとしていたなんて、ロインはそこまで私を憎んでいたの?


「僕の予想でしかないし、もしそうなら、浅はかな考えとしか思えないんだけど……」

「何か思いつくんですか?」

「彼はラムラ王女を嵌めようとしていたのかもしれない」

「……どういうことですか?」


 意味がわからなくて、私はイディス様に説明を求めたのだった。



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