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【20話】2度目と初めての告白

トイレを出て、さっき3人で座っていた席に目をやるが誰もいない。


慌てて店内をぐるっと見渡したが結果は同じだ。


「あ、すみません、さっきここの席に座ってたんですが、連れが出ていきませんでしたか?」


ちょうどレジ付近で仕事をしていたスタッフに聞いてみた。


「ああ、女性のお2人でしたら少し前に出ていかれました。」


「あ、あの、代金は…」


「はい、頂いております。」


どうやら俺の分まで払って出て行ったらしい。


スタッフに礼を言って店をあとにする。


やっぱり柚葉怒ってるだろうなあ。


後になって考えてみると美結には悪いことをした。


好きな異性にきょうだいのように見られているというのはなんとも辛いことだろう。


それも姉のように見られているのならともかく妹として見られているのだから、恋愛対象の範囲外だと言われたも同然だ。


まあ俺はそんなつもりで言ったわけじゃないし、恋愛対象外というわけでもないのだが。


それはともかく、2人はどこへ行ったんだ。


見つけてひとこと謝っておかないと。


柚葉に電話をかけてみる。


「もしもしおにーちゃん?やっと終わったの?」


無視されるのを覚悟していたので、すんなり出てくれたのは意外だった。


「ああ、さっきは悪かった。今どこにいるんだ?」


「ちょっと買い物。もうすぐで終わるから、どこかでちょっと待ってて。」


「分かった。じゃあ屋上の広場で待ってるよ。」


ここの屋上の広場は綺麗に整えられた緑が秩序正しく生い茂り、その間にベンチがまばらに並べられている、いわば空中庭園のような場所で、待ち合わせなんかでよく使われる。


屋根などの太陽を遮るものは何もない場所なので、あたたかい春の日差しが降り注ぐ。


俺は一番奥側にあるベンチに腰掛けてボーっと遠くの山を眺める。


ああ、癒される。


ここ数日でいろいろありすぎて気がめいっていたところに春の風が心地いい。


遠くで鳥が飛んでいる。


先頭で飛ぶ鳥を追うように後ろからも1羽飛んでいる。


追いつきそうで追いつかない。


横からもう1羽やってきた。


2羽の間を縫うように飛ぶ。


そのまましばらく飛んで後ろの2羽は並んで飛び始めた。


そして最後には…


俺の意識は山の向こうへと消えていった。


ん…?


なんだか頭のあたりが温かくて柔らかい。


とても心地がいい。


それにとてもいい香りがする。


甘くてふわっとした香りだ。


…って、俺寝てる?


ハッとして目を開ける。


「あっ、えーくんおはよう。」


「おにーちゃんやっと起きた。」


俺の頭は2人の太ももの上だった。


というかほぼ背中まで乗り上げていた。


「あれ、俺いつの間に寝て…」


「ゆずたちが買い物終わって来た時にはもう寝てたんだよっ。」


もう日は陰り始めていて、あたりは綺麗な夕焼けに染まっている。


これはかなり寝てしまったらしい。


「そうか。そ、それでこれは…?」


俺が頭のあたりを指さして尋ねる。


「ベンチだと固いから痛いかなあと思って。」


そう美結が答える。


俺が聞きたかったのはそういうことじゃないのだが。


「まあ、その、ありがとう。それとさっきは悪かった。」


俺は2人の太ももから起き上がり、昼のことを素直に謝った。


「そのことでね、聞いてほしいことがあるの。ね、柚葉ちゃん。」


そう言って美結が柚葉に何か促すようなそぶりをする。


俺もつられて柚葉を見ると、夕焼けのせいなのか顔が赤く染まっている。


それに朝から着ていた服とは違い、春らしいピンクを主体にした服に身を包んでいる。


途中で買った服に着替えたのだろうか。そのふわっとした服と柚葉の顔が相まってとてもかわいい。


「あ、あのね、おにーちゃん。よく聞いて。」


柚葉はそう言ってもじもじし始めた。


その大きな瞳が少し潤んでいるのか、夕焼けの光をキラキラと反射させている。


しばらく間が開いてようやく口を開いた。


「ゆずね、その…おにーちゃんのこと…」


「え?なんて?」


「おにーちゃんのことが好きです。」


「え?いきなりどうした。まあ俺も普通に好きだけど。」


「ち、ちがうの…ゆずの好きはそうじゃなくて、美結ちゃんと同じ好きなの。」


え、ええええええ!?


待て待て、柚葉が?


俺を?


美結と同じって、異性として好きってことなのか?


きょうだいだぞ俺たち。


ま、まあきょうだいじゃなければ俺も柚葉のことを好きになってたかもしれないが…


俺が衝撃を受けてどう言っていいのか分からずフリーズしていると、美結も後に続いて話し出した。


「えーくん、私もえーくんのことが好き。前は急で動揺しちゃって恥ずかしくてちゃんと言えなかったけど、もう1回ちゃんと聞いて。私ずっとえーくんのことが好きでした。私と付き合ってください。」


美結はそう言い終えると同時に柚葉を肘でつついた。


「ゆっ、ゆずとも付き合ってくださいっ。」


「私たち2人と付き合ってください。」


俺は正直もう何が何だか分からなくなっていた。


美結も柚葉も俺のことが好き。


そこまでは何とか理解できる。


問題はその後だ。


美結とも柚葉とも付き合う?


どういうことだよ。


美結と付き合うのは良いとして、柚葉は妹だぞ?


それを置いておいたとしてもだ。


そもそも2人と同時になんて付き合えるもんか。


どうすりゃいいんだ俺は。


この場から逃げ出したい。


でも2人の潤んだ瞳と切ない表情を見るとそんなことはできなかった。


「ダメ…かな。」


沈黙に耐えられなかったのか美結が口を開く。


「ごめん、ちょっとだけ待ってくれ。正直俺は2人の気持ちは嬉しい。めっちゃ嬉しい。飛び上がりたいくらいだ。でも頭の中がぐちゃぐちゃでどうしたらいいのか分からない。整理がつかないんだ。だから…」


「分かった。私たちこそごめんね。えーくん困らせちゃったね。」


「ごめんね、おにーちゃん。」


2人に謝られると胸の奥が痛くなるのを感じた。


「いや、謝らないでくれ。俺がはっきりしないのがダメなんだから。ほんと悪い。でも答えはちゃんと出す。考えてちゃんと答えるから、それまで待っててくれ。」


正直にそう言うと2人は納得したようにうなずいてくれた。


「じゃあ時間ももう遅いし帰るか。」


帰り道、3人並んで歩いたが誰もほとんど声を発しなかった。


それぞれ思うところもあったのだろう。


家までの道のりがこんなに長く感じたのはこれが初めてだった。


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