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13.森島慧介の悔恨

 その朝、慧介が目を覚ましたのは昼前だった。一緒に眠っていたはずの夕璃子の姿がない。

 テーブルの上には朝食が用意されている。部屋もきちんと整頓されており、洗濯まで済まされていた。慧介は朝が苦手で、しばらくぼんやりしていたが、朝食を口に運んだときにはすでに冷めていた。

 彼女がいないことを疑問には思ったものの、授業に遅れないように先に行ったのだろうと、楽観的に考えた。



 おかしいと思いはじめたのはその夜だった。大学でも夕璃子の姿を見かけない。メッセージを送っても返信がない。夕飯の材料を買って夕璃子の家を訪ねたものの、部屋は真っ暗で、自転車はあるのにインターホンを鳴らしても誰も出なかった。

 夕璃子のマンションの前には喫茶店がある。そこで閉店間際まで待ったけれど、夕璃子が戻ってくる気配はない。不安に思いながらも行く宛てもなく家に戻るしかなかった。


 翌朝の目覚めは最悪だった。夕璃子が殺される夢を見たのだ。叫びながら飛び起きて、手元の時計をたぐりよせると11時を少し過ぎたところだった。

 高校生のときと同じように、それは確かな予感だった。


 部屋着のまま、寝ぐせも直さずに慌てて大学へ向かい、夕璃子を探す。彼女の姿はどこにもない。夕璃子の友人を見つけて電話をかけてもらう。紫望山の喫茶店に向かっているということはわかったが、電話は悲鳴で途絶え、そのまま繋がらなくなった。




 もう手遅れだ。直感的にそう思った。慧介がへにゃりとその場に座り込んだとき、袖を強く引かれた。


「石倉さんがさっき会ったのは、うちのお婆ちゃんだと思う」


 華奢な女が慧介を見下ろしていた。何度か話しかけられたことのあるその女は、綺麗な顔立ちをしているけれど、人を見下したような視線が嫌で、無視をしていた奴だった。彼女はいつもの人形めいた表情を崩して、「二限の授業中、山のほうに行く石倉さんを見たの」と言った。


 講堂がしばしざわめく。


「その後を黒い車がつけているような気がした。――ただ、今思うと、自分でもどうしてそんな突拍子もないことを考えたのかわからないけれど――それでお婆ちゃんに見てきてもらうように頼んだのよ。紫望山には私の実家がある。女の子がひとりで歩くには少し危ない場所も多い。ふいに死角になる場所があるの」


 東久世あやみは、一息でそう言った。


「お婆ちゃんからメールがあった。彼女はそこで男に待ち伏せされていたそうよ」


 ひゅっと喉が鳴るのがわかった。


「落ち着きなさい。お婆ちゃんが目的地まで送っていったから事なきを得た。でも、――気になることがあるの」


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