5.決別のレモンティー(1)
なつかしい夢だった。一年以上前の甘やかな記憶。
時刻は夜と朝の狭間。頭上には薄紫色の切なくなるような空が切り抜かれている。
あの時感じた、こぼれそうなくらいの期待が胸を突いた。夕璃子は、目尻に浮かぶ涙の珠を小指で弾いた。
慧介の部屋にはロフトがあり、そこに寝転ぶと、天窓がよく見える。
夕璃子はしがみつくように回された慧介の腕からするりと抜け、美しい顔を観察した。うっとりするくらい長い睫毛に縁取られた琥珀色の瞳は、今は固く閉じ合わされて隠れてしまっている。
その瞳がこちらに向けられることに、しばし期待した。
もし、自分が帰るまでに彼が目を覚ましたなら、やめよう、と。でも、身じたくをしても、朝食を作りはじめても、朝の情報番組を眺めながらそれを一人で食べても。彼は身じろぎもしなかった。
「私に会うために来たって、――どういうことだったの?」
夕璃子のつぶやきは、朝の静寂にしんと溶けていった。
炊飯器に残った白飯には、わかめとごま油、塩を前混んでにぎっておいた。無骨な白い皿に、焼き魚と卵焼き、ほうれんそうのお浸し、漬物、そして海苔と一緒に移していき、そっとラップをかける。
愛しい。そして虚しかった。
夕璃子は大きく息を吸って、こちらに向けられた広い背中に目をやる。つつ、とこぼれ落ちてくる涙を手の甲でごしごし拭って、始発の駅へ向かった。
途中のコンビニで、レモンティーを買った。もうこれで最後だ。そう決めた。高校生のとき、ベンチで薔薇色の夕空を眺めながら口にしたとき、あのとき感じた不思議な高揚感を思い出して、それを乱暴に胸の底に沈めた。
――それが、一昨日のことだった。