勇者
魔法の授業は楽しかった。冒険者時代は火をおこすみたいな生活魔法しか使って無かったから、初めて攻撃魔法が使えたのは感動だったなぁ。
「じゃあ私、次はマケド語だから後でね」
「私は氷魔法中級なのでこっちです。また放課後に集合しましょう」
この学院は必修授業と選択授業の2つの種類の授業がある。例えば学ぶ必要のある言語とか属性魔法は人によって違うから、それぞれ自由に選べるようになってるんだ。他にも家によって色んな差があるから体感で3分の1くらいは選択授業。
今から私が行くのは剣の使い方を学ぶ授業、実践編。せっかく冒険者の頃に苦労して身に着けたんだしアカネやウルフも一緒にいない事もあるかもしれないもんね。
場所は……第2運動場かぁ。いくつあるんだよもう。
右? 左? 私地図で進むの苦手なんだよう。
同じ所を3回くらい通って、やっと運動場に着くことが出来た。ふぅ~授業になんとか間に合って良かった。
実践的な剣の使い方なんて使う貴族はあまりいない。大体はあまり護衛を付けれない下級貴族の次男以降。
だから人が少ないかなって思ったんだけど、なんか女の子が結構多い気がする。
「~様は普段どんな事をしてるんですの?」
「まさか~様がこの授業を取ってるなんて知りませんでしたわ。一緒に授業を受けられるなんて感激です」
しかもみんなで運動場の真ん中の方に集まって何してるんだろ? 野次馬根性が働いた私はのんきにもトコトコと近づいて中を覗き込んじゃった。これがいけなかった。
「おぉ君はあの時の! まさか君も学院生とは思わなかったよ」
だれだれ!? そう思って中から出てきたイケメンを見る。この人……どっかで見覚えがあるような……やっぱり無いような……。
「ははは。さすがに君は覚えてないか。前にダンジョンで倒れていた所を助けてくれただろう?」
あー! めでたく私のダンジョン初の侵入者となった男の子じゃん! ここにいるって事は彼も貴族なのかな?
「あれ? 俺の事知らない? 自分で言うのもなんだけど結構有名だと思ってたんだけどな」
「ごめんなさい。辺境出身なもので……私はブラウン準男爵家のアオバ。あなたは?」
「僕は最近、この国の勇者に選ばれたゴールド。君は命の恩人だよ。よろしく」
え……勇者? そりゃ強いわけだよ。
と、ここで私は周りの鋭い視線に気づいた。金髪碧眼のイケメンで勇者で性格は優しそうなゴールドくん。つまり結構な人気者。
出る杭は打たれる。これが貴族……いや、人間社会あるある。
「ちょっと何よあなた! 私が先にゴールド様と話してたんですけど!」
さっそく気の強そうな1人の子が突っかかってきた。この紋章は……子爵家かぁ。出来たら相手にしたくないなぁ。というかこの子の装備なんか強そうだし。
「ごめんなさい。じゃあ私はあっちの方に行くので……」
「待ってよアオバさん。こんな所で会うなんて運命じゃないか。僕と友達になってよ」
ゴールドくん!? 火に魔力を注がないで!?
「運命? なに? 私のゴールド様を取ろうっていうの? 私と赤い糸で結ばれたゴールド様を?」
おっと、流れ変わってきたな? あなた彼と初対面だよね。ほら彼もきょとんとしてるし。
周りで私をにらんでいた女の子たちも少し私に同情的な目を向け始めた。じゃあ助けてよ。え~ん。
「悪いけど彼女の敵なら僕の敵だぞ」
ゴールドくん私達友達だよね? ……ね?
小声で確認すると、彼は故郷に幼馴染がいるらしい。良かった。いや、この状況はちっとも良くない。
頭の中で1人でパニックになってたら、ポスッと投げつけられた手袋が胸にあたった。この意味は1つ。
「アオバと言ったわね? 簡易決闘を申し込むわ」
騒ぎを聞きつけた周りの生徒が集まってきた。簡易決闘はその場で木でできた剣を使ってやるタイプの決闘だ。これは良くある事で大事にはならなそうなのは良かったけど……。
「私は護衛の彼を代理人に指名するわ。彼は元Bランク冒険者だったのよ? これ以上恥をかきたく無かったら降参した方がいいんじゃない?」
戦うの本人じゃないか……ま、まぁ代理人を用意するのも実力のうちとは言うけどさ。Bランクかぁ。私より結構上だな~。貴族の護衛としては物足りないけど、まだ子供の生徒にとっては弱い存在じゃないよ。
「アオバさん。巻き込んでごめん。ここは僕が代理人として戦うよ」
……ダンジョンマスターの私がこんなくだらない事で敵の勇者に助けられるなんて、そんな事するわけないじゃない。それは別として、いらない発言をしたのは反省してよね。
「大丈夫。ここは私が自分で戦うよ」
「せっかく許してあげようという私の優しさを断るというの……? あんな生意気な子、やっちゃって!」
騒ぎを聞きつけた先生が審判をしてくれる事になった。止めてはくれないのかなって思ったけど簡易決闘くらいなら、ちょうど初回の授業で戦いがどういう物か教えるのに役立つからって……扱いひどくない?
「それでは試合……開始!」
先生の合図とともに相手が魔法で木の葉を飛ばしてきた。これくらいじゃ傷にならないけど、視界が完全に塞がれる。
「ファイア」
私は炎で葉っぱを焼き尽くした。さっきの魔法の授業がさっそく役立つ事になるなんてね。
よしこれで見え……目の前!?
相手の剣をなんとか受け止めるのには間に合ったけど力が強い! 態勢を崩した所で、相手は私の足元を泥に変えてきた。
「いたっ」
「いい調子よ! そのまま痛い目に合わせてやりなさい!」
滑って転んだ私に再び剣が迫ってくる。やっぱり剣技じゃ歯が立たなかったなぁ……もっと強くならなくちゃなぁ。
「ウルフ! お願い!」
「ちっテイマーか。でもそんな弱い魔物じゃ私には勝てないわよ」
ふふふ。ウルフはだいぶ強化してるから舐めてられる相手じゃないよ? さぁ次はこっちのターンだからね!




