【17話】柚葉と美結とサボりの朝
ジリリリリリ…
けたたましく鳴り響く音で目が覚めた。
ソファーの前に置いた時計は8時を指している。
「うわ、やっべ。もうこんな時間かよ。」
今日は運悪く1限目の授業がある。
開始まではあと1時間あるので急げば間に合うのだが、満足にトイレに行けないということが納得できない。
そういえばこんな時間なのに柚葉がいない。
もう出て行ったのか?
いや、出て行ったならリビングで寝ていた俺が気づかないはずはない。
ということは、もしかしてまだ寝てるのか?
「おーい、柚葉、いるのか?」
柚葉の部屋をノックしてみるが反応はない。
「入るぞー。」
部屋に入るとそこには天使が2人、すーすーと寝息を立てていた。
布団が2枚敷いてあるのにも関わらず、片方の布団で枕も共有して、顔と顔が引っ付きそうなほど近くで寝ている。
なんだ、美結も柚葉の部屋で寝てたのか。
俺の部屋はやっぱり落ち着かなかったのか?
でもこの2人の寝顔って並んで見るのは初めてだけど、どっちも負けず劣らずだよなあ。
ずっと見ていられるよ。
って違う違う。
俺は起こしに来たんだ、見とれてる場合じゃねえ。
「おい、柚葉、美結、起きろ。もう8時だぞ。」
「あ、あれ、えーくん?」
先に美結の方が気づいた。
「もう8時だって。お前も今日1限からだろ?」
「あっ、そっか。私えーくん家にお泊りしてたんだった。」
えへっと無邪気に笑ってみせる。
「笑ってる場合じゃないって。もう時間ないぞ。」
「あ、あれ、もう朝?って、おにーちゃん!?」
ようやく柚葉も目を覚ました。
「もう8時過ぎてんだよ。お前もう出ないと間に合わないだろ?」
「わっ、もうそんな時間なのっ!?おにーちゃんもっと早く起こしてよっ!」
「俺だって今起きたんだよ。とにかく急ぐぞ。ほら、美結も。」
そう急かしたが、美結はあくびをしながら大きく伸びをして言った。
「女の子には準備があるんだよ。だからもう1限は間に合わないよ~。」
「そうは言っても昨日もサボったじゃないか。今日はちゃんと行っといた方がいいって。」
「えーくんってばそんなに真面目ちゃんだったっけ?」
そういってクスっと笑う。
「いや、真面目とかじゃなくて、ただ昨日も休んだし連続で休むのはまずいんじゃないかと…ってそんなこと言ってる間に準備しろって。」
「そういうえーくんだって準備してないじゃん、ねー、柚葉ちゃん。」
「えっ、あっ、うん。」
なんだ急に驚いたような返事をして。
またウトウトしてたのか?
「とにかく、2人とも急ぐぞ。」
「やだ、今日もえーくんと一緒にいる。」
恥ずかしそうな美結のその言葉にドキッとする。
学校なんて別に行かなくてもいいかという感情さえ芽生えてくる。
「何言ってんだよ、ほら…」
早く行くぞ、そう言いかけた瞬間。
「ゆ、ゆずも今日はおにーちゃんと一緒にいる。」
柚葉のその言葉に驚きと嬉しさと恥ずかしさとで、俺の頭はパンク状態になり、一瞬フリーズしてしまった。
柚葉に一緒にいたいなんて言われたのはいつぶりだろうか。
そんな言葉はしばらく聞いていなかった。
もしかすると小学生の時以来なんじゃないか。
吹っ飛びそうになった冷静さをなんとか保ちつつ柚葉に問いかける。
「そういってくれるのは嬉しいけど、学校まだ今なら急げば間に合うだろ?」
「やだ、おにーちゃんと一緒がいいのっ!」
かなり強い口調でこう返された。
正直嬉しくて学校なんてどうでもよくなってきた。
でも最近の柚葉と全然態度が違うじゃないか。
まるで昔に戻ったみたいだ。
「ね、柚葉ちゃんもこう言ってるし、今日は3人で遊ぼ?」
美結も柚葉の味方をする。
もう諦めよう。
俺も学校より2人と遊ぶ方がずっといい。
「分かったよ、もう。でもお前これで単位落としたなんて言うなよ。柚葉も今までほとんど休まず真面目に行ってたのにいいのか?」
「いいのっ!おにーちゃんと一緒がいいもん。」
本当に昔の柚葉に戻ったみたいだ。
一晩の間にいったい何があったらこうなるんだ。
まあ俺はこっちの方が嬉しいけど。
「分かった分かった。じゃあ朝飯作ってくれよ。」
「うんっ、分かった!ちょっと待っててねっ。」
そう言うと柚葉はパジャマのまま、ご機嫌そうにキッチンへ降りて行った。
「なんか昔に戻ったみたいだよな、柚葉。昨日の夜何かあったのか?」
柚葉が離れていったのを確認してから美結に聞いてみたが、
「女子会の内容を聞くのはマナー違反だよ、えーくん。」
と言って答えてくれなかった。