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未来への挑戦状~過去からの謎解きは、未来へのエール~

初めての現代ものです。

週末、久しぶりに実家へ行ってきた。テレビで見た!とか言って母に呼び出され、2日がかりで断捨離をした。家を建ててから20年以上。貯めこんだ物たちはかなりの量で、一応同じ市内に住んでいるのに、帰ってきたのは次の日の夕方だった。今は、自分の昔の宝物らしきものを検分している。

明日からまた仕事があるが、最近はちょっと憂鬱。自分の仕事は順調だ。上司にも恵まれている。ただ…後輩が問題。仕事をさぼるとか、自分が教えるのに向いてないとかじゃない。何かこう…そりが合わないのだ。Z世代とかそういうのではなく本人の性質だろうが、私にとっては喉に小骨が刺さったような心地で、地味にストレスになりつつあった。



ふと、宝物たちのなかにとても懐かしいものがあるのを見つけた。プロフィール帳だ。イチゴ柄のプロフィール帳には、たくさんのプリクラが貼ってあって。つい中を開いてみた。裏表紙に何かわからないメモが貼ってあったが、それよりも一番前のページに目が行った。ライバルで親友だったあいつのものだった。恥ずかしいエピソードを書く欄に、『なし』と書かれた文字の跡と、本人とは別の筆跡で『放送委員会で放送事故』とあった。確か、放送室の音量を切ったつもりが、緊急放送のボタンを押していて、へたくそな漫才が校内どころか周辺の住宅まで響いたんだったっけ。思わず吹き出していたら、急に携帯が鳴った。電話の主は件の親友だった。





「よう、ナオ!ひさしぶりだな!」

「ダイちゃんこそ!去年の同窓会以来じゃない。」

次の週末、昔通っていた小学校近くの神社で親友ダイスケが待っていた。電話では、「近々、母校が閉校になるらしい。その前に、卒業の時4人で埋めたタイムカプセルを掘り出さないか」と言っていたので、楽しみにしていたのだが…

「あれ、カオリンとショーちんは?」

「ショータはなんか発掘許可がやっと下りたとかで、どっかの遺跡を調査中、カオリは…あ、連絡来た」

「ほんとだ、子どもが熱出したって、病院行って大事はなさそう、だって。よかった~。お・だ・い・じ・にっと、送信!ん?ってことはどうやって探そう?ダイちゃんは場所覚えてる?」

「いやおれもわからん。こういうのはショータがよく覚えていたからなぁ。しかし心配ご無用!こんな時のために作っておいた暗号がある!」

「暗号かぁ、あのころ妙に流行ってたよね!しかしなぜ暗号化してしまったのか…場所わかんないじゃん。一応暗号のヒントは見つけてあったけど…」

そう、プロフィール帳に貼ってあったメモは、このための暗号だったのだ。自分たちで作った3つのヒントの紙と、ショータが書いた場所を示す『なぞのかみ』だ。さすがショータ、絵はうまいがいろいろ書かれすぎて謎のこだわりを感じた。

「おっ!さすがナオ。ちゃんととってあったんだな!おれもショータも見つけられなかったから助かる!何を書いたかも覚えてないけど、ショータが『ちゃんと解けよ!』って念押してきたからさ、一緒に解こうぜ!」

ダイスケと一緒に『なぞのかみ』を覗き込む。剣や指輪みたいな小物や、桜や猫みたいな動植物の絵。ひらがなの【た】・【け】とカタカナがいくつか、紙の中に散りばめられている。

なんだか不思議な気分だ。まるで学校の振り替え休日に、子供だけで学区外の映画館に行った時みたいなドキドキとワクワク。大人になって久しくなかった新鮮で懐かしい気持ち。

まずは、ヒントのほうから解かねば。こちらもなぞなぞみたいになっていて意味不明だ。当時は大人に見つからないように、流行りのなぞなぞにしたのだろうが、今掘り出す自分たちが大人になっていることも考えておくべきだった。

ヒント3つのうち1つは自分の書いた字だ。もう1つはカオリのかわいい丸文字。最後はダイスケの雑でなんとか読める字だ。



まずは自分の書いたものを解こう。

紙にはただ一言『みんなで注文!』とだけ書かれている。

「そういえばナオ、クラスの女子のまとめ役ばっかやってたよな」

「え。何急に。そういうダイちゃんだって男子の中心だったじゃん」

「いやさぁ。クラスにガキ大将みたいのいただろ。そいつからショータかばってただけだから、おれはそういう感じじゃなかったというか」

「まぁ、あいつ中学行って不良っぽくなったし、ショーちんは気弱だったからなぁ。でも、ダイちゃんがいたからクラスも壊れなかったのだと思うよ。私のはカオリンが人気過ぎてトラブったってのもある」

「あぁ…。クラスのマドンナだったからな。誰が隣の席になるかでもめるレベル。でも女子にも人気だったじゃん」

「まっ、いろいろあったからね。私は声がとおるからまとめてたのもあるかな。ハキハキしゃべるから電話も…ってああっ!これサ〇宝石のことか!」

「サ〇宝石?」

「うん。可愛い雑貨が買える通販みたいなの。今はネット注文とかあるみたいだけど、当時は電話で注文するタイプだったの。それで、いくら以上だと送料無料になるから、学校にこっそりカタログ持ってって、みんなでまとめて注文してたの。お金もこっそりやり取りしたなぁ。」

「なるほどな。確かにナオは朗読とかも任されていたし、ハキハキしゃべるのは得意だったな!」

得意かぁ。そういえば、就活の時は特技とか趣味とかムリヤリ感で書いたけど、小学生の時ってくだらないことや些細なことが特技になってたような。もしかして、あの後輩もそういう些細なところをみつけてあげられたら、スムーズにやり取りできるかな。

「そんなこともあったね。とりあえずこれは、指輪がまず1つめのヒントだね。宝石ついてるし。絵に丸付けとこ」



「じゃあ次もどんどん解こうぜ!次はたぶんおれが書いたやつだけど、コレ考えたのショータだな。なんか中二くさい」

ダイスケの言う通り2つめの紙には『自分の存在を確かめるため、とがってみた』と書いてある。ショータっぽい言い回しだ。

「おれはなぞなぞ作るのがなんか苦手だったからな。だからショータが考えたんだよ。当時流行っていたものなんかあったかな」

「なんだろう?そういやショーちんとダイちゃんって、何きっかけで友だちになったの?それ関係あるかもよ?私とは確か給食のイチゴがきっかけだったけど」

ダイスケはイチゴが苦手だったらしく、給食の時困っていたところ、そうとは知らず私が奪って食べたことがきっかけで仲良くなった。今思えば不思議なスタートである。

「確か、ショータがガキ大将に何かを盗られて、それを取り返したのがきっかけだったかも」

「かなり横暴なやつだったからね。確かダイちゃんもいじられていた」

「まぁ。あの頃は身長低くて、チビチビってからかわれると、すぐキレるからいじられてたのかも。今は違うけど」

「そうだね!高校の時だっけ?にょきっと伸びたよね、身長。かっこよくなった」

「へっ!?そ、そうか。あっ、あれだ!『バ〇エン』だ、そのなぞなぞの答え。削っちゃうと転がしにくくなるけど。文房具じゃなきゃ学校に持っていけないから、ちょっとだけとがらせてたわ」

「じゃあ鉛筆が2つめのヒントだね。丸付けとこ」



最後のなぞはカオリのものだ。当時流行った小さめの丸文字は、私も真似したけど、うまく書けなかった。『手のかかるかわいい子』とは何だろう?

「そういえば、カオリとナオのほうは、どんな風に友だちになったんだ?」

「いやさ、さっき言ってたこととも関係あるんだけど、カオリンは美人さんだし家柄もよかったし、おっとり系に見えるじゃん。ただ、女子の中にはそれが気に食わない!的な人もいたの」

「おぅ…女子コエー…」

「でもカオリン、他人の悩みを解決というか、聞き上手でさ。話の場さえあれば、最終的にみんなカオリンを頼りにするんだよ。そのための仲裁をしていたら、なんかすごく仲良くなった」

「確かに、カオリはなんか…敵に回してはいけない感がある」

「いや、そこまでではないと思うけど?プロフィール帳とかにヒントないかな?」

「おっ、準備がいいな。そしてナオはイチゴ好きだなぁ」

「うん。当時はイチゴ柄が自分のブームだったからね。」

『なぞのかみ』を挟んでおいていたイチゴ柄のプロフィール帳を出す。話のタネにと持ってきたものが役に立ちそうだ。

「好きなものに、たま〇っちって書いてるぞ。懐かしい。ショータの絵に卵もあるし、これじゃないか?」

「いや待って。なんか違う気がする…あ、ネコが答えかも。」

「え、なんでネコ?」

「たま〇っちって育て方で進化先が変わるじゃん。私はよくほったらかしにするから、ニャッチってキャラになってばっかだったの。でもまめに世話してたカオリンは一番優秀なミミッチになって長生きしてて、私はそれが羨ましかったなぁ。でもカオリンは『手のかかる子の方がが好き!』とかで、むしろ私のことを羨ましがっていたっけ」

「なるほどな、じゃあこれはネコがあたりか。丸付けとこ」

ダイスケが丸を付けるのに『なぞのかみ』を渡したとき、プロフィール帳の一文に目がいった。私の印象を書く欄にカオリは『手のかかるかわいい子』と書いていた。仲裁や男子のアプローチからカオリを庇う事もよくあったけど、気付かぬうちに私は彼女に守られていたのかな。

そういえば、些細な人間関係の悩みが生まれたのは、カオリと違う学校に行くようになってからだ。私はどうも無意識に他人の目を気にしている、とカオリに言われたことがある。当時はまさか!と思ってたけど、今の後輩に対するストレスもそこから来ているんじゃなかろうか。後輩も私のことが苦手で反応薄いんじゃなくて、元よりドライな子なのかも。なんだか急に目の前が開けたような気分だ。



3つの丸印をつないで三角形を作ると、中心にイチョウの葉があった。三角形の線上には【オ】、【た】、【ス】、【け】の文字がある。

「イチョウの木って学校の東側にたくさん生えているよね。どの木の下だろう?おたすけって、なんかダイイングメッセージみたいだし、ぶっちゃけ今私たちを助けてほしいな」

「言えてる。まぁ多分だけど、これもヒントなんじゃないか?【オ】と【ス】はカタカナだな。オスのイチョウは確か一本しかなかったはず」

「そっか!確かに銀杏がならない木が1本だけあったね。じゃあ行こうか…ん?」

早速埋めた場所に行こうと思ったけど、何か違和感があった。この違和感は何だろう?

「ん?どうした?行かないの?」

「いや、教科書みたいな字を書くショーちんにしては…このひらがな、なんか変じゃない?」

「え?…ほんとだ。なんかバランスが変かも。無理やりくっつけたみたいな」

「っ!そうか!ギャル文字!ひらがなじゃなくて、これ全部カタカナなんだ!『た』はナとニ、『け』はレとナだよ」

そうしてできた6文字を並べかえてみてできたのが、

「スナオニナレ…?あれ、隠し場所とは関係がなさそうだね。じゃあ今度こそ行こうか…ってどうした?」

読み上げた内容にダイスケはかなり変な顔をしていた。





タイムカプセルは暗号通りの場所に埋まっていた。木の陰だったからか、誰からもいたずらされていないようだ。ふたを開けると土のにおいと久しぶりに読む本みたいなにおいがした。

中にはバ〇エンもたま〇っちのキーホルダーも、サ〇宝石で買った当時のお気にいりの髪留めも入ってる。ヒントのつもりだったのだろうが、中に入っていてはわからないよなぁ。ほかには手紙が何通か。ふと『未来の自分へ』と書かれた私の手紙を見つけた。

中を開けると、たった一言、「わたしなら大丈夫!」とだけ書いてあった。そうだ、周りがどうしようとわたしは私だ。焦ったってなにもうまくいくわけがない。なんだか今日一日で過去の自分にたくさんエールをもらったような気がする。

ちょっと晴れやかな気分で顔を上げると、真剣な顔のダイスケと目が合った。手には大分くたびれた感のある封筒を握っている。ダイスケらしくない、かわいいイチゴ柄の封筒は、まるでラブレターのような…

「あのさ、おれ昔からずっと言いたかったことがあるんだ。きいてくれるか?実はおれずっと―――!」

「…ふぇっ!?」


私の人生はまだまだこれから輝くようだ。


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