渋滞対策
領軍創設から1週間前。ダンジョン第4層。
「ついに来ました。冒険者の大人数パーティーです!」
斥候役のホブゴブリンの報告を聞くのは私、シリウス・ドレイク。マスターに350匹のモンスターで迎撃するように命令された。
「敵の内訳は?」
「重戦士が5名、弓とヒーラーが2人ずつ、軽装の剣士も2人います。そして魔法使いが3人の計14名パーティーです」
アオバ様から相手の情報は一切知らされていない。
こちらの戦力はゴブリンが300匹、うち50匹は魔法が使えるメイジだ。それとホブゴブリンとゴブリンジェネラルが15匹ずつとなっている。ウルフも10体いる。最後に虎の子のオーク10体。
数では大きく勝っているが、冒険者に団結されると350は心許ない数だ。とはいえこの大きくは無いダンジョンにこの人数でくるという事はランクはそこまで高くは無いだろう。悲しい事だがAランクとかなら、やろうと思えば1人でゼロフロアまで到達可能だろうからな。
低ランクという事は敵との戦闘経験も少ない。囲んで退路を断てば何人かはパニックを起こすかもしれない。それとも別の手を使うべきか。
地形を再確認するか。
敵が入ってきたのは、この地図だと1番上。上から順に小さな廃村、川、そして私がいる廃町へと続いている。この町の1番大きな建物の奥にダミーのダンジョンコアがあるから、それを守れというのが命令だ。
廃村から右に行くと丘があるが……合流するには遠いな。途中で見つかる危険がある。
廃村にいるモンスター達70匹はここに移動させておこう。村よりかは戦いやすいだろう。守るべき住民もいないしな。
ウルフに乗せたゴブリンを伝令に向かわせる。ウルフは10体しかいないから全員探索か伝令用だ。
ふむ、川のこっち側は森林地帯か。よし。
「おい。そこの君、川にある橋を燃やしておけ。敵に使わすな」
そして私は残ったモンスターを2つに分けた。一部は町に残していく。万が一見失った時にコアを守るためである。
「結局被害はモンスター280匹。エリーはどう思う? なんか被害大きくない?」
私は一部始終をマスター画面を使ってエリーと一緒に眺めていた。私の準男爵領に軍隊を導入する前に、アングル王国に長い間送っていたシリウスの能力チェックってわけ。
「やられたモンスターのほとんどはゴブリンです。それに対して冒険者側の生き残りはDランクが4人です。ポイント的にはだいぶコスパいいですよ」
「確かに。生かしておくように途中で指示した人はちゃんと生きているし、モンスター達をしっかり管理出来ているわけかぁ」
今回はモンスター達に、ひどすぎて従えないシリウスの命令には従わなくても良いと伝えていた。シリウスに期待しているのは外で人間を指揮するわけだからね。ダンジョンモンスターと違って人間は何でもはいはいと言う事を聞くわけじゃ無い。
そういう事を考えると、この出来だったら満足。安心してシリウスに軍を任せよう。これで最近増えた魔物の襲撃から領民たちを守ってあげられるでしょ。
そして現在。兵士達には、まだ建設途中の砦の代わりに別の空き地で訓練してもらっている。
私は彼らの給料分、モンスター運輸とか商会で稼がなきゃ。
「私の快適な生活のためにもね」
「むしろそれが目的じゃないですか?」
いつの間にかアカネに独り言を聞かれていたっぽい。
「……いや、違う……よ」
「だいぶ間が空きましたね」
何はともあれ、そのためには今ある問題を解決しないといけない。私は村の入り口に目を向けた。
馬車が1、2、3……2桁はいる。
今は見違えるほど大きくなったけど、ブラックリ村は元々小さな村だった。行商人なんか滅多に来ないし、道はそのための大きさしかない。
しかも昨日の夜は雨だったからね。どっかで道がぬかるんで車輪がはまっちゃったのか、行列が長い。
「他の商人がどうしてるか聞いたら良いんじゃないですか?」
「前に商人仲間のジョージさんに聞いたけど、普通は仕入れ先を変えたり生産場所を変えるんだって」
「うちは出来ませんね。仕入れ先は一ヶ所だけなので」
ダンジョンしか無いもんね〜。ブラックリ村まで川が繋がってたのは本当に助かったよ。ダンジョンから馬車の行列なんか作れないもん。
「でも幸い私はここの領主。もう既にマイカ子爵に許可をもらって石畳の道を敷いている途中だよ。ただそれじゃ足りないから……前にゼロフロアで作ってもらっていた物があるんだ。ちょうど数日で完成ってさ」
結局それから6日かかった。ちょうど金曜日に連絡が来たから学園が休みなのはラッキーだ。それでも空を飛ぶ籠が無ければ帰れなかっただろう。
今ので思い出したけど、ありがたい事に多くの貴族たちや商人が自家用にと契約してくれたおかげで、だいぶ儲ける事が出来た。
怪鳥と運転手役のエルフはお金をポイントに交換すればすぐに用意出来たけど、籠はそうもいかなくてね。それでもそろそろ最初に入った大量の注文はさばけきれそうだ。
籠と言っても空を飛ぶわけだし、色々な工夫いるから時間がかかるんだよねぇ。やっとノウハウも作りやすい道具も完成してきたし、今後は大量に作って安くするかな。今の値段だと小規模な商人や貴族と契約してもらうのは難しいし……。
「ほら、もうすぐ着きますよマスター」
考え込みすぎてアカネに肩を揺らされるまで気づかなかった。
「ありがと。なんかあっという間だね」
「ずっと1人で唸ってたんですからそりゃ早く感じますよマスターにとっては。いつもは何も考えてないのに、たまに自分の世界に行くんですから」
失礼な。べ、別にいつもから何も考えてないわけじゃないよ。
でもアカネなんだか不機嫌だし謝っておこう。
「ごめんごめん」
4階層まで行くと冒険者に扮してブラックリ村に住んでいる黒エルフが待っていた。日中で同じ階層に人間がいるから、収納したってアカネはマスタールームを使った移動が出来ないから歩いて合流だ。
今は領民保護を目的に立ち入り禁止としている5階層への階段をバレないように下る。アカネはやっとしっぽを出せて快適そう。笑顔で階段を1段飛ばしで降りていく。
案内役の黒エルフが3人上がってきた。
「キング様もエリー様もお待ちです。駅へ行きましょう。マスター」




