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故郷

「よってらっしゃい見てらっしゃい! 安くしとくよー」


 私は途中の村に寄っては商売をしていた。少し時間はかかるけどこれも人助け。馬車を2台も用意した甲斐があったよ。

 いつか近くに支店を作る時は名前を覚えていてくれるかもしれないしね。


「この魔道具なんかどうですか? 家事を早く終わらせられて便利ですよ」

「うちの村でそれほどの大きさの魔石を用意するのは難しいよ。そのために町まで買いに行く事になる。悪いけど家事に役立つだけなら遠慮しておくよ」


 こうして生の声を聞くのも目的の1つ。商会が大きくなって町にも店を構えるようになると、どうしても小さな村の声が私まで届きにくくなるからね……。


「教えてくれてありがとう。おまけにこのネックレスをどうぞ。娘さんに似合いますよ」


 その日はこの村で1泊させてもらって次の村へ。そしてついに懐かしい景色が見えてきた。


 低く薄いけど、なんだか頼もしい木の壁。反対側に小さな穴があって私はたまに抜け出しては怒られていた。

 あっちにあるのは村唯一の酒屋。オーナーは体格が良くて村1番の力持ち。怒ると怖いけど妻に逆らえないのは有名な話。


 今日も門を守るのは狩人の三男。臆病で狩りを嫌がるから、よく門の見張りをさせられている。

 でも弓の腕は良いから、後は度胸さえあればと狩人はよくボヤいてる。


 出ていく時はなんとも思わなかったけれど、いざ帰ってみると見る物全てが懐かしい。まだ数年しか経っていないはずだけどなー。

 故郷を捨てて村を作ったガルドさんの覚悟が改めてすごく感じるね。


「ん……あ、おい! 村に入るには身分証を……ってアオバじゃないか! やっと帰ってきたのか」

「また居眠りしてたでしょ。ちゃんと門番しないと後で怒られるよ。ちょうど近くを通りかかったから寄っただけだよ」


 手紙を見てわざわざ来たというのはなんだか言いたくなかった。


「あぁみんな喜ぶはずだ。お前の家族心配してたぞ。気づいかない間にそんな馬車に護衛まで付けて。冒険者になるんじゃなかったか?」

「あはは、事情はまた話すよ」


 黒エルフ達に馬車を任せて私は1人で歩き始めた。彼らには広場で小さな市でも開いていてもらおう。


「ただいまー」

「おかえり!」

「いたっ」


 扉を開けるなりお姉ちゃんが飛びかかって押し倒された。

 お客さんがビックリしている。待っているけど良いのかな。まぁ村人みんな顔見知りだし大丈夫か。


「重いよー」

「重くない!」


 そう言いながらもお姉ちゃんがどいてくれて気づいたけど両親がいない。


「お父さん達はなんか村長に呼ばれて外に行ったよ」


 お姉ちゃんがそう言い終わらないうちにドアが勢いよく開かれた。

 だからお客さんビックリしちゃってるってば。


「おぉアオバ。帰ってたのか。それより魔物の群れが村に向かっているらしい。戦えない者は念の為に倉庫へ避難しておくように村長が」


 それよりとは随分な挨拶じゃん。でもそういう事なら……


「私に任せて!」




 広場に向かうと、もうみんな集まっていた。家族は良い顔をしなかったけど、冒険者がいなくて魔物に農民が立ち向かうこの村で私が隠れているわけにはいかない。


「これも護衛の仕事のうちだ。俺らにも手伝わせてくれ」

「ありがとう。村のみんなも守ってあげて」


 私が加わるのを見た黒エルフ達も加わった。彼らがいればなんとかなるでしょ。


 20分後には魔物が来た。南からゴブリンの群れ。北からオーク。西からもゴブリン3匹。


 私は西の担当にさせてもらった。1人で大丈夫か心配されたけど、たまにならしておかないと剣術がなまっちゃうからね。


 冒険者時代はゴブリンなんて10匹以上でも倒せた。このくらい一瞬で片付けて……剣を弾かれた。


 やばい! 反動で一瞬固まったものの、別のゴブリンからの攻撃をすんでの所で避ける。

 私への攻撃を外して態勢を崩したゴブリンを狙って……避けられた! こいつらの連携が厄介だな。


 1匹倒すのに以前の3倍くらいの時間がかかった。私やばくない? もっと剣術の授業真面目に参加しよ……。

 冒険者が楽しくてなったんだし、たまにはそっちの仕事もしよっと……。


 数が減って次のゴブリンをたおそうとした所。後ろから悲鳴が聞こえてきた。


「やめて! 来ないで!」


 1人逃げ遅れてる! あの子は農家の娘で勝てるわけが無い!


「ウルフ。ここのゴブリンを一掃しておいて!」


 距離は多分100メートル。敵は建物の陰になってるけど、相手はゴブリンかオーク。身体強化を使えば間に合うはず!


 敵が姿を現す。狼だ。速すぎる。

 間に……合え!

 残り50メートル……20メートル。敵は飛びかかる準備に入った。これじゃ……。


「後ろに下がってろ!」


 黒エルフが飛び出して攻撃を腕で受け止めた。なんでって彼は魔法使いか。もう片方の手で初級魔法を出して吹き飛ばした。


「すみません! 冒険者様、私のせいで……」

「気にしないでください。マス、商人さんに頼まれた仕事をしただけです」

「あなたは私の命の恩人です。仕事に一生懸命な人かっこいいです。私本当に尊敬します!」


 うん。とりあえず危険は去って良かった。少しめんどくさい事になった気がするけど。

 褒めて欲しそうに尻尾を振りながら戻ってきたウルフを撫でて忘れておいた。




「さぁ今日は皆さま遠慮せず食べて飲んで騒ぎましょう!」


 その夜は祭りになった。大量のご飯とお酒、普段は勿体なくて5日に分けて食べるはずの豚の丸焼きまである。


 村の広場で村中の人が真ん中の焚き火を囲んでいる。さっき助けられていた子はいつの間にか、あの黒エルフの横を陣取って楽しそうに話している。

 私も今は自然に楽しんでいいよって言っていたから黒エルフ達も今日はお酒を解禁だ。


 今までこういう風に魔物撃退しても祭りはしなかったはずだけど。

 私は横に座っていたお姉ちゃんに聞いてみた。


「こんな豪華なお祭りどうしてやる事になったの?」

「もう忘れたの? もうすぐクレイ祭でしょ。今日は色々あったし少し前倒しでやろうって事になったのよ」


 あぁそういえば。クレイ祭は数週間後だっけ。

 うん? そういえばブラックリ村の人はこのお祭りを知らなかったな。この辺だけのお祭りなのかも。


 これも帰りに調べていこうっと。でもそんな事より今は久しぶりの故郷を楽しもう。



 滞在期間はあっという間だった。前のままだった私の部屋。久しぶりのベッドを簡単に整えてドアを閉めた。

 ここしばらくは、この小さな村で唯一の商店の店番として心穏やかに過ごす事が出来た。


 この穏やかな村で店の手伝いをしながら過ごす一生も気にならないというと嘘になるけど……ダンジョンマスターの刺激的な生活をもう少し楽しんでからにしよう。


「じゃあまたね。お姉ちゃん」

「今度はもっと早く帰ってきてね。なんなら私がそっちに行っちゃうかも! アオバの店がどんなものか研究して私もビッグになろうかな」

「その時は歓迎するよ……多分あの子も」


 帰りは1人増えている。黒エルフに助けられたあの子が急に村の外の世界を見たいとか言い出して私の村に移り住むって言い出したからさ。


 仕事は、まぁ何かあるでしょ。もともと周りと上手くやれる子だし。

 村の門を抜けると商会長の頭に切り替わる。他の村の祭りを調べてみよう。

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