夜明け
ジョージさんに遠まわしにこんな事があったんだけどって伝えたら、普通にビックリしてすぐに調査すると言ってくれた。
これでシラをきられたら困ったけど、この分なら誰かの暴走っぽいし大丈夫そう。
次の出荷は数日後。ブラックリ村にも行ったし、ダンジョンでゴロゴロしてるとキングがやってきた。
「おぉマスター。もしかして今は時間がおありで?」
「うん。だから今日はゆっくりしようと……」
「それは良かった! さぁ村役場に来てください。マスターにしか出来ない仕事が溜まってますよ」
「えぇ嫌だ~! 村の事は大体任せてるじゃん」
私の抵抗もむなしく引きずられていった。キング意外と力が強い……。
村役場も前は数匹のゴブリンがいるだけだったけど、いつの間にか黒エルフとホブゴブリンが合わせて20人はいる。
と思ったら私は2階に連れていかれた。階段を上がると大きな部屋が。
「何これ。こんな部屋あったっけ?」
「マスターのオフィスですよ。さぁどうぞ中へ」
自分のオフィス……悪くない響きだね。開けると手前に長テーブル、奥に机が置いてある。机が私のやつで前のテーブルが会議用なんだって。
部屋に入ると長テーブルの横に座っていた黒エルフ数人が立ち上がって歓迎してくれた。まるでお貴族様になったみたいで更にテンションが上がる。うへへ。
「ここでゼロフロア全体に関する重要な事を決めるのです。マスターが来てくれたので、やっと話が進みます」
「ご、ごめんね。でもなんでキング以外は黒エルフしかいないの?」
「まさにそれが最初の議題です。ゴブリンには私以外に人語を理解できません。さらに種族としての知能も……。とりあえずは優秀なゴブリンを見つけたので彼らに人語を理解させて欲しいというのが私の意見です」
ふんふん。確かにそれは私がいないと何もできないか。ゴブリンがキング1人は不公平だよねぇ。
でも黒エルフ達を見ると何か言いたげ。決めるのはまず、みんなの意見を聞いてからかな。
「どうしたの? この場で隠し事は無しだよ」
陰で不満を溜められてグサーされる前にみんなで自由な議論をしなきゃね。それでこそ良い未来が……。
「正直に言わせてもらいますと、種族として知能が低いのなら無理に呼ぶ理由はありません。私達が正しい方向に導いてあげればいいのです」
「ダンジョンコア様に確認すると私達エルフを召喚するよりも、ゴブリンを強化する方がポイントがかかるそうじゃ無いですか。別にゴブリンを冷遇なんかはしませんよ。これは無意味だと思います」
良い未来が来るかは不安になってきた。でも言ってる事の筋は通ってる。私に対して嘘をつくとも思えないし、悪意があるわけじゃないとも分かる。エルフ達はこれでゼロフロアが良くなるって信じてる。
でも……私はそんなダンジョンは見たくない。上と下が生まれるダンジョンなんて。
「ねぇエルフ達。ちょっと話は変わるけど……最近ゴブリン本村が大きくなってきて、もっと早い移動手段が欲しいって言ってたのを聞いたんだよ。君たちはどうしたら良いと思う?」
「それなら簡単ですね。村に木を植えましょう。ツタが垂れ下がるような奴を。それを掴んで振り子のように移動すれば結構早いですよ。むしろ今までしていなかったのが驚きです」
「それは町が綺麗になるし、安くて簡単だから最高の案だね。すぐに思いつくなんて流石エルフ達。でも残念だけどゴブリンはそんな事出来ないんだよ」
「ま、まさか……」
「君たちモンスターは外を知らない。そして種族は基本バラバラに住んでる。だからエルフはゴブリンの事を、ゴブリンはエルフの事を知らない。
どう? 無意味じゃないと思ってもらえた?」
今度はエルフ達も特に反論は無い感じ。じゃあ最後に確認だけしよっか。
「じゃあ記念すべき第1回の会議として私は2つ大事なルールを決めたいな。1つ目。どんな意見で、たとえ私と正反対でも自分の考えを信じる事。2つ目。みんな仲良く和気あいあい! それじゃあキングの案に賛成な人ー!」
今度はエルフ側のほぼ全員が賛成。1人だけ手を挙げなかった子がいるけど、それでこそ会議の意味があるよ。私の意見に全員賛成なんてカルトみたいで怖いし。
雰囲気も良い感じになってきたし、この調子で2つ目の議題もサクッと終わらせちゃおー!
夜。暗くなった会議室の奥の机に1匹のゾンビが……って違うわ失礼な! 結局あれから何時間も会議は続いて、終わった後も机に座って仕事してたらこの時間……。
なんで? もっとダンジョンマスターってモンスターに戦わせて裏で策略を練るクールなイメージだったのに……。
なんかほら、玉座に座って勇者を待ち受けるようなさ。
夢の世界に旅立ちそうになってるとドアが開いてエリーが入ってきた。
「どうぞマスター。今年初めての野イチゴが採れましたよ。毒見してください」
「私の扱いが酷すぎない!? ていうか野イチゴ? 今って冬じゃないの?」
「何言ってるんですか。もう暖かくなってきましたよ。そろそろ本村の畑で農業も始まる予定です」
そっか……もう春かぁ。年越しを忘れちゃったなぁ。去年の冬前にダンジョンマスターになって……あの頃は数十ポイントで喜んで飛び跳ねてたっけ。
集中してて気づかなかったけど、もう夜なのに外からたくさんの話し声が聞こえてくる。
窓から村を覗くと明かりが見える。港には今日最後の船が入港したみたいだね。市場はまだ賑わってる。少しだけ見える酒場は満員。あんな感じじゃ、またブラックリ村に増産お願いしなきゃかなぁ。
冬を乗り切った。町には店だってある。そしてダンジョンのために働くたくさんのモンスター達がいる。今年はどうなるか楽しみだな。
「それでは私の睡眠時間は貴重なので帰りますね」
「ちょっと、私の睡眠時間は貴重じゃないってこと? ていうかエリーって睡眠いるの? あんまり見た事無い気が……あっ待てっ」
言い終わらないうちにドアが閉められた。
はぁ……あ、野イチゴ美味しい。あま~い! よし、もう少しだけ頑張れアオバ! これが終わったら暖かいお風呂が待ってるんだから!
ちなみに次の日キングに野イチゴのおかわり貰いにいったら無いって言われた。
昨日たまたま早く実ってたのを、報告された瞬間にエリーが森に入っていって回収してったらしい。
ふーん……へぇ~。なんでかエリーに聞いてやろうっと♪




