9時限目 姫たち、真実を見る
「エルト、お主何か隠していることは無いか?」
姫たちの謝罪も終わったが、エルトの事が気にかかっている賢者 オレイアス
「隠してるって何を?」
エルトは何を問いかけているのかがよくわからなかった
「学園でこの姫たち以外にもいじめを受けたことは無いかと聞いとるんじゃ」
「……」
「黙るという事は、あったと認識しても良いんじゃな?」
少年は静かに頷いた
「どういう…事?」
「あんた、ウチら以外にもあったんか?」
「どうしてそれを早く言わないんですの?」
「水臭いじゃねえか!」
「そうですよ!」
姫たちは声を荒げていた
エルトが学園で授業の遅刻を度々繰り返していたことは知っていた
しかし、自分たち以外にもいじめを受けていたことは全く知らなかった
「僕が言っても、誰も信じてもらえないと思ったからです…。学園の皆さんから、いじめを受けていたことは日常茶飯事でしたし…」
エルトの言葉に姫たちは言い返せなかった
自分たちも、エルトにいじめを繰り返していたのだから
「確かに、許されないことをしたことは認めるわ。でも、状況は変わったのよ。私たちは、あなたのおかげで助かった。ならば今度は、私たちがあなたを助ける番」
エディールは力強く声を発する
「罪滅ぼしといえば聞こえが悪いですが、私たちはエルトの力になりたいんです」
「ウチもや!これまでの分、しっかりと償う覚悟でおるで」
「あたしもだ!」
「私もですわ!」
姫たちは全員同じだった
しかし
「もうどんないじめにあったかなってあり過ぎて、全部思い出そうにも無理ですし…」
一体、エルトはどれだけのいじめに耐えてきたんだ?
「まあ、そうなるじゃろうな。そこで、妾の出番じゃ」
と、オレイアスが何か提案がある言い方をしてくる
「ああ、アレを姫様たちに見せるんだね」
エルトは、ため息をついた
「アレって何やの?」
フィルラーは興味深そうに聞いてくる
「妾が得意とする魔法の一つ、記憶再生じゃ」
記憶再生
対象の人の記憶から特定の記憶を引き出し見ることが出来る魔法
「でも、その魔法って、オレイアス様しか見れないのでは?」
エディールはその魔法の欠点を知っていた
記憶再生の欠点
それは、術者にのみその人の記憶が見える
「勤勉じゃの、お主。だが、心配ない。皆、円になって手を繋げ」
賢者に言われるがままに、エルトと姫たちは円になって手を繋ぐ
「あの、これって何の意味がありますのん?」
「互いの手を繋げば魔法もつながるメリットを活かしているんじゃ」
「そんなことができるんだ…」
「初めて知りましたわ…」
魔道学園で魔法を習っているとはいえ、知らないこともある
姫たちはそう痛感した
「あの、それってどういうことですか?」
ただ、約一名分からない人もいる
「ラディール、要するにや、手を繋げばみんなで記憶再生が見れるということや」
「あ、そう言う事ですか」
すぐに納得した
「さて、準備はいいかの?エルト、お主は学園の記憶を意識するように」
「分かった…」
オレイアスはエルトの後ろに立ち
「では、ゆくぞ」
エルトの頭に手を置き、記憶再生を発動
そして、その魔法は姫たちの脳内にも行き渡る
一瞬、眩しい光に包まれる
すぐに、見覚えのある光景が見えた
この魔法の特徴は、主観的ではなく、客観的、つまり第三者が見るような光景になる
最初に姫たちの目に映ったのは、庭で花の手入れをしているエルトの姿
鼻歌を歌いながら、花に水をやっている
そこへ
「おい、最下位のエルト。お前、こんなところで油売ってないで俺らと遊ぼうぜ」
「そうだ、そうだ」
「一人で何してんだよ?」
エルトに絡んできたのは男3人組
「嫌だよ。僕はお花見るのが大好きなんだ」
「気持ち悪っ!」
「そうだ、こうしてやろう」
一人の男が花畑を踏みつぶし始めた
「な、何するんだよ!?」
「あ?ここ、お前の所有地じゃないだろ?だから、ここを踏み荒らしたのお前のせいにしようってな」
「どうしてそんな事をするんだ?」
すると、男はエルトの胸ぐらをつかんで
「おい、俺たちは貴族なんだ。言葉遣いには気を付けな。お前は、なんの役にも立たないクソ平民。権力があれば、お前を陥れることだってできる。俺たちはそれを行使することもできる。覚えておけよ」
「なあ、そもそもこいつ、学園にいる必要あんの?」
「そうだな、一人定員割れしたから、仕方なくは入れることが出来たんだもんな。でも、そんな奴なんてお荷物にしかならねえから、とっとと出てってくれないかな?」
「じゃあ、一発お見舞いしてやらねえとな!」
男はエルトの腹を蹴った
鳩尾を喰らったのか、エルトは苦しみ悶えていた
「この学園は遅刻も罰則の対象となるからな、それを繰り返していけば、お前はこの学園にいる必要はなくなるんだよ」
男たちは笑いながらその場を去った
これが、エルトが最初に遭ったいじめ
この日以降、エルトは男三人組に毎日絡まれ、背中、腹を殴られ、いつも手入れしていた花畑を荒らされて、それを度々直して、毎度毎度授業の遅刻をしてきた
三人組以外にも男女から教科書を破られたり、トイレで水を掛けられたりなど
しまいには、教師までエルトのいじめを見過ごすようになり、学園全体がエルトをいじめるようになっていた
当然、そこには罵倒していた姫たちの姿も
そして、ここで魔法は途切れた
「これが、エルトの学園での記憶じゃ」
平静で言うオレイアス
だが、体は小刻みに震えている
それだけではなかった
「酷い…」
「想像以上だったな…」
「許せませんわ…」
「ウチ、怒ったで」
「私も怒りました」
姫たちも同様だった
「あ、あの…」
エルトは声を掛けようとするが
「エルト、妾たちは怒ってるんじゃ!お主だって、怒ってるじゃろ?」
賢者が珍しく声を荒げる
「…怒ってないと言えばウソになる。でも、マスターにも迷惑かけたくないし…」
「迷惑じゃと!?お主、ここままでいいとでもいうのか?正直、失望したぞ」
「そうよ、賢者様の言う通りよ!」
「さっき、ラディールも言ってただろ?お前の力になりたいって」
「だったら、私たちを頼りなさい!」
エルトは、全員の目を見た
全く泳いでいない怒りの目をしていた
これ以上、自分がどう言ったって絶対にやり通すんだろうなと少年は心で思っていた
「すみません、僕の目が節穴でした…」
「エルト、あとは私たちに任せなさい」
「おうとも!あたしらがきっちりお灸据えてやっからよ!」
姫たちは早速学園に行く準備に取り掛かろうとしたとき
「お主ら、これから学園に戻るのか?」
オレイアスが素朴な質問をしてきた
「はい。それが何か?」
「妾も連れて行ってくれぬか?」
「賢者様をですか?」
どういう意図なのか
エディールは分からなかった
「お主らが話したところで、学園は過ぎた事、今更そんな話を掘り返す必要がどこにあるとか抜かすに違いあるまい」
確かに、そう言われる可能性はゼロではない
エディールは賢者に言う
「もしかして…、さっきのを…」
「そうじゃ。それだけでなく、学園生徒及び教師陣全員の記憶を見させてもらう」
「「「「「ええええええええええええ!!!!???」」」」」
姫たちはそろって驚いた
「何じゃ?妾、おかしなことを言ったかの?」
オレイアスはきょとんとした顔をする
「あ、あの、仰ってること分かってます!?記憶再生って、かなりの魔力を要するんでしたよね?学園全員って…、合わせて2050人ほどなんですけど…」
「それくらいの人数ならどうという事は無い」
姫たちはポカンとしていた
一体この方はどれだけの魔力量があるの?
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します