4.再会のレモンティー(1)
慧介のことが好きだ。
はっきりと自覚したのは高校2年の夏だった。二人はとても仲が良かったけれど、付き合うどころか、約束して落ち合うことも、互いの連絡先を交換することもなかった。美術教師の佐藤は退職してしまい、火曜日の定期教室もなくなっていた。タイミングが合えば、なんとなく一緒に過ごした。
必要なときは、なにかに導かれるように出会えた。それこそが悲劇だったのかもしれない。話し合う勇気を、時間を、自分から獲得しようとしなくなってしまったのだから。
そのまま3年生になり、受験の季節を迎えた。夕璃子が合格したのはふるさとから遠く離れた大学だった。偏屈な祖父母から離れたかったのが一番の理由だった。
慧介が浪人したことを知ったのは、卒業式の朝だった。そのとき初めて、自分が彼と離れ離れになるのだと思い至った。これまでと同じように、なにか不思議な導きでうまくやっていけると思ったのだ。
せめて声をかけよう、連絡先を聞こう。そう思ったものの、その日に限って彼の姿は見つからなかった。三年間で同じクラスになったこともなく、共通の友人はいない。連絡するすべもなく、そのまま引っ越しの日を迎えた。
新幹線に乗り込んだとき、夕璃子は淡いはつ恋に決別した。涙にくもった瞳には、息を切らしてホームに駆け込んできた慧介の姿は映らなかった。
大学生活は自由だった。楽しいことがたくさんあったはずなのに、夕璃子の心の中には、ぽっかりと大きな穴が空いていて、それを埋めるためだったのだろうか。擬似的な恋愛をくり返した。
はじめての恋人は大学の同級生だった。1ヶ月ほどで別れた。それから半年ほどが経ち、バイト先の先輩と付き合って別れた。彼らのことがきらいなわけではもちろんなかった。それなのに、別れの言葉を告げられても、不思議と涙は出なかった。
そうして気がつくと、大学生になってから1年が過ぎていた。