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夏を見て、冬は死す―  作者: やきぶたたまこめし
9/27

琴の想い


    3、




      ―星菜―


 夏も終わってしまいそうなくらい、秋が近づいてきた。

 まだまだ暑さは本物だけど、景色は変わり始めている。

 桜の木の枝の先には、燃えるような鮮やかな青緑が咲き誇っていたのに、少し赤や朱色が混ざり始めていた。

 あの日、裕から話を聞き、「夏見町脱出計画」を企て始めた。

 計画を実行に移すにあたって、琴にも話しておきたい、と思っている。それは裕にも了承を得た。そして今日の下校時、裕と琴と私の3人で集まって、話をしようと約束していた。琴ならきっと、来てくれるだろう。

 最近なんだか、空の青さが淡い色になってきているような気がする。濃い群青だった青に、少しフィルターが掛かっているよう。

「おねぇちゃーん!」

 背後から琴の声が聞こえ、振り返る。

 あれから、計画を立てたり、裕と集まる時は東雲川沿いの丘の上で集まっている。あそこなら滅多に人は来ないし、裕の家からも私の家からもそう遠くないのだ。計画を立てるために集まる場所としては、丁度良かった。まあ、あそこの居心地が良いから、というのもあるのだけれど…。

 今日は、そこに琴を呼び、私の口からちゃんと話そうと思っている。

「琴ちゃん!よく来たね。」

 芝生の上を駆けて、琴は私の胸に飛び込んできた。

「お姉ちゃん。琴、一人でよく来たと思わない?」

「うん、よく来たね!」

 そう言って、琴の小さな頭を撫でてあげる。

 そうすると琴は、満足そうに私に笑いかけてくれた。

「星菜。琴ちゃん。」

 気づけば琴の後ろに、裕の姿が見えた。

「みんな、やっと揃ったね!」

 私たちは、桜の木陰に腰を下ろした。

「お姉ちゃん、裕くん。話って、なに?」

 不思議そうに首を傾げる琴に言う。

「あのね琴ちゃん。驚かないで聞いて欲しいんだけどね―」

 私は、琴に裕から聞いたすべてを話した。

 琴は話を聞いている間ずっと、東雲川の川水を眺めていて、聞いているか少し不安になるくらいだった。

 私が話し終えると、琴は私に向き直って、言った。

「お姉ちゃん、私ね…。」

 琴が上目遣いに私を見た。

「うん。」

「知ってたの。そのこと。」

「え…!うそ!」

 琴は、私が言ったことを全て知っていたのか…。

「ホント…。」

「なんだぁー!早く言ってくれればよかったのに!」

「うん…。ごめん。」

 申し訳なさそうに俯く琴に、気になったことを聞いてみた。

「琴ちゃんは、どうやって知ったの?」

「お姉ちゃん、私ね。前から、この町にも、お姉ちゃんにだけ厳しいお母さんとお父さんにも、少し疑問があって…。一度、裕くんに聞いてみたことがあったの。…その時に、教えてくれて…。」

 琴は今までそんな素振り見せたことがなかったし、少し驚いてしまった。

「だよね?裕くん。」

「うん…。黙っててごめんな。」

 裕も申し訳なさそうに私を見た。

「ううん、いいの!」

 裕と琴にそう言って笑いかけた。

「あのね、お姉ちゃん。私、知ってたけど、お姉ちゃんが言ってくれたことが嬉しい。お姉ちゃんが、自分から『私に言いたい』って言ってくれたことが嬉しい。私も一緒に、逃げたい!」

 琴が可愛らしい笑顔で笑った。

「うん!一緒に逃げよ!」

 暑い夏が終わり、『秋』が近づいてきていた。


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