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11  ショックを受ける姉

 ナナと一緒にエントランスホールに着くと、お姉様が近づいてきた。


「お願いよダリア。あの方のことを教えてちょうだい。話をしたいのに、リックスがずっと話をしているの」


 お姉様の視線を追うと、フードを被ったイディス様とお兄様が少し離れた場所で話をしていた。

 こうなることを予想していたのか、お兄様はここでイディス様が来るのを待っていたらしい。


 今まで関わろうともしなかったお兄様がここまでするということは、今回の件で堪忍袋の緒が切れたといった感じかしら。

 ユーザス王国の成人の年齢は十八歳だから、それまで静かにしていようとしていたのに計画が狂ったのね。

 

「お姉様、心配しなくても大丈夫です。お姉様の言いたかったことはちゃんと伝わっていますから」

「伝わっているでは駄目なのよ」

「そんなに信用できないなら、あの方に話さなければ良かったのでは?」

「意地悪なことを言わないでよ」


 お姉様はハッとした顔になって、私を見つめる。


「もしかして、私の代わりに嫁がされることをまだ怒っているの? 落ち着いて考えてちょうだい。私が悪いわけじゃないのよ!」

「わかっていますよお姉様。あなたは《《海賊に襲われた》》被害者ですわよね」

「そ、そうよ。だけど、あなたには本当に申し訳ないと思っているわ。イディス殿下は穢れのない女性を求めているみたいだから、私では無理なのよ」


 ポロポロと涙を流し始めたお姉様を見て、彼女の侍女たちが心配そうに駆け寄り、私を睨みつけた。


「ダリア様、ラムラ様は繊細なお方なのです。言葉を選んでくださいませ」


 背後から現れたメイド長は冷たい声でそう言うと、お姉様を慰める輪に入っていく。ナナが何か言いたげな顔をしていることに気づいて止める。


「あなたはまだ正式にメイドの任を解かれたわけじゃないでしょう? 今、何か言うと色々とうるさいわよ。それに、彼女たちの終わりは見えているわ」

 

 ここを発ち、みんなの安全が確認できたら、私はイディス様やロフェス王国の両陛下に今回の話を正式にするつもりだ。そうすればお兄様は、お父様たちの悪事を暴き出して関与した者は排除し、お姉様の嘘に加担した人も処分するはずだわ。メイド長は海賊の話が嘘だと知っているから、確実に解雇されるはず。


「来ていたのか」


 近づいてきたお兄様は、私の耳元で囁く。


「父上が手紙を読まないものだから、イディス殿下が来ているということをメイドに伝えさせた。そろそろ来るはずだ」

「イディス様が来ているとわかったら来ないわけにはいかないですものね」


 お父様たちのことだ。どんなに醜い王子なのか確認したくて、こちらへやって来るでしょう。


「あ、あのっ!」


 お兄様とイディス様が離れたので、お姉様はイディス様に駆け寄ろうとしたけれど、彼は気づかないふりをして、屈強な兵士を周りに配置してから、御者と話し始めた。


「ちょっと! リックス! どうにかしてちょうだい!」


 お姉様がお兄様に文句を言った時、お父様とお母様が満面の笑みを浮かべてやってきた。お母様がお姉様に近寄り、小声で尋ねる。


「ラムラ、あなたも来ていたのね。どうだった? イディス殿下の顔は見たの? 噂通りに酷いものだった?」

「……え?」


 お姉様はぽかんと口を開けて、お父様を見つめる。


「使者と名乗っていた男はイディス殿下だったらしい。だから、フードを目深に被っていたんだな」


 お父様はイディス様に聞こえないように小声で答えると、嫌な笑みを浮かべた。


「ちょ、ちょっと待ってください、お父様! あのフードを被った方がイディス様だとおっしゃるんですの!?」

「リックスが言うにはそうらしい」


 お姉様が焦った顔をしているのを見て不思議そうにしながらお父様は頷くと、お兄様に目を向けた。

 お兄様は口元に笑みを浮かべて答える。


「私は何度かイディス殿下にお会いしたことがあるのですよ。あの方はイディス殿下で間違いありません」

「そ、そんな! じゃ、じゃあ!」


 お姉様の目に一気に涙が溜まった。お兄様はそんなお姉様に一瞬だけ冷たい視線を送ると、イディス様に声をかける。


「イディス殿下、お待たせして申し訳ございません。父と母がイディス殿下にご挨拶したいそうです」

「それは光栄ですね」


 イディス殿下が答えると、兵士たちは一斉に彼のために道を空けた。イディス殿下はフードを脱ぎながら、こちらに近づいてくると、私の横で立ち止まり、お父様たちに一礼する。


「イディス・トールンと申します。僕の妻となるダリア王女をお迎えにあがりました」

「そ、そんなっ!」


 驚きで何も言えないでいるお父様たちの代わりに、お姉様の悲痛な声がエントランスホール内に響き渡った。

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