鉄道
”さぁ行こう! 広大な大地で第二のモンスター生!”
村役場、もとい今は役所と呼べるくらいまでランクアップしたゼロフロアを管理している場所が貼ったポスターを横目に駅舎からホームに降りる。
「このポスターはキングの発案でしょ? 前に内陸部がもったいないって言ってたもんね」
「よく分かりますね。マスターがゼロフロアの経済を混乱させないためって強制移住とかを禁じているから私が苦労しているのです」
キングにしては珍しく私に文句の1つも言うほどには疲れているみたい。まぁこの鉄道も急いで作ってもらったから仕方ないか。
これが終わったら数日は休ませてあげよう。
ホームに降りると”ファーストル駅”と書かれた看板が立っている。これはゼロフロアで1番先に出来た町と言う意味で付けられた名前だよ。
今まで村って呼ばれてたけど、他の町も出来てくると分かりづらくってさ。ちょうど先週のゼロフロア会議で全部の町の名前が決まって、大急ぎで作られた看板だからまだピカピカ。
今のところ、この先には2つの駅しかない。海から離れた小さな村とさらに奥のゼロフロアで4番目の町だ。今後はさらに内陸まで伸ばす予定になっている。
ホームの周りには噂を聞きつけたモンスターでいっぱいだ。みんな新しい物にワクワクしてる。
「皆さん大変お待たせしました。ゼロフロア鉄道、出発進行!」
私自らが車掌室から命令を出すと列車はゆっくりと動き始めた。速度は馬車の2倍くらい。
しかも今の列車は5両編成。荷物と人でパンパンな事を考えると馬車なんか比べ物にならない。それに馬と違って疲れないから途中で止まらない点は感動ものだね。
乗り心地も試してみようと、車掌室を出て客室に移った。今回は3両が客室になっていて40人ほど詰め込まれている。
ちなみにチケットはだいぶ高騰したからかなり儲かった。まぁ外のお金じゃないし意味は薄いけど。
「そういえば、どうやってこんな面白い物見つけて来たの? 機関車なんて首都でも見た事ないよ。馬車鉄道ならあったけど、もっと小さかったし」
気になっていた事を横で浮いているエリーに聞いてみる。馬車よりマシでも少し揺れる車内でのんきにフワフワ出来るのは羨ましいな。
「情報部からの報告です。どうも外国に派遣されている職員が現地の技術者と仲良くなったらしくて、その時にこの汽車を買ってくれって頼まれたらしいですよ」
「え、じゃあ頼まれてまんまと買ったわけ? これ結構高かったのに」
「さすがに他の職員を派遣して性能を試してからですよ。そんな事してたらマスターの前に私が許しません」
「ビックリしたぁ。どっちにしてもいい物見つけられて良かった。他の人が気づく前に、少しでも私が鉄道をひけば……うふふふふ」
捕らぬ狸の皮算用をしながら窓の外を見る。ちょうど少し高くなっている所を走っているせいか、遠くの方には小さな海沿いの町が見えた。
「あの町も今はゼロフロアでトップ5にも入ってないんだよね。ダンジョンが出来たばかりのファーストルは、もっと小さかったのに」
窓を開けると涼しい風が入って来る。海が太陽を反射している光がまぶしくて目を閉じると段々眠くなってきた。
ポッポー。
こんな所まで船の汽笛が聞こえてくるんだ。子守歌にはちょうどいいな。
「今のは汽車の汽笛です! トンネルに入る合図です。寝てる場合じゃないですよ! さっさと窓を閉めてください!」
「うわっ! 急に耳元で叫ばないでよ。トンネルが何……」
言い終わる前に目の前が真っ暗になった。
ゲホッケホッ。なんか口の中がジャリジャリする!
慌てて窓を閉めたけど煤はまだ入って来る。トンネルを出てしばらくすると、やっと空気が綺麗になってきた。そう思った矢先にまた煤が降ってきた。
「うわっ。なんでこんな所で降ってくるの」
「おや、こんな所にいたんですかマスター」
上を見るとエリーが高速で回転して体に着いた煤を落としていた。
エリーのふざけた形をした胴体を足で挟んで痛めつけながら問いただすと罰だという。
「なんの罰だっていうの。何もしてないでしょ」
「何もしていない罰です。駅員のゴブリンがトンネルの注意点を説明している時に話を聞いていましたか?」
「……い、いいえ」
そんな事をしていると、横の座席のモンスターと目が合った。エルフらしい整った顔立ちが真っ黒で台無しになっている。
目だけが白いのが面白くて笑うと、向こうも笑いだした。私の顔も同じ感じなんだろう。
その人に地図を見せてもらって、確認するとこの先にトンネルは無いらしい。私は安心して眠りについた。
もうすぐ着くという事で乗務員に起こされた。終点の町にも多くの住民が見物に集まっているのに、さすがに寝たまま到着はカッコ悪い。
列車から降りると大きな拍手に迎えられた。試運転はしてたとはいえ、多くの人を乗せての運航は初めてだから成功してみんな喜んでいる。中には交通アクセスが良くなった事で商売に良さそうだとガッツポーズをするモンスターもいる。
「この顔の跡を見てください。マスターが快眠できるくらいに快適な旅でしたよ」
エリーがそう言うと観客たちは笑いに包まれた。
「なんでそんな事言うの。秘密って言ったじゃん」
「こうした方がモンスター達が安心して使ってくれやすくなるでしょう?」
そう言われると何も言い返せない。やるようになったなコイツも……。
何はともあれ、この成功で私はブラックリ村での大規模な鉄道建設を決めた。最初はマイカ子爵の町、さらにお金が入り次第もっと線路を伸ばせば今は遠すぎて商品を届けられない地域にも、ダンジョン産の物を売りにいけるはずだ。
キング達と話し合って予算も決まった。情報部のエルフ達に協力してもらえれば、外の世界での鉄道も予想よりも早く完成しそうだし悩みは解決。
このまま後はエリー達に任せて、明日からまた学校だ。せっかく通ってるんだから欠席は出来るだけしたくないもんね。
それにシアンちゃん達をあまり心配させるのも悪いもん。




