9.分岐点の先(2)
少しずつ曲がり角が近づいてきた。道なりにゆるやかなカーブを描いていて、なるほど、たしかに隠されるように雑木林が広がっていた。観光地が近いし、時間も早い。何より開けた道だと思っていたけれど、死角は存在したらしい。
「おばさん……!」
「しっ。静かにしな」
夕璃子は黒い車を見つけて、ひっと喉を鳴らした。雑木林に隠れるようにして、道路の右端に車が停められていた。真っ黒なスモークガラスに覆われて中が見えないのにぞっとする。
そして、雑木林側の端には男が立っていた。携帯を片手に煙草を吸っている。二人が通れるのは車と男の間だけ。それはまるで、罠のようだった。
もしも一人でここを通っていたら――。夕璃子は、ごくりと喉を鳴らした。
「決して顔を上げるんじゃないよ。おばちゃんが守ってやるからね」
おばさんは、夕璃子の肩を抱くようにして囁いた。親子かなにかに見えているかもしれない。そのとき、舌打ちの音が聞こえた。夕璃子の鼓動が跳ね上がる。男の顔を見ることはできなかった。よく磨き上げられた黒い靴だけが視界に残った。
ややあって、男はかつかつと靴を鳴らし、車に乗り込んだ。それからもしばらく、のろのろ
と横付けされていたけれど、やがて遠くへ消えていった。
「――本当に危なかったねえ。それにしても、県外ナンバーだったね。あんな遠くから……」
おばさんの額にも、汗が一筋伝っていた。
彼女は約束通り、山の上の喫茶店まで夕璃子を送り届けると、手をひらひら振って自転車に乗り、走り去っていった。何度もお礼はいったけれど、名前や住所を聞くのを忘れてしまった。




