平民貴族
「起きてますか? もう学院に着きましたよ」
「むにゃむにゃ……もう食べられ……はっ夢か……。 御者さんすみません……」
同じ馬車に乗ってた子供たちがクスクス笑いながら降りていく。うぅ、恥ずかしい所見せちゃったな。
まぁそんな事は心躍らせる私にはささいな事ってことにしておいて。
学院は驚くほどの大きさがある。ロンドニウムの郊外にあるこの建物は、敷地内の森や湖まで含めると1つの町がすっぽり入るほどの広さがある。
施設なんでも揃っていて図書館やオシャレな食堂が複数あるし、乗馬場に最新鋭の設備を揃えた研究室まで。
この中にいたら困らないんじゃ無いかな。
ドラゴン姿のアカネでさえ通れそうな大きな門をくぐって華やかな中庭を進む。
今日集まるのはこの先にある大広間だ。
ここに入学出来るのは王侯貴族と、能力で選ばれた一部の平民のみ。お金があるだけじゃ入れない。
お上りさん全開で周りをキョロキョロしてるうちに校長先生の話も終わって寮の案内が始まった。
あれ? 入学式ってこれだけなんだ。意外とアッサリ終わるもんなんだね。
もっとこう急に王子様に話しかけられて……みたいなイベントを想像してたけど、今日はほとんどの子が親同伴なのもあって大広間は先生の声以外静まり返っている。
受付で名前を言うと自室の鍵をもらえた。校舎から近くてラッキー♪
ガチャリと扉を開けると、正面にはちょっと気持ちよさそうなベッドに本棚と机、右側にキッチンがあって左側はお風呂になっていた。
豪華で金ピカってわけじゃ無いけど必要な物はなんでも揃ってる感じ。他にも勉強に必要と認められてるものは申請すれば何でも貸してもらえる。
なお学院内では全員平等だからみんな同じ部屋……と見せかけて文化や普段の生活の違いへの配慮との名目で、学院への寄付額に応じて部屋を広くしたり、キングサイズベッドにしたり出来るらしい。
平等とは……まぁその人達の寄付で、この設備の数々を使えるんだろうからいいや。
気づけばもう夜。今日はご飯食べて明日の用意したら寝よう。
友達出来るか不安だなぁ……明日から頑張る!
「2人ともおはよ〜」
「おはよアオバ」
数日後。私は無事に友達が出来た。
今返事を返してくれたのはオレンジ。美味しそうな名前のこの子は名前通りの髪色でショートカットが似合ってる。
八重歯がトレンドマークで、いるだけで場を明るくしてくれる女の子。
実家は子爵家。私より爵位は上だけど、このくらいなら子供同士が友達になるのが不自然なほどじゃない。特に私は自力で爵位を得た現役当主だしね。
「おはようございますアオバさん」
こっちの子はシアン。氷のような長い水色の髪で、こっちも女の子。大人しいタイプの子で優しい性格だよ。
こっちの子の実家は男爵家。私の領地と近い所に領地を持ってるから、いつかお邪魔させてもらいたいなぁ。もちろんうちに来るのも大歓迎!
2人とも同じクラスで近くの席になった子で、オレンジちゃんが声をかけてくれてすぐに仲良くなった。来年も一緒だといいな。
「今日の1時間目はなんだっけ?」
「えっと……確か魔法学だよ」
ほんと、やった! 私が1番楽しみにしてた授業だ。教科書を持って2人と一緒に教室まで移動する。
あっやばい。あの取り巻きをゾロゾロ連れてるのは侯爵家の子供だ。私達はそれとなく廊下の端に寄って道をあける。
「あら? まだ学校が始まったばかりなのに教科書がボロボロじゃない? なんで……ってあなた達のような下級貴族は新品の教科書を買うお金も無かったのですわね。これは失礼。おほほほほ!」
彼女らはザ・貴族って感じのセリフを放ちながら去っていった。取り巻きクスクス笑ってるの腹立つな。特に最後の子、確か君も男爵家でしょ!
「よくもあんな酷い事が言えるわね」
オレンジちゃんが小声で文句を言って私達もうなづく。実際ああやってわざわざ悪口を言うようなタイプはあまりいないけど、貧乏で権力も低い下級貴族を見下してる人は多い。
「まぁまぁ喧嘩しても良い事無いですし無視が1番ですよ」
それをシアンちゃんがなだめるのはお決まりの流れになっていた。まぁオレンジちゃんも貴族の家の子なのでそれくらいは分かってる。
学院は3つの勢力の分かれている。1つ目は数が少なくも圧倒的な力を持つ上流貴族。取り巻きを連れて我が物顔で後者を闊歩している。まさに勝ち組。
次に挟み撃ちの構図にあう、かわいそうな中流貴族。ここには伯爵家や力を持ってる子爵家などが入る。
上流の取り巻きをしたり同じ中流同士で争ったりと忙しそうな子達だけど、見下される悔しさを知ってるからか優しい子も結構多い。
1番多様な子達だ。
最後に数が圧倒的に多い下級貴族。子爵の7割と男爵、1代だからあまりいないけど私みたいな準男爵もここになる。最下層ですよ私。悲しい。
ただここ最近はこの貴族泥沼戦国時代が少しずつ変わってきていた。さっきの侯爵さんの声がまた聞こえてきた。
「この国の将来が心配ですわ。平民みたいな下級貴族じゃ飽き足らず、金で成りあがった卑しい平民まで入ってくるとは」
でも今度の相手は戦う力があったみたい。
「誰かと思えば生まれが良かっただけの貧民じゃない。あら、あなたの後ろに隠れてる子爵家のお友達さん。私の商会からの借金で通う学院は楽しいかしら?」
……取り巻きするのも大変だなぁ。
今のは第4勢力のブルジョワ層。なんやかんやでお金持ちになった元平民たちだ。
彼らの商会に働きに行った事で貴族たちの領地から領民が引っ越してロンドニウムをはじめとした大都市に流れ込んでいた。もちろん税収は下がる。
え? じゃあ働けばいいじゃん? 私とかはこう思うんだけど、貴族たちの間だと働く事は平民のやる事であって高貴な身分の者はお金にとらわれてはいけないという考え方らしい。
まぁもともと平民の仕事を奪わないためとか色々理由があったらしいんだけど、こういう流れで貴族よりも圧倒的にお金持ちな平民が出てきた。
お金が無いのは戦争が続いた政府も同じだった。そこで政府が考えた対策は寄付と引き換えに、その功績に報いるとか何かで爵位を与える事。
結果が今目の前で起こっている争いというわけだね。一応私もブルジョワ層……に入るのかな?
「ふん。せっかく上流階級の教えを庶民どもに教えてあげようと思ったのですけど、私の優しさを無下にするなんて所詮は平民ね。みんな行くわよ」
どうやらさっきの戦いは引き分けで終わったみたい。くわばらくわばら。
「アオバ、シアン。授業行こっか」
「だね~」
まぁ私は派閥争いするような器じゃないし平和な学院生活を楽しもうっと。
……と思っていたのになぁ。
誤字報告していただいた方ありがとうございました!GWの祝日休日は出来るだけ毎日投稿する予定です。




