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ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話  作者: 三角ケイ
本編 ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話
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 震動が伝わってきた方向に向かうと、暗い森を抜けたところに一台の馬車が止まっていた。森を素通りすることなく馬車が止まってくれていて良かった。馬車はついさっき止まったばかりのようで、馬も馬車も砂埃や泥跳ねが付着していて随分と汚れていた。


 長時間走りっぱなしにさせられていたのか、随分と馬の息は荒い。それに、どうも馬は飼い主から酷い扱いを受け続けているようで、馬のお尻には鞭で叩かれて出来たと思われる古傷の跡が無数についていた。更には古傷の上に新しく出来たばかりの傷もあり、そこから血が出ているのが匂いでわかって痛々しさが倍増された。


 どうやら私が転生したウニョンウニョンは本来ならば、空腹でなくとも他の生き物の血液の匂いを嗅ぎ取ると、その生き物を捕食しようとするようなのだが、前世の記憶が根強いせいか、血の匂いを嗅いでも馬に対して食欲が沸くことはなかった。栗毛で黒目がちの瞳が愛らしくて、傷が痛々しい可哀想な馬。それしか感じない。私はそれに安堵しながら馬車の観察を続けた。


 馬同様に汚れている馬車は、よく見れば、塗装自体は黒に金縁の塗装が施されていたし、作りもしっかりとしていた。この世界のことを私は全く知らないけれども馬車を見る限りでは、この世界の文明もある程度は進んでいるように思えた。


 謎の生命体になった私を襲ってくれそうな命知らずな人間が馬車に乗っていないだろうかと大きな木の陰から見ていると、馬車の御者席に座っていた黒い覆面と黒い装束をまとっている男が御者席から降りて、馬車に回り込み扉を開けた。すると馬車の中から御者の男と同じような服装をしている二人の男達が、大きな布袋を二人がかりで重そうに抱え、馬車から出てきた。


 三人とも覆面をし、皆、帯剣している。こんな人気の無いところでも覆面を外さないのは、どうしてだろう?三人はやたら周りをキョロキョロと見回して警戒している。何だか怪しい。素性を知られるといけないような、後ろ暗いことをしている人達なのだろうか?


「早く森に捨てようぜ。夜が来る前に森を出たい」


「ああ、そうだな。急いで捨てよう」


 捨てるという男達の言葉。もしかしたら彼らは悪徳産業廃棄物収集運搬業者なのだろうか?産業廃棄物を森に不法投棄しに来たのなら、そりゃ、素性を知られたくないだろう。と、私が覆面の理由について考えていると、御者の男が地面に布袋を置いている二人の男に声をかけた。


「なぁなぁ。その女、捨てる前にやっちまおうぜ」


 えっ、どこに女の人が!?と驚いて、よく見たら布袋が不自然に揺れ動いている。生きている人間を袋詰めにして運ぶなんて、どう見ても普通じゃない。確実に犯罪臭がする。不穏な雰囲気を察知した私の体は更にウニョンウニョンと蠢き、身を震わせ出した。


「何言っているんだ!?王子様のご命令以外のことはしてはならん!」


「だって、そんじょそこらの娼婦とは格が違う、れっきとした貴族の、しかも公爵令嬢だぜ。本来なら俺らみたいな人間には触れることも叶わない極上の生娘だ。どうせ魔物が棲むと言われる森に捨てられて死んでしまう運命だ。それなら最後に俺らが味わったってバチは当たるまいよ」


「うっ。それは……」


 王子様に公爵令嬢?わけがわからない。もっと情報がほしい。私は出来る限り身を低くしてにじり寄っていくことにした。女性に不埒なことをしようと言い出した御者の男は二人の男が地面に置いた布袋を開けて、中から女性を引きずり出した。


 可哀想に猿轡を噛まされて両手を後ろで縛られているようだ。距離が近づいたおかげで女性の顔が私にも見えた。わぁ!綺麗な人!こんなときに不謹慎かもしれないけれど、思わず、そう感嘆の声を上げそうになってしまったほど、袋から出てきた女性は今まで見たこともないくらいに綺麗だった。


 黄金色の髪に、二重で切れ長の青い瞳は意志が強そうな光を放ち、両手を後ろ手に縛られて猿轡もされていたが心は屈していないのか、男達をキッと睨みつけている。細い眉と長いまつ毛、鼻筋は通っている。とても凛々しい美人さんだ。体型もパリコレのモデルのように背が高くて細身の女性は、スカート部分の布がたっぷりで大小様々なダイヤモンドがジャラジャラと銀糸で縫い付けられている重そうな白色のドレスを着ていた。


 これは、もしかしなくてもウエディングドレスではないだろうか。……あれ?左足の靴だけない。拐われるときにでも脱げたのかな。それにこの不自然なくらいスカートの布がたっぷりで歩くのに足さばきに苦労しそうなドレスは、スカートをふくらませる骨組みか補正下着なんかが元は入っていたのではないだろうか?布袋に入れにくいから抜き取られたのかな。


 どこにあるかわからない目をしっかと開けて、よく見てみる。とても綺麗な女性だけど美しすぎる顔は白を通り越して青白い。目立った外傷はなさそうだけれど、女性のお腹から空腹を知らせる音が聞こえてくる。いつ拐われたのかはわからないけれど、ひょっとしたら、ここに来るまで何も食べさせてもらっていないのではないだろうか?


「それにさ、ご令嬢が着ている婚礼衣装を見ろよ。宝石がいくつも縫い込まれているだろう?この宝石一つあれば、悠々自適に生きられるんだぜ?これから死ぬだけの女に宝石は不要だろ?ドレスを剥いで宝石を山分けしようぜ」


「……それはいいかもな」


「おい、馬鹿!お前まで何を言っているんだ!攫った公爵令嬢を捨ててくるようにとの王子様のご命令に逆らうつもりか!?」


「まぁ、落ち着いて俺の話を聞けよ。王子と公爵令嬢は婚約関係にあった。それなのに王子は男爵令嬢と恋仲となった。そこで公爵令嬢は王子と男爵令嬢が結婚できるようにと、王子に自分との婚約を解消するようにと申し出た。なのに王子はその申し出に感謝するどころか公爵令嬢に恨みを持ち、排除しようと考えたのさ」


 何だ、それ?私がそう思っていると、聞き手の男もそう思ったらしく、眉を潜めた後に言った。


「え?何だよ、それ?公爵令嬢は王子と男爵令嬢を思いやって身を引こうとしただけで何も悪いことはしていないじゃないか」


「そう、公爵令嬢は何も悪くない。しかし私財を使い果たしていた王子は公爵家からの持参金を当てにしていたから、公爵令嬢の申し出を脅迫だと邪推した。王子は公爵令嬢に男爵令嬢と別れたから結婚式をそのまま行うつもりだと嘘を吐き、挙式の日に式が始まる前に話があるからと呼び出し、眠り薬を飲ませてから俺に公爵令嬢を袋に詰めさせ、魔物が棲むという森に捨ててこいと命じたんだよ」


 ええっ!?なんて身勝手な言い分だろう!そんな無体なことをする王子を周りの人間は誰も諌めなかったのだろうか?私が疑問に思っているように、聞き手の男も首をかしげて疑問を口にした。


「そんな身勝手な理由で森に捨てられるなんて酷い話だな。罪人を森に捨てるのはよくある処罰だが、公爵令嬢は何の罪も犯していないんだろう?そんなことに関わって、俺達は大丈夫なのか?公爵家が報復したりしてこないだろうな?」


「それなんだがな。王子は公爵家や他の貴族達には、公爵令嬢が王子との結婚が嫌で、挙式当日に王宮の馬車を盗んで出奔したように装っておくと俺に言って、かなりの金額を報酬として提示してくれたんだが、全額貰えるのは公爵令嬢を森に捨てた後だと言い張って前金しかくれなかったんだ。……これって、さ。王子が俺達を裏切って、公爵令嬢を俺達が誘拐して殺害したように見せかける可能性があるように思うのだが、お前はどう思う?」


「……可能性大だな。俺達は戻らない方が身のためかもな」


 私は男達が話している王子様とやらを見知ってはいないが、話を聞いている限りでは、その可能性は確かに高そうに感じる。トカゲのしっぽ切りって奴だよね。私は男達の言葉に頷いて聞いていたのだけど、その後に言った御者の男の言葉で、ウニョンウニョンと揺れていた触手の体がピタリと動きを止めた。


「だろう?だからさ、ここで公爵令嬢の操もドレスもいただいた後、森に捨て置いて俺達皆で隣国に逃げようぜ」


 へ?何でそうなるの?公爵令嬢は何も悪いことはしていないと知っているのでしょ?そんな無実の女性に何をするつもり?私は御者の男の発言を聞き、無性に腹立たしい気持ちになったが、後の二人の発言を聞いて、急速に怒りを募らせた。


「それなら公爵令嬢を捨て置くよりも、いただいた後に隣国の娼館にでも売り飛ばしちまう方がもっと金になるぞ」


「……仕方ない。なら、それで」


『何が仕方ないだー!痴漢、アカン、絶対!でしょうがー!!』


 黒ずくめの男達が公爵令嬢に襲いかかろうとしたのを見て、怒りに燃えた私は思わず男達の前に飛び出すと、無我夢中で触手を伸ばして女性の体を掴み、女性を自分の後ろに引き寄せた。


「うわぁ、魔物っ!?」


「ヒッ!気持ち悪い!こっちに来るな!」


「待ってくれ!俺は美味しくない!食べるなら女を……」


 腰を抜かした男達が互いを押し合いへし合いしながら私から逃れようとしたので、私はどこにあるか、わからない顔をしかめ面にして、精一杯怖い魔物のふりをして、残りの触手を一斉に男達に襲いかからせた。男達の声は私のウニョンウニョンと蠢く触手に埋もれ、直ぐに聞こえなくなっていった。






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