3.夕暮れと予感(1)
「石倉、おまえ、家はどこだっけ?」
「宝町。海沿いで、林駅から2駅先の……」
「――送っていく」
遮るようにそう言うと、慧介は夕璃子の手を引いて駐輪場へ向かった。途中、彼の部活仲間とすれ違い、からかわれたが、気にも留めず、何かに突き動かされるかのように黙々と歩いていた。その手は汗ばんで冷たくなっていた。
慧介は自転車の前かごに夕璃子の荷物を乗せると、後ろに乗るように示した。
「電車で帰るから大丈夫だよ」
慧介は答えなかった。強い、それでいて懇願するような眼差しで夕璃子を射抜いた。ややあって、彼女は自転車の荷台に腰を下ろした。
「つかまれ」
慧介は夕璃子の手を掴むと、自分の腹にしっかりとつかまらせた。
「行くぞ」
その宣言とともに、体がふわっと浮いて、自転車が進みだした。
山の裾まで続く田んぼは、夕方の光を受けてものがなしく輝いていた。時折、ひぐらしの鳴く声が響いては、また吹き飛んでいった。慧介は無言だった。なにかに怯え、焦っている様子があった。
「頭がおかしくなったと思われるかもしれないけど、――俺、たぶん、霊感的なものがある」
慧介は絞り出すようにそう言った。
田園風景が終わった。二人乗りを見咎められないようにするためだろう、彼は閑静な住宅街を選んですいすい抜けていく。
「ガキのころから、なんとなくヤバいことがわかるんだ。で、今は最高にヤバい。――おまえさ、今日死ぬかもしんない」
夕璃子の胸も、早鐘のように鳴り出した。頭を殴られたような衝撃だった。そして、今朝方のモノトーンの夢を思い出した。
「怖がらせて悪い。キモいって思ったかもしれない。でも、そう思うなら縁切ってくれてもいい。――ただ、今日だけは送らせてほしい」
夕璃子がなにも言えずにいると、慧介がしゅんとうなだれたのが伝わってきた。夕璃子は慌てて「信じるよ」と答えた。慧介は弾かれたようにこちらを見る。
「やだ、危ないから前見てよ」
夕璃子の言葉に、慧介ははっとして視線を前方に戻した。
「――私もね、予知夢みたいなの見るの。そして今朝、自分が殺される夢を見た。だから、森島のこと信じる」