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ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話  作者: 三角ケイ
本編 ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話
9/24

9話が長すぎたので、半分に分けることにしました。

 たった一日だけのウニョンウニョン人生。最期は痛い思いをしたけれども、それでも私としては前世よりも充実した人生を送れたのではないだろうか?


 ……そんなふうに思いながら火に身を投げて死んだはずなのだけど暫くして私は、私の名前を言いながら呼びかけてくる声に気が付いて目を覚ました。


「……さん、……さん、聞こえますか?聞こえましたら瞬きをしてください。……っ!先生方!患者さんが目を覚まされました!」

「??」


 目を開けると、そこにあったのは真っ白い天井だった。入院しているときにいつも見ていた病室の白い天井だ。そして背中に感じるのは、慣れ親しんだ病室のベッドの感触だった。……ん?ベッドの感触?あれあれ?もしかして私、病室のベッドに寝かされている?どうして私、前世で入院していた病室にいるんだろう?


 私が目を覚ましたのを知った看護師だろう人達が、誰が脈を測って、誰が血圧を測って、誰が体温を測るかと声を掛け合って、バイタルチェックの分担を確認しあっているのが見える。うんうん、二重チェックは大事なことだよね。それが医療ミスを防いで患者の命を守ることに繋がるんだもん。医療現場で働く皆様、いつもありがとうございます。


 ……それはいいとして、どうして私の周りにいる看護師だろう人達は皆、ウニョンウニョンの姿なんだろうか?驚き過ぎて言葉が出ない私に、人間の女性のような高い声のウニョンウニョンが声をかけてきた。


「では今から脈を測らせてもらいますね。気持ちを楽にしていてください」


 同じウニョンウニョンだからか、言葉がギギギという音ではなく、きちんと人の言葉のように聞こえる。私は返事をしようと思ったけど何故か声が出せず、体も動かなかった。動けない理由はわからなかったが、とりあえずお願いしますと心の中だけで返事を返した。


 それにしても私はどこに自分の手首があるのか、わからないのだけど、彼女……ウニョンウニョンに性別があるのかは不明だが、声が女性の声なので、彼女だと思うことにする……は、私の手首が、どこにあるのかを知っているのだろうか?


 私は自分の手首がどこにあるのだろうと興味が引かれ、彼女に脈を測られている場所を目で追ってみた。すると彼女が脈を測ろうと持ち上げたのは痩せている人間の手首だった。一瞬、誰の手首だろうかと思ったけれど、感触がダイレクトに伝わってくるから、あれは自分の手首なのだと直ぐに気が付いた。


 私、いつの間に人間の手首が生えたんだろう?不思議に思って自分の手首を見ていたら、白衣を着た馬が私の傍にやってきた。


「ご主人様の手術のサポートに入っていた医師の(うま)といいます。お加減はいかがですか?手術、お疲れさまでした。今は麻酔が効いているので暫くは体が動かないと思いますが一時的なものですので、どうかご安心ください」


 四足歩行であるはずの馬が、まるで漫画やアニメに出てくる擬人化した馬みたいに人間の服を着て、後ろ足だけで歩いてきて、自分は馬だと私にわかる言葉で自己紹介をしてきた。白衣の胸ポケットのところにつけられた名札に目をやれば、そこには馬リオと書かれている。


 私は馬が自分は馬だと名乗っていると思ったのだけど、馬は自分の名字が馬だと名乗っていたんだ。ちょっぴり思考が混乱気味になってきた私に馬先生は私に優しげな声をかけてきた。


「ご主人様が生きていて良かったです。ずっと会いたかったのです。本当のご主人様は小さくて可愛かったのですね。こうしてまたお会いすることが出来て凄く嬉しい。幸せです、ご主人様」


 え?ご主人様?馬先生は急にヒンヒン鼻を鳴らし、私の手を包み込むようにして両手……形状はどう見ても前足なのだけど……で握ってきたかと思ったら、泣きながら何故か私の手を自分の頭の上に持っていった。もしかして撫でてくれと催促されている?


「退院したら散歩だって落ち葉拾いだって水遊びだって何でも出来るようになりますよ、ご主人様。また私と一緒に楽しみましょう。ご主人様が行きたいところなら、どこにだって私がお連れしますから」


 私が生きているのを喜んでくれることは嬉しいことだけど、馬先生が人間の言葉を話す絵面がシュール過ぎて話の内容が頭に入ってこない。一体、今、馬先生は何と言っていたのだろう?……というか、いつまで泣いているのだろうか?ああっ、馬先生の目も鼻も泣きすぎて大変なことになっている。誰かハンカチかティッシュを馬先生に渡してあげてくださいと言いたいのに声は出ないし、誰も馬先生に構わない。


 撫でて宥めようかとも考えたけど、麻酔が効いている私は自分の手すら動かせない。どうしたものかなと思っていると突然、私の手を掴んでいる馬先生を押しのけるようにして、白衣を着た女性が割り込んできた。


「また抜け駆けして先に御主人様にナデナデしてもらおうとするなんて狡いですわよ!いいこと、お馬さん?この御方は私のご主人様なの。気軽に触れないでくださいまし」


 金髪碧眼の女性が馬先生に向かって一気にまくしたてている。美人は声を荒らげる姿も美人なんだな。私が見とれていると馬先生に詰め寄っていた女性が、私に美しい微笑みを向けてきた。


「この世界では初めまして、ですね。今の私はご主人様の主治医兼執刀医のファム=デュークといいます。どうか私のことはファムと呼んでください。ご主人様の本当のお姿がとても愛らしくて、初めて拝見した時に私は非常に驚き、恥ずかしながら胸が今までにない位、ときめいてしまいました。勿論、ご主人様がいかようなお姿でも私は心からお慕い出来る自信しかありませんでしたが。……そうそう、手術結果を先にお伝えしなければなりませんでしたね。ご主人の全身に散らばっていた腫瘍ですが、全て私どもめの触手で完璧に取り除き、手術は成功しましたから、どうぞご安心くださいませ」


 ええっ!?彼女が私の主治医で執刀医?変だな。彼女は確か公爵令嬢だったはず。それに私の主治医は中年男性だったと思うのだけど。しかも今、何だかおかしなことを彼女は口走っていなかっただろうか?あっ!もしかして……。そこでやっと私は自分が死ぬ前に夢を見ているのだということに思い至った。


 何だ、夢だったのか……。そうだよね。前世で私がいた病院にウニョンウニョンの看護師さん達がウジャウジャいたり、馬と公爵令嬢である女性がお医者さんになっているなんて、夢でなければありえないよね。私は自分が今、夢を見ていると自覚したことで、この場の不思議を全て納得して受け入れることが出来た。


「ファム、横入りしないでよ!彼女は私のご主人様なのよ!」


「フッ、お馬さんったら、この私とやり合うつもり?私はね、あの世とこの世を彷徨っていたご主人様に一目惚れして自分の妻にするために、御主人様の清らかな魂を自分と同じ邪悪に染めようと、ご主人様を元々自身の妻となるべくして生まれていた魔物の体に無理やり憑依させたけど失敗したのに気が付いて、ご主人様の魂を回収しに来た邪神に打ち勝ち、邪神を丸ごと私に取り込んで、ご主人様の魂を元の世界に送り届け、ご主人様の手術を成功させたのよ!こんな偉業を成し遂げた私に喧嘩を売るとはいい度胸ね。上等だわ。どちらが御主人様により相応しいか、正々堂々といざ勝負!」


「フンッ!私がいなかったら、ご主人様があなたのために残した金貨と宝石が入った袋の隠し場所も、唯一焼け残っていたご主人様の体の一部が落ちていた場所も見つけられなかったくせに!大体、あの世界は邪神が自分の妻となる魔物を育てるためだけに作った世界で、あの世界の生き物を全て喰らった後に人格を持つ妻の性格が気に入らないという理由だけで邪神が、毎回あの世界の創造と破壊を繰り返しているとあなたに教えてあげたのは、この私なのよ!それにね、邪神に打ち勝つのも、私のご主人様の魂を見つけて元の世界に送り届けて、ご主人様の手術をするのも、ご主人さまに賢いと褒めてもらった私がいたからこそ成し遂げられたんでしょう!その私があなたなんかに負けるものですか!どこからでも、かかってらっしゃい!」


 言葉はわかるのに、意味がさっぱりわからない。でも、これと似た睨み合いをどこかで見たような気が……?とにかく夢とは言えども煩すぎる。


「患者さんの傍で何を言い争っているんですか!馬先生もデューク先生もふたり共、病室から出ていってください!」


 グッジョブ、ウニョンウニョンの看護師さん。私は心のなかで看護師さんにイイネを送り、先生達が名残惜しそうに退室していくのを視線だけで見送っていると、彼女は待合で待っている両親を部屋に入れてもよいかと聞いてきた。


 今までの手術の時はどちらか片方しか来なかったのに、両親が揃って来ているなんて現実ではありえない。流石は夢だな。そう思いながら私は僅かに動く頭を縦に振り、いいですよと答えた。


「手術、お疲れ様。よく頑張ったな」


「本当に手術が成功して良かったわ。疲れたでしょう?ゆっくり休みなさい」


 部屋に入ってくるなり駆け寄るようにベッドの傍にやってきて、私を覗き込みながら優しい労いの言葉をかけてくれる男女の声は、まぎれもなく両親の声だった。……が、やっぱり夢だからなのだろうか?看護師さん達だけではなく、両親の姿も揃ってウニョンウニョンだった。声を出されなければ、誰が誰なのか、さっぱりわからない。


「今まで淋しい思いをさせてしまって済まなかった。私達はお前に対して、ずっと誠実ではなかったと心から反省している。今後は心を入れ替えてお前を大事にするから、どうか私達にチャンスをくれないか?」


「本当にごめんなさい。あなたに対して私達はとても酷い親だったわ。親が決めた結婚に不満を感じていた私達は、遅すぎる反抗期を拗らせて互いを知ることから目を背け続けていたの。……でも自分達は愚かだったと、やっと気が付いたの。これからは、もう二度とあなたに辛い思いはさせないと誓うわ。だからお願い。今までの行いを水に流せなんて虫の良いことは言わないから、傍にいることは許してほしいの。私達は、あなたが幸せに生きられるように見守りたいの」


 あはは。本当に夢の中は何でも有りだな。二体のウニョンウニョンが、私の両親が現実には言いそうにないことを言っていたので、私は吹き出しそうになった。ウニョンウニョン達が言っているのは、私が生きているときに両親から言われたかった言葉だ。小さな頃は傍にいてほしいと泣いてねだったこともあったけど、いつも適当な嘘や誤魔化しで裏切られたから、いつしか願うことすら止めてしまった。


 幾度もの裏切りで私は顔を見れば、両親が嘘をついているかどうかが一目でわかるようになっていたから、両親がウニョンウニョンの姿になっていて良かったと思った。顔がどこにあるのかが、わからないなら、嘘かどうかもわからない。もしも嘘でも夢だとわかっているから傷つくことはないけれど、どうせ死ぬなら真実の言葉だったと信じて死にたい。


 私は気楽な気持ちで頭を縦に動かし、両親らしきウニョンウニョンに、いいよと答えた。


「あら?眠そうですね。長時間の手術でしたし、とてもお疲れになったでしょう。では一旦、ご両親には退室していただきましょう。どうぞ、ゆっくりとお休みになってくださいね」


 ウニョンウニョンの看護師さんがそう言って、私の体に掛けているシーツを掛け直す。看護師さんに言われて、私は自分が眠いことに気が付いた。ああ、本当だ。何だか、とても疲れちゃった。それに凄く眠くなってきた。


「手術が終わったばかりでする話じゃなかったな。済まなかった。またお前が元気になったら、話をしよう。今はゆっくり休みなさい」


「そうね。あなたの体が一番大事ですものね。ゆっくり眠って体を休めなさい。おやすみなさい」


 そう言って三体のウニョンウニョンが部屋を出ていった。私は真っ白の天井を見つめながら、眠たい頭で今の自分について考えてみた。私は前世では手術が失敗して死んでしまったはずなのだ。それなのに手術が成功して、おまけに両親から謝罪されて、一緒にいようと言われる夢を見るなんて、自分に都合が良すぎて何だか虚しくなってしまった。なんて嘘くさい夢だろう。そういう意味で逆に笑える。


 でもウニョンウニョンに転生していた人生の最期は、矢に射たれまくって最後は火に身を投げて溶けて死んだはずだから、痛いとか熱いと思いながらあの世に行くよりは、嘘くさくても今の夢の方がいいのかもしれない。……だって嘘くさいけれど、あれは手術前の私が密かに、そうなれば良いのになと願っていた夢だったんだもん。


 私は生まれて初めて、最後に良い夢を見させてくれた神様に感謝しながら永遠の眠りについた。














 ……はずだったのだが、私がウニョンウニョンに転生したこと自体が夢だったのだと知ったのは、手術が終わった次の日のことだった。

本編は10話で完結します。

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