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ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話  作者: 三角ケイ
本編 ウニョンウニョンに転生させられちゃった私と捨てられた公爵令嬢と可哀想な馬の話
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はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。

 唐突で申し訳ないのだが前世の私は、注射と内視鏡検査が大嫌いだった。理由は毎回と言っていいほど痛くて苦しい思いをしていたからだ。


 注射はただでさえ痛いのに血管が細くて注射針が刺さらず、何回も失敗されるから嫌いだった。胃の内視鏡検査は食道の筋力が生まれつき弱かったせいでカメラを通そうとすると、えずくのが止まらなくなるから嫌いだった。大腸の内視鏡検査では何度も手術を受けた後遺症で腸が癒着していたため、カメラを腸内で通そうとするたびに激痛が起きるから嫌いだった。


 そんな大変な思いをし続けたというのに、前世の私は治療の甲斐なく、大人になる前に一生を終えてしまったのだけど、それを不憫に思ったという異世界の神を名乗る存在に、あの世に行く途中で偶然出会い、来世の生まれ変わりに何か希望があるかと問われた。


 その時に金持ちになりたいとか、魔法使いになりたいとか、美人になりたい等と私も願えばよかったのだろうけれど、死ぬ直前まで病院のベッドの上で苦しんでいた私は、その時とても疲れ切っていた。


 だから私は、自分は注射や内視鏡検査を数え切れないほど受けて、その度に苦しい思いをしたから、来世はそんなものを突っ込まれない体に生まれ変わりたいと答えてしまった。……その結果、私は。


『神様ー!突っ込まれない体になりたいと願ったからって、何でよりにもよって、いかにも突っ込むのに特化したようなウニョンウニョンになんて生まれ変わらせちゃったのですかー!?』


 私は自分の手なのか足なのか何なのかわからない、ウニョンウニョンと蠢く触手を天に向かって振り上げ、神を名乗っていた存在に向かって叫んだのだけど、人ではない何かに生まれ変わった私の叫び声は人語ではなく……。


「ギギギギー!ギッギギギギギギギギギギギギギギッ……」


 と、何言ってるんだか、サッパリわからない鳴き声だけが紫色の空に虚しく響き渡った。







 『皆様、はじめまして。私、前世は人間だったウニョンウニョンで〜す。生まれて早々に今生に絶望してま〜す。どうぞ、よろしく〜!』


 ……と、誰に対して闇が深い自己紹介をしているんだよと脳内ツッコミをしながら私は生まれて早々に一人……いや、一匹と言うべきなのか?……で、暗い森の中をウニョンウニョンと蠢き進みながら自分の死地となる場所を求めて彷徨っていた。


 生まれて早々に死を求めるなんて、折角生まれ変わらせてくれた神様への冒涜だとか考えなくもなかったけれど、だって仕方ないじゃん。360度、どの角度から見ても、ウニョンウニョンしている触手が沢山集まって出来たようなグロテスクボディで、どれだけ可愛く見ようと頑張っても、リアルホラーで謎の生命体にしか見えないんだもん。


 自分が人では無いウニョンウニョンな生き物に生まれ変わったと気づいた時、ショックで気を失っちゃったほどの弱々メンタルの持ち主である私が、一人前のウニョンウニョンとして生きていけると思う?一人前のウニョンウニョンって何だとか聞かれても困るけど。こんな姿に転生させた神様に義理立てする必要ないと思わない?


 勿論、私だって命は大事だとは思うし、例えウニョンウニョンでも偏見はいけないことだと頭ではわかっている。だけど弁解をさせてほしい。何と私が転生したウニョンウニョンは、注射針を刺すように触手を動物の体に突き刺して、生きたまま血液をジワジワと吸い取っちゃうという、恐ろしい食べ方をする生き物だったのだ。


 百万歩譲って、せめて相手が苦しまないように一息に殺してから血を吸う生き物だったのなら、まだ諦めもついて、ウニョンウニョンとして生きていこうと思えたかもしれないけれど、私が転生したウニョンウニョンは、死んだ動物からは血を吸えないという、何とも難儀で極悪厄介な性質を持っていた。


 そして親兄弟が元から存在していないらしい謎の生命体であるウニョンウニョンには、他に同じ種のウニョンウニョンはいないらしく、この体に子作りの本能はないのだけど、その代わりに他の動物に自分の身を守らせようとする本能があった。その方法が実にエグくて、何と私が転生したウニョンウニョンは他の動物の体の穴に触手を突っ込んで、相手を内側から私に忠実な配下に魔改造しちゃうという、本当に恐ろしいものだったのだ。


 因みにどうやって私が、それらの方法を知ったかというと、ウニョンウニョンに生まれ変わったと知って直ぐの頃に、森の上を飛んでいる鳥を見つけた時にそれらの映像が一気に脳内に浮かび上がってきたからだ。そうやって食べ物を獲たり、自分の配下が作れるんだよ〜と、この体の本能が私に教えてくれたのだけど、それってハッキリ言ってありがた迷惑以外の何物でもなかった。


 一気に衝撃映像を見せられた方の身にもなってほしい。人間だった記憶がある私が、そんな映像を見せつけられて、わぁ、生きたまま血を吸うなんて新鮮で美味しそう!とか、まぁ、配下が出来るなんて私、まるで女王様みたい!……なんて喜ぶわけないじゃん。マジ超怖すぎだからね。夜中にトイレ行けなくなっちゃうなんてレベルの怖さじゃなかったんだから。


 もしも私に前世の記憶がなかったら何の疑問も嫌悪感もなく、ウニョンウニョンとして生きていたと思うけど、人間の記憶があるのに、そんな恐ろしい生き物として生きていくなんて私には無理無理!だって前世では切り身のお魚とかパックで売られているお肉しか食べたことがなかった人間だったんだよ、私。そんな小市民な私が生きたままの動物を食べられるわけないじゃん!うめき声を上げられたらトラウマになって絶対に病んじゃうよ!


 ウニョンウニョンの本能が他の動物の苦しむ声を聞くのが嫌なら、この体は麻痺や催眠成分のある粘液を生成して相手に噴射することも出来るから、生きたまま血を吸うときも、配下に魔改造するときも動物に声を上げさせないことも出来るから安心してね!と追加情報をくれるのだけども、そんなの知っても少しも嬉しくなかった。なにそれ超怖過ぎでしょ!どうして闇深そうなスペックだけ高いのよ!


 前世で注射や内視鏡検査で散々苦しい思いをした私が、他の動物に触手を突き刺したり、穴の中に触手を突っ込もうなんて思うわけないじゃん。ましてや他の動物を自分の思い通りに動く配下に魔改造するなんて、どこの悪の組織の一員なのよ、私?それに相手の自由意志を奪って自分を守らせるなんて、ある意味、私はボッチのままってことだよね。それってさ、よく考えたら何だか虚しくない?


 前世で生きていた頃から、私は自分がされて嫌なことは他の人には極力しないと心に決めて生きていた。何故なら私は自分がされて嫌な行為を他人に自分がしていると思っただけでも凹んじゃう弱々メンタルの持ち主だったからだ。……と、言うわけで、今の私の体が空腹を感じる前に、私は出来るだけ苦痛なく早く死にたいと思ったから、生まれて早々に死を求めたのだけど、これが中々に難しいことだった。


 先ず、自死しようにも私は自分の首がどこにあるか、わからないから首を吊ることも出来なかったし、ウニョンウニョンになった私は自分の体内で毒を生成出来るみたいなんだけれど、自分で生成した毒は当然、自分には効かなかった。


 痛いのは苦手だけど仕方ないと思って、目を瞑って……やっぱり目がどこなのかは不明なんだけれど、血を見るのが怖いから気分的に見ないようにして、森の中で見つけた尖った枝に突っ込んで出血多量死も試みてみた所、怪我を負う前に枝は折れてしまった。


 一応、木に登って飛び降りも試してみたのだけれど、ウニョンウニョンの体が飛び降りた衝撃を難なく受け止めてしまうから飛び降りで命を絶つことは出来なかった。落ちるのが駄目ならと川を見つけたから飛び込んでみたのだけど、水中の酸素を無意識に体に取り込んで吸収してしまうから溺死も出来なかった。ウニョンウニョンの持って生まれた身体能力が優秀過ぎて泣けた。


 こうなったら最後の手段と他の動物に襲われようと思って森を彷徨っているのだけど、森に住む動物は謎の生命体である私が恐ろしいようで、気配は感じてるのに一向に襲ってこようとしなかった。そりゃ、そうだよね。手に乗るくらい小さくてモフモフの小動物だったら嬉々として襲ってくれたかもしれないけど、大きくてウニョンウニョンした何だかよくわからない生き物なんだもん。襲ったら逆に襲われちゃうと思って避けるに決まってるよね。


 他に私のような生き物がいて、襲ってくれないかなと期待もしていたのだけど、残念ながら私のような生き物は現れなかった。森にいる動物に襲われることは無理そうだと悟った私は、どうしたらよいのかと途方にくれかけたとき、今まで感じたことがないような震動を地面から感じ取った。


『これって、もしかして車の走る音!いや、馬車?どっちでもいい。やったー!人間がいる!』


 四本脚の生き物が重い何かを引っ張って走っている音だと認識した私は早速人間に襲われるために、それが伝わってきた方向に急いで向かっていった。


ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

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