新天地
しばらく後。私はポチッとマスター画面を押して、新しい大陸を作るとすぐに画面を閉じる。ダンジョン内だから私はいつでも見れるし、なんならマスタールーム経由で瞬間移動じみた事も出来る。
でもこの楽しみはモンスター達と一緒に味わいたいじゃん。
「者ども! 新天地へ向かう準備はいい?」
「ウォォォォ!!!」
ふふふ、この子達ノリいいね。集まってくれたのはゴブリン100匹と黒エルフ30人。ゴブリンのうちスミスが10匹ほど混じってる。
みんな今までの生活を捨てて、何もない場所を1から開拓しようっていう生粋のチャレンジャー達だ。面構えが違う。
「船の点検が終わりました。これでいつでも出発できます。今から行きますか?」
「もちろん! 他の準備は全てすませたからね。さぁ行くよ」
キングにそう伝えると彼はそのまま2番目の船に向かっていった。今回使うのは船4隻。一時的に川で使っている分まで持ってきてもらっている。
そして私が乗るのは、この中で最大の船。エンタープライズ号。
少しとはいえダンジョンポイントを投じた上に、魔法にスミスと黒エルフ達を総動員して作ったゼロフロアの最高傑作だ。
これに私と黒エルフ全員、さらにゴブリン30匹が乗り込むって感じ。なんと厨房もしっかりある上に、移住に必要な資材のほとんどを詰め込める船倉、いくつもの大部屋に食堂付きっていう豪華さだよ。
大きさは他の船の2倍くらいあるんじゃ無いかな?
「ちょっと待ってください。やはり私も一緒に付いていきます」
後ろを振り向くと、本村に残るはずだったエリーがいた。
「さては私がいないと寂しいんだね。よしよし一緒に行こうね」
「そんなはずが無いでしょう。むしろマスターだけだとこの船を沈めないか心配なんですよ」
むぅ……2重に悲しい。もちろん断る理由は無い。今のモンスター達なら私達やキングが数日いなくても、しっかりゼロフロアを回せる力がある。
「ギャギギギャ! (気を付けて!)」
「行ってらっしゃい!」
今日はゴブリンも黒エルフもみんな港に集まってきて口々に私達の旅立ちを祝ってくれている。鉱山とか全部ストップだけど……今はいっか。
後ろの方には大きな横断幕まで掲げられてる。右側をホブゴブリンが支え、反対側は黒エルフが持っている。いつもは喧嘩も多い両者でも今日は同じ未来を見ている。それじゃ……行ってきます。
1隻、また1隻と綱が切られて陸を離れていく。そしてこの船も海に向かって進みだした。
「ねぇねぇ。どのくらいで向こうに着きそう?」
新たに強化で航海術スキルを付けて、この船の船長になった黒エルフがいたから聞いてみる。まぁゼロフロア内だしせいぜい10時間とか?
「今日は風が弱めなので……1日半くらいですかね?」
私、帆船を舐めてた。それじゃあ私は一足先にマスタールーム経由で……しないからエリー睨まないでよ!
ま、まぁ内陸に住んでた私は海での船旅は初めて。今日は楽しもっか。
……と思っていた時期が私にもありました。
「ヒール。ヒール。ヒール。大丈夫ですか? マスター」
まだ夏になってないのに大雨が降って海は大荒れ。甲板は立ち入り禁止になって乗員はみんな部屋に戻って行っちゃった。私も船長室に戻ろっと。
幸い沈む心配は無いらしいけど……うぅ、気持ち悪い。エリーが回復魔法をかけてくれていなかったら大変な事になっていたよ。
「そういえばエリーの体浮いてるから影響無いのかぁ。ねぇ私をおぶってよ~」
「マスターは重いので背負えません」
「なっ……レディに向かってなんて事を! 私は軽いですー!」
「はいはい今は大人しくしていてください」
エリーめ……陸に着いたら覚えてろ……。
そんな雨も夜になる頃にはいつの間にか止んでいた。さっきまでが嘘みたいに海は静かになってる。進むのが遅くてもこっちの方が何倍もマシだよ。
それに雨が止んだおかげで中止されてたエンタープライズ号の処女航海祝いパーティーが復活した。食堂からみんなで椅子やテーブルを運んできて甲板にならべていく。
周りを見ると他の船でも同じ事をやってるみたい。今日は満月で明るいし、夜風が気持ちいいな。
メインディッシュはラムチョップ。ゼロフロアの牧場でついに成長した羊がいたから航海のついでに祝ってね。今頃は陸の方でもふるまわれてるのかな。
「私も口があれば良かったのに」
「エリーはこれね。いつもよりも質のいい魔石にしてあげるからさ」
かわいそうにエリーはご飯を食べれないんだよね~。いつかどうにかして食べさせてあげたいな……。それでも一緒に楽しむ事は出来る。
「せっかくだしダンスでもする?」
「私の踊りはなかなかのものですよ。ついてこれますか?」
「いけるいける~♪」
結果から言えば本当に上手かった。転びそうになるとフォローを入れてくれて気遣いもバッチリ。どこでこんな技術を。
「マスターも貴族の端くれになるなら、このくらいは出来ないと困りますよ」
うぐっ、その通りすぎる。大人しくエリー先生に教えてもらおう。先生呼びが気に入ったのかエリーは上機嫌で手取り足取り教えてくれた。ちょっと楽しいかも。
でもエルフ達はこっち見て笑うな~! 今度君たちにもテストを受けさせてやるからな……。
「陸が見えました! このまま真っすぐです!」
見張りからついに待ちに待った報告がくると乗員たちから歓声が上がった。思ったよりも着くの早くて良かった。他の船にこのニュースを伝えると、ゴブリンメイジ達が空に魔法を打ち上げて喜びを示した。
港が無いので、小舟に分かれて順番に向かう。当然私が1番乗り。ひゃっほう。
ザクッ
まだ誰も来た事がない砂浜に足を踏み出す。他の小舟も到着して次々にモンスター達や資材が降ろされた。砂浜を過ぎると住みやすそうな草原が広がっている。最初の村はここで決定♪
さっそくゴブリン達が物を運んで、ホブゴブリンとエルフ達が協力して建物を作っていく。おっと、私も遊んじゃいられないね。せっかく魔法を覚えてきたんだから手伝わなくちゃ。
ちょうど朝に着いたこともあって今日中には簡単な家とか用意できそうだね。
数日が経つ頃にはみんなが歩いた所から簡単な道が出来てきて、ほぼ全員分の家が出来上がった。魔法のおかげで鍛冶屋の建設も終わり、狩りに使う矢が毎日作られている。
海で漁をするための桟橋も完成したし、ここが大きな港になるのも時間の問題かな。
とりあえずモンスター達が幸せに暮らしていくための基盤は整った。私はもういらないかな。後は自分たちでなんとかしてくれるでしょ。
「そろそろ私とエリーは先にマスタールーム経由で帰っておくね。キングも気を付けて」
「ありがとうございます。私も明日には船で本村に向かいますよ」
帰りは一瞬。わわっ、マスタールームから数日前に出発した港に降りた瞬間にホブゴブリンの子供とぶつかりそうになった。
周りもガヤガヤしてて賑やかさが違う。市場からは今日も稼ごうと声を張り上げる商人たちの声も聞こえるね。
いつか新しい村もこうやって発展するんだろうな。さ、そのためにも交易に行ってきますか。
「今回は魚が山ほどありますよ。海の恵みはすごいですね」
エルフが多種多様な魚たちを荷車に載せて運んできた。
「でしょ~? それじゃあ行ってくるね」
馬車に乗せ換えると町に向かって出発する。やっぱり馬車はお尻が痛くなるから船に戻して~!




