モンスター運輸
私はマウンテ子爵と呼ばれている。シアンと他数人の子供たちの父親だ。
領地が辺境すぎて貧しい生活が続いているが、まぁ慣れれば悪くない人生だと思う。
「初めまして。私はアオバ・ブラウン準男爵です。お招きいただきありがとうございます」
娘が突然友達を連れてきた。もともと明るい方では無い娘が友達を連れてくるなんて珍しい。妻も心配していたから良かった良かった。
「我が家だと思ってくつろいでいってくれ」
娘の手紙にたまに書かれていた子のうちの1人だろう。相手の家は準男爵らしいし、何か大きな功績を残したんだろう。そのうち親御さんにもご挨拶しにいかないとな。
「お父さん、アオバさんと3つの村を回る予定だから今日は帰りが遅くなるかも」
「おいおい1日でまわれ無いのは良く知ってるだろ? すぐ隣の村でも山2つを越えないといけないんだぞ?」
「大丈夫です。空から行くので」
空から? 何を言ってる。馬車に乗って帰って来たんじゃないのか?
気になって2人に付いていくと巨大な怪鳥が現れた。
「2人とも危ない!」
とっさに剣を抜いて駆け寄る。これでも修行は続けている。怪鳥相手でも逃げるくらいの時間は……!
「大丈夫ですよ。これは私の家臣の使い魔ですから」
そう言うアオバくんの横でエルフが怪鳥に指示を出していた。良く見ると確かに怪鳥の足に紋章が書かれた旗が描かれている。見覚えは無いが、向こうの家は最近爵位を得たばかりだからだろう。
しかしこの怪鳥は他の奴らとレベルが違う。大きさがそこらの奴より桁違いに大きい。おそらく長年生きた、特に強力な個体だろう。
これほどの魔物をテイムするとは、どれほど優秀なテイマーなのだろうか。
あのエルフなら政府に高給で雇われる事も出来るだろうに……軍でも他の大商会でも思いのままだろう。
ブラウン準男爵家か。この家には何かある……。ぜひ今後とも仲良くして欲しい所だな。
2人はあれから実際に他の村を周ってきたらしい。日が暮れる頃には家の庭に着陸した。しかも他の村の管理に散らばっていた子供たちまで連れて。
近くとはいえ全員往復に時間をかけられるほど暇では無いので、家族のほとんどが揃っての食事なんてあまりできない。これは感謝しとかないとな。
飛行船とやらは、そのままアオバくんの領地に帰っていくらしい。また明日来るのだとか。そんな速いとは驚きだ。
夕食の前にアオバくんは自分の部屋に入っていった。中からは何やら話し声のようなものが聞こえる。少し怖い……大丈夫か?
メイドが普段より少しだけ……本当に少しだけ良い料理を運んでるのを眺めながら娘になんとなく話しかけた。
「いやぁあの乗り物は羨ましいな。あんな物が我が家にもあればなぁ」
「あれ? お父さんに言ってませんでしたっけ? 今日はあのうち1隻を貸してもらう交渉のためにアオバさんを呼んだんですよ?」
娘よぉー!! そんな大事な事はもっと早く言いなさい! 何も準備してなかったじゃないか!
「……ん? しかし失礼な言い方だけど、あんな子供がそんな事を任されるはずないだろう。もしかしてさっきの飛行船に乗ってご両親も来るのか?」
そうなると困るな。さすがに貴族家当主を招くには食事が貧相すぎる。いくらなんでも顔合わせには適さないだろう。
「ううん来ないよ。アオバさんだけ。だって彼女が当主だもん」
「今なんて?」
もしかしてご両親に何か不幸が……いや、準男爵家は基本的に世襲できない。という事は彼女が、あの歳で爵位を貰えるほどの功績を打ち立てたと?
だからそういう事は早く言え娘よ! 領地が近い貴族とは仲良くするようにいつも伝えているだろう……全く忙しくなりそうだ。
なんかシアンちゃんのお父さん慌ててたけど忙しい時期にお邪魔しちゃったのかな。
それなら悪い事しちゃったね。お詫びに何かした方がいいかな。そう考えているうちに数少ない使用人が食事を運んできた。
う~ん? テーブルにはシアンちゃんから聞いてたのより明らかに豪華な料理が並んでいる。そりゃマイカ子爵とかと比べると微妙かもしれないけど、辺境貴族の夜ご飯とは思えない。
もしかしなくても私のため? な、なんか悪い事しちゃったなぁ。でもただの子供の友達にこれほどの料理を準備出来るって事は思ったよりも家が裕福なのかな?
「それではみんな手を合わせて」
「「「いただきます」」」
7人ともなると賑やかな夕食になる。みんなお客さんが珍しいのか結構私に話しかけてきてくれて嬉しいな。
「これ美味しいから食べてみてよ」
「ねぇどの辺に住んでるの?」
「君かわいいね」
おい最後。きみ婚約者いるって聞いたぞ。あっシアンちゃんに頭叩かれてる。グッジョブ。
でもなんだかんだ多くの人との食事は楽しかった。私も実家に帰らないとなぁ。
さ、食事が終わると仕事の時間だ。コバルトさん、シアンちゃんと3人で応接間に入る。
「娘から聞いたんだが……あの飛行船1隻を提供してもらえるとは本当かね?」
「えぇ。今日乗ってきた奴よりも小さなやつですけどね。それでも近くの町と毎日2往復くらいすれば結構な物や人を運べますよ」
1隻に1人は人化を覚えた黒エルフが必要な以上、ミニっていっても小さな馬車くらいの大きさがある。今までのなかなか来ない交易商とは桁違いだ。
「ミニでもそんなに大きいのか。ぜひ借りたい。いくら払えばいい?」
「私とシアンちゃんの仲です。原価ギリギリにして……1か月で1800万コインといった所でしょうか?」
実際はもっと原価は安い。だってテイマーも怪鳥も自前だもん。とはいっても、あんまりに安いと逆に不安にさせちゃうからね。どうせ私の真似を出来る人はそんなにいないんだし、ちょっと安めなのは本当だよ。
「そ、そうか。まぁそれくらい高いよな。しかしうちでは……そんな大金を用意できない。この話は無かった事に……」
「と、言いたい所ですが」
突然の希望の言葉にコバルトさんは私の話を食いつくように聞いている。これは相手もだいぶ本気度高そうだね。
最初はこうなるだろうと思ってたけど、村々を見て回って考えが変わった。
マウンテ領の人口は合わせれば6000人近く。そこらの町より多い。なのにこんなに領主が貧乏なのは村々へ交易商を送る赤字が高すぎるせいだ。
しかもほとんど物流が無いせいで、どの村も自給自足みたいな状態。外からのお金なんて入ってくるわけない。そりゃ貧乏だよ。
でも飛行船があれば変わる。
「いくつか条件があります。全ての村の発着場と周辺の土地の使用権を貸す事。領内での私の商売の自由を認める事。この2つさえ許してくれたら500万コインで大丈夫です」
これだけの人数に物を売る事が出来たら、ジョージさんとの店に並ぶ利益の柱になってくれるはず。あの店だけに頼りきるのは怖いからね。
この辺にも特産品は色々あるからそれを買って町で売れば、ここの人たちの収入源にもなるでしょ。
何より交易商の莫大な赤字が無くなる取引。コバルトさんにとって悪い事なんて何もない。
「交渉成立ですな」
「これからよろしくお願いします」
私はコバルトさんと固く握手を交わした。飛行船事業の最初の仕事だから絶対に成功させなくちゃ。
ちなみにルートは、マイカ子爵の町からブラックリ村を通って、この領内の村を順に周っていく計画。途中で満杯になったらブラックリ村で荷物を下ろして帰って来るって感じに決まった。
「そう言えば契約書に商会名はなんて書けばいいでしょう?」
え、うーん考えてなかっなぁ。今までも店とかってしか呼んでなかったし。でも今後は名前を売ってく面でもしっかり決めとこうか。
私の力の全てはダンジョンだ。そこに住むモンスター達へのおかげ。だから感謝を込めて、この子達を名前にしよう。
商会名はモンスター商会。そしてこれはその運搬部門だから……。
「そうですね。名前はモンスター運輸でお願いします」




