1.夢の余韻と厚焼き玉子のサンドイッチ(1)
その朝は、悲鳴とともに始まった。
布団を蹴り上げるように跳ね起きた夕璃子は、ぼんやりした頭のまま、周りを見渡す。
ベッドとテーブルがあるだけの味気ない部屋。見慣れた自分の家だった。
薄い寝間着の上から、胸に手を当てる。鼓動がどくどくと波打っているのに安堵した。――殺される夢を見たのだ。
シャワーを浴びても着替えても、何かに追い立てられるような気持ちは消えなかった。
どこで殺されたのか、――誰に、どんなふうに。その記憶はない。ただ、じんわりと残った恐怖だけが胸を支配していた。
誰かに話したら「夢のことなんだからそんなに怯えなくても」と言われるだろう。
そして、唯一この出来事を打ち明けられる人には、もう連絡しないと決めていた。
夕璃子は申し訳程度の化粧を済ませ、テーブルの上を綺麗に片づけると、白い麻のエプロンを手にキッチンに立った。
狭い調理台の補助として買ったワゴンを引き寄せ、そこに材料を並べていく。
卵、ハムに牛乳、バター、マヨネーズ、それから冷凍しておいたパセリ。サンドイッチ用の耳なしパン。
卵を割り入れたら、牛乳を少し注ぎ、よくかき混ぜる。ハムは小さな四角形に刻んで卵に混ぜる。パセリと塩を加える。
卵焼き器を温め、バターをひいて、卵液を流し込んだ。
金色の卵が、ふちのほうから少しずつ固まっていく。
料理に集中しようとしても、夕璃子の心は、ここから離れたところに寄せられたままだった。彼女は自分のこれまでを思い出していた。
色のない夢を見たときはいつだって注意が必要だ。だって、それは予知夢なのだから。