マイカ子爵
「はい。この村はまだ国に正式に登録はしていないですよね? おそらく税金を払うのが大変だからでしょうが」
「えぇ……重税で生活できなくなったから故郷を捨ててこんな所まで来たのです。どうせこんな田舎は何かあっても国は守ってくれないでしょうしね」
「ですが登録してもらいます。金額は……1人あたりこれくらいでどうでしょう? 他の地域よりも安いですよ。それが条件です」
「……それで助けてくれるのならお安い御用です。それだけで良いのですか?」
「はい。じゃあこれで契約成立です♪」
今やお金だけでは食べ物を買うのが難しい状況になってきてるなか、税金が安く済む保証までついた良すぎる条件に困惑しながらもガルドさんは満足そうに部屋から出ていった。
「マスター。これってダンジョンに何か良いことあるのか? まさか人間への慈善事業じゃないよね。モンスター達にも負担をかけるのに」
「安心して。むしろこれで私達は大儲けだから」
そうと決まれば善は急げ。服の依頼を代わりにしておいて欲しいとガルドさんにお願いして、私はすぐに町へ向かう。
「あっウルフに乗ればあっという間だと思ってたけど、アカネどうしよう……こんな所でドラゴンになるわけにもいかないし」
「私は自力で走るから大丈夫だよ。ほら」
そう言うと砂埃をあげて走り去っていった。これなら安心だね。さぁ私も追いかけ……あれ?
自信満々に行ったけど、アカネは町までの道知ってるの?
「ウルフごめん! アカネが迷子になっちゃう前に追いかけるよ~!」
結局反対側に向かったアカネを見つけるのに半日かかった。このグダグダに実家のような安心感が湧いてきた私はもうだめかも……。
「今日はマイカ・セゾン子爵がこの店にいらっしゃる。丁重に対応するように」
マイカ子爵は前に会った貴族様。今日は私が店を見に来て欲しいとお願いしてきてもらった。
もともとこの小さな町のランドマークになった店が気になってたマイカ様は二つ返事で来てくれたよ。
今日もにぎわってる店の中でジョージさんが従業員たちを集めていた。なかなか厳しい服装チェックまで入ってる様子。
馬車の足音が近づいてきた。貴族の館のメイドのごとく、みんなで横2列に整列して待ってるんだけど階級の低い男爵とはいえ領地持ちの貴族が来るということで従業員は緊張でガチガチに固まってる。
それに比べて私は前に1度会った事あるので余裕を。
「おい。緊張しすぎじゃないか? 従業員よりお前が1番心配だぞ?」
……見せる事はできなかった。やばい足まで震えてきた。
「だって慣れないものは慣れないんですもん……逆になんでジョージさんはそんなに余裕なんですか?」
「俺は親に連れられて何度か他の貴族に挨拶とかした事があるからな」
くっボンボンめ。私だってすぐに追い越してやるからな~。知性と品格を備えた大人のレディになるんです!
「それより貴族が来るってのに貸し切りにしなくて良かったのか? 客が多いのは嬉しいけど危険だろ」
あぁそれなら……と答えようとしたところで、正面に立ってる従業員たちが私達の後ろを見てるのに気づいた。ん?
「それは私が希望した事なんだよ。実際にどれくらい人が多いのか自分の目で見たいだろう?」
「ひょえー!!」
ポンと肩に手が置かれたから振り返るとそこには子爵が満面の笑みで立っていた。一気に鼓動が早まる。もしかして……これが……恋? なわけあるかー!
「お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ございません! マイカ子爵。どちらから入られたのですか?」
「驚かそうと思って裏口から入らせてもらったよ。その様子なら上手くいったようだね」
こっちは心臓が止まるかと思ったよ。最初に会った時とずいぶんキャラが変わったけど、前のは威厳を見せる演出だったのかな。それとも親しみやすさを感じさせるこっちが演技か。
「それではご案内しますね」
挨拶を済ませてさっそく案内に入る。万が一のために護衛に守られながらの移動だったけど、貴族の紋章を見た瞬間にお客さんが周りからサーッと消えていくから安心。
全体的に物不足な世の中で、あふれんばかりの豊富な品揃えに満足してくれたみたいでニコニコしてる。
最後は最上階に作った私直営のレストランで昼食の予定だ。ここは余ってる場所を活用しようと始めたんだけど、まさかこんな形で役に立つなんて。
シェフはどっかの没落した子爵の元専属料理人だという人にお願いしてるから味は保証するよ。
さらに今日は監視の意味で来たと思われるマイカ子爵の所のシェフにも手伝ってもらってるから、それはもう肥えた貴族様の舌だってうなるってもんですよ。
「ほぉ。ここの料理は思ったよりも美味しいぞ。派遣した料理人にはあまり手伝いすぎないように命じていたのに、それでもこの美味さとは本当に優秀な料理人を見つけたらしいな」
そ、そんな命令までしてたのか。寄生インチキしなくて良かったー! やっぱり悪い事はするもんじゃないよ。うんうん。
「お褒めいただきありがとうございます。後で彼に伝えておきます。子爵様が満足されたと聞いたらとっても喜ぶでしょう」
「うむ。さぁそろそろデザートだし本題に入ろうか」
うぐっ、ついに来たか。いや、ここで逃げちゃだめだよアオバ! 気合を入れなおした所でマイカ子爵がそのまま話を続ける。
「ところで君が望む褒美だが……おおかたブラックリ村の徴税官任命か、我が子爵家との取引を望むつもりじゃないか?」
「えっ……その通りです。失礼ですが何故分かったのでしょうか?」
「なに、少し調べたらすぐ分かったよ。その様子じゃ君だって隠そうと思ってたわけじゃないだろう?」
やべっこの子爵、チャーミングな道化じゃなかった。やっぱり逃げてもいいかな……。
「はい。しかしそこまでお見通しとはさすが子爵様です。ちなみに私は徴税官を希望するつもりでした」
この徴税官っていうのは名前通りのお仕事。
国によって細かい違いはあるけど、この国では数年単位で貴族と商人が契約して、予想される税収を先に商人が一括して納めることでその地の税収は商人の物になる。
貴族としては領地がどうなろうと先にお金を受け取ってるから収入が安定する上に、大きなお金が一気に入ってくるから管理しやすい。
しかも徴税にともなう苦労は全部商人任せ。
商人側は手数料だけでも大きな利益になるっていう夢の制度。
……というのは理想論で実際は商人は利益を増やそうと決まった税率以上を搾り取ったり、来年の種もみまで奪うわ、護衛を使って市民に暴力を振るうわの鬼畜ぶり。
たまに廃止論が出てくると膨大な額の賄賂で気づいたら話が流れるっていう酷い制度。
あっ私は搾り取ったりしないよ? むしろ変な人がブラックリ村を担当して欲しくなかったから今回お願いする事に決めたんだよ。決して大量の移民という約束された金に目がくらんだわけじゃないからね。
……ってこんな事考えてる場合じゃない。
「マイカ子爵様。お許しいただけますでしょうか?」
「うむ。それくらいなら構わないが……もっと良い話があると言ったらどうする? 例えば私が持ってる準男爵の称号を譲ってあげるとか」




