マシア王国の兵士インタビュー
「おい! もっと酒をもってこい! こんな良い酒を隠し持ってる町を担当出来るとは俺たちは幸せものだな!」
上官の貴族様は遊んでばっかりだ。せっかく平民から努力に努力を重ねて出世し、2000人近くを率いるまでになったのに俺はなんでこんな奴の使いぱしりなんてやってるんだか。
そもそも連中は仕事がまともに出来ないくせに偉そうにしてるのに腹が立つ。仕事はほとんどこっちにやらして、手柄は自分の物とは。
とはいえ給料も悪くはないし、何を言っても貴族に歯向かったらどんな罰が待ってるか分からない。大人しく従って無事に帰れば、さらなる昇進が俺を待っている。
なにせ今回の戦争は勝ちが決まったようなものだ。少し前に出発した部隊がさらに新しい町を支配下におさめるだろう。
とりあえず俺はこの町を守る仕事をしていればいいだけだし少なくとも安全だ。そう考えるとワガママ貴族に付き合うくらい可愛いもんだろ。
「すまないが何人か護衛について来てくれないか? 今日で何回目かも分からない酒場訪問に行かなくちゃいけなくなってね」
町はずれに急造で作られた兵舎で声をかけると部下が何人かついて来てくれた。頭の回転が早くて有能な、俺の自慢の部下たちだ。
「隊長。俺が行きますよ。また貴族様のご・命・令ですか?」
「その通りだ。さっさと済ませよう。今日は早く寝たいからな」
会話をしながら酒屋に向かおうと大通りに出たところで後ろから大きな爆発音が聞こえた。
慌てて後ろを振り向くと、どこかから飛んできた炎の球が壁を越えて、さっきまで上官が酒盛りしていたあたりに直撃する。球はそのまま大爆発を起こした。
「何が起こっている。おい、すぐにあそこに向かうぞ!」
走っている途中で犯人が空から姿を現した。
あれは……レッサードラゴンだと!? この一帯は生息域では無かったはずなのに……レッサーとはいえドラゴンだ。魔物相手の戦闘を考えての準備なんかしていないし、非常にまずい。とりあえず上官に報告を……。
「隊長! ここにいましたか。探しましたよ!」
ん? あれはさっきまで上官のいたテント周辺の見回りをしてた兵士じゃないか。この状況で無能とはいえ、上官が町の住民に襲われたら危険だ。何しにきたんだ。
「隊長。ドラゴンにどうやって対処しましょうか? 指示をお願いします」
「まずは上官に聞くべきだろう。それとも俺に任せると言ったのか? あの人が失敗の後処理以外で人に任せるなんて珍しい」
「いえ、先ほどの攻撃で上官は殉職なされました。この中で今はあなたが1番階級が高い将校です」
……なんという事だ。いや良かったと言うべきなのか?
「今いる兵力は何人だ」
「500人です」
「ここは重要な都市のはずだろう? なぜそんなに少ないんだ」
「それが……どうせ敵にこの町を取り返す力が無いのだから必要ないと貴族様が侵攻部隊として送り出したので……」
うそだろ。確かに俺も同じ事を考えはしたが500人は少なすぎだ。今まで反乱がおきずに済んだのが奇跡だ。
仕方ない。今はそんな事を考えている暇はないな。
「全員をかき集めればレッサードラゴンくらいなら撃退くらいは出来るはずだ。多大な犠牲を払って得たこの都市を失うわけにはいかない」
「了解しました!」
俺の指示の下、近くにいる弓兵達が攻撃を始める。せめて魔法を使える奴がもっと欲しかったが贅沢は言えない。
ごく普通の弓矢はほとんど効いていないが、ドラゴンの嫌がらせくらいにはなったようだ。今まで居た壁を離れてこちら側に向かってきた。
「上手く引きつけられたぞ! 盾を持ってる奴はドラゴンの攻撃を防ぐんだ。そして今のうちに壁に取り付けられたバリスタまで行って、それを使え! あれなら有効なダメージを与えられるはずだ」
よしよし。町の中に入ったのが運の尽きだ。
「よく狙って……うて!」
俺の胴よりも太い鉄の矢が5本放たれる。2本は外れたが、残り3本はしっかり命中してドラゴンの体を貫く……はずだった。
「だめです! 鱗が硬くて表面に傷をつけただけです!」
そんなはずがない! あの矢はさらに上位の魔物を想定して用意されているはずだ。なぜ防げる?
すぐさまドラゴンの反撃を食らって壁の1部ごと吹き飛ばされた。運良く生き残っていた魔法分隊が到着するも、こちらも予想通りバリスタと同じ末路をたどった。
「今の生き残りは何人だ?」
「およそ150名程度です」
……ここが引き際か。
ドラゴンも無傷では無いが、いまだに健在。残った150人も死なすわけにはいかない。侵攻部隊への伝令は間に合うだろうか。
「全員すぐに戦闘をやめるように。我々の負けだ」
”ヴェクス新聞”
アングル王国に対する北のマシア王国の攻勢は思わぬ形で終わる事になった。2日前の午後11頃、マシア王国に占領されて以来、物資集積所として使用されていたキングズタウンが突如現れたレッサードラゴンによって襲撃された。
これにより町の防衛にあたっていたマシア王国軍に350名を超える被害が出ており、食糧や武器、馬車をはじめとした戦争に必要な多くの物が失われた。
さらに昨日、アングル王国軍とマシア王国軍が対峙している場に再度このドラゴンが現れた。後ろにドラゴン、前にはアングル王国と挟み撃ちにされたマシア王国軍は大きな被害を受けて撤退した。
本日、アングル王国政府はキングズタウンを奪還したと発表した。この直前に町の住民による反乱が発生しており、補給を維持できなくなったマシア王国軍は鎮圧に失敗したものと思われる。
また、今回の事件でマシア王国は物資不足からしばらく再度の攻勢を仕掛けるのが困難な状態となっており、アングル王国に再起のチャンスを与える結果となった。
2日ともドラゴンは明らかにマシア王国軍のみを標的にしたような行動を取っている事からアングル王国の関与が疑われてるものの、政府は否定しており定かではない。
キングズタウンでは奪還のためにやってきた兵士たちを多くの住民が王国旗とドラゴンが描かれた旗で歓迎した。さっそくアングル王国各地でドラゴンを救世主とした演劇が企画されている。
しかしこのドラゴンは通常のレッサードラゴンを大きく上回る力を持っている事や生息域から離れたキングズタウンに現れたるなど異常な行動を取っている事から、近隣諸国では第2のマシア王国になるのではと不安の声も上がっている。




