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17.岡崎勇貴の誤算(1)

 岡崎勇貴は、女には不自由したことがなかった。自分の容姿の良さを彼はよく知っていたし、頭の回転も悪くはなかった。息をするように演じることも嘘をつくこともできた。そうすれば、人間関係は円滑に回っていく。また、実家は地元でも有名な会社を経営していて、成績も子どものころからトップだった。


そうしたものに惹かれて、彼に近づいてくるのは、自分に自信のある傲慢な女ばかりだった。そして、そうした性質の女にはひどく苛立ちを覚えた。母親に似ていたからだ。


 彼は、慎ましく、それでいて芯のある女を好ましく思っていた。そういう相手を見つけて付き合ってみるものの、彼というパートナーを得ると、皆が豹変した。彼に寄ってくる女たちと同じように。


 それならば、自分好みに磨き上げていくのはどうだろう。そう思い、家庭教師のバイトをしながら相手を物色した。そして、顔立ちは悪くないものの、醜く太り、自分に自信がない女を見つけた。


 どうしたら彼女を変えられるのか。それを考えるのは意外と楽しかった。彼女の体重が落ちていくたびに達成感もあった。見た目が変わるたびに彼女は明るくなり、自信を得て行った。そしてそれは、他の女たちとは違い、勇貴というアクセサリーを得たことによる自信ではなく、自分自身を認めていくというものだった。そして彼女は、付き合ったあとに豹変することもなかった。


 だが、あるとき、唐突に「なにかが違う」と思ったのだ。岡崎は彼女に別れを告げた。





 ふいに虚しくなった。苛立ちを覚えた。誰かを壊してしまいたい。そんな衝動に駆られたが、そのためには計画が必要だった。そこで、彼は適当な相手を物色することにした。手始めにしたのが、一人暮らしだ。大学から家が近いので毎日通学していたが、親にねだるとすぐにマンションを契約してくれた。


 そして、目をつけたのはバーだった。仄暗いから顔も覚えられにくいし、こちらのこともあまり詮索されない。都合が良かった。

普段はかけない眼鏡を用意して、目立たないように意識しながら女たちを眺めた。夜のバーには派手な女が多く、香水のにおいに辟易した。夜毎にいくつかのバーを回っているうちに、気になる女を見つけた。




 その女はちぐはぐで危うかった。

 顔立ちは綺麗なのに、化粧っ気がほとんどなく、自信がなさげだった。清楚な印象を受けるのに無防備で、無防備に見えるのに実際には隙がない。気弱そうな外見とは裏腹に、話の端々から頑固さがうかがえた。そのアンバランスさに興味を引かれた。


 彼女はたいてい、ある男と一緒に飲んでいた。女のような口調で話すその男に、ずいぶん気を許しているように見えた。勇貴は二人の会話がぎりぎり聞こえる距離で飲むようになった。


 ――どうしたらあの女を得られるだろう? 勇貴は考えてみた。この眼鏡を外して、人当たりよく話しかけてみたらどうだろう。そうも思ったけれど、人の印象に残るのは避けたい。


 やがて、二人がオカルト系の掲示板を好んで読んでいることを知った。彼女には曖昧な関係の男がいて、これからどうするかを悩んでいることも。勇貴はほくそ笑んだ。これを利用すれば絡め取れそうだ。もっと簡単な方法はある。でも、彼にとってこれはゲームだった。


 勇貴が罠について考えを巡らせているころ、絶好のチャンスが訪れた。サークルの先輩で、今は喫茶店のマスターをしている人から、店の管理を頼まれたのだ。一年ほど海外に行くらしく、その間、たまに店の換気や掃除をしてほしいと。



 こうして、材料は揃った。


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