84時限目 少年、発想を変える
変化猫は一つゲームをしようと言う
「今から日没までに、この市場の中に紛れている私を見つけることができたら、あなたと契約すると約束するわ」
「随分とシンプルなゲームだね」
「私、面倒くさいことは苦手なの。こうした方が、手間も省けていいの」
「これは使ったらダメというのはある?」
「ダメという訳ではないけど、探知魔法を使うのはお勧めしないわね」
それもそうだ
この猫がエルトに変身したとき、魔力の質などが全部同じだったからだ
「あとはどんな魔法を使ってもいいわ。ただし、人に危害を加えるようなものは厳禁よ」
「当たり前のことだね」
「さ。こうしているうちにも時間は削られていくわ。では、ゲームスタート!」
そう言って、その場から姿を消した
さすがはSSSクラスの召喚獣
見つけるのも、そう容易ではないことはエルト自身も分かっている
無闇に探すのは、かえって時間の無駄になる
日没までは1時間半
契約をかけたゲームが始まった
☆
市場と言えど、広い
どこから手を付けたらいいものか
猫は狭い路地などにいそうだとエルトは考えるが、あの変化猫がそこにいるとは限らない
「うーん、どこにいるんだ…?」
辺りを探しても、あの猫の反応はない
うまく場に溶け込んでいる
それからも、エルトとニルは変化猫を探すが、一向に見つからない
もう1時間は過ぎていた
「どうするの、エルト君!日没まで30分しかないよ!?このままだと、もう二度とあの子には会えないよ!?」
ニルは慌てまくっていた
エルトも内心焦っていた
落ち着け…、何かあるはずだ…
その時、脳裏にオレイアスからある魔法の説明を受けている記憶を思い出す
『この魔法は、相手を攪乱させるために使われることが多い。ただし、10分でもかなりの魔力を消費するから、下手するとすぐに魔力が枯渇してしまう。使うときは慎重に』
今なら、その魔法が使える
「ニルさん、ちょっといいですか?」
エルトは彼女の手を握る
「な、何してるの!?」
「作戦を思いついたので」
「作戦?」
☆
さてさて、残り30分か
エルトは苦戦しているみたいね
簡単に捕まえられるようじゃSSSランクの召喚獣の名が廃るわ
ちなみに私は、たまたま通りがかった女の人の姿に変装中
っと、目の前にエルトがいるわね
気付くかしら?
スッと素通りする
やっぱり、気付かないか
あら?
あそこにいるのは、ニルだったっけ
別行動で私を見つけようとする作戦かな?
これは無駄な足掻きね
と、ドンと誰かの肩とぶつかる
「あ、すみません…」
「いえ…」
私は驚いた
さっき素通りしたはずのエルトがまた私の目の前にいる
どういうこと?
「そこの方、エルトという少年を見かけませんでしたか?」
今度は見知らぬ男性に声を掛けられ、しかもエルトの事を知ってる
知り合いなら、話してもいいわね
「エルトなら、さっきここを通って南の方角へ行きましたよ」
そう言い終えると、男は私の手首をつかみ
「変化猫、見つけた」
「…え?…え?」
すると、見知らぬ男性がエルトへと変身した
「ど、どういうこと…?」
「君の特技を真似ただけ」
「私の特技?」
「そう、偽装と分身を使ってね。でも、君にばれないかヒヤヒヤしたけど、うまくいってよかった」
☆
女性は変化猫へと戻った
「よく私だと分かったわね…」
「分身の僕を見て動揺している女性を見たら、もしかしてと思ったからね」
「あの時から見られてたのね…。やられたわ…」
猫はふぅっと深呼吸
「エルト、約束通りあなたと契約するわ。あなたの血を一滴私のおでこに塗りなさい」
「おでこに?」
「それが契約の証となるの。そんなに難しいことじゃないでしょ?」
ナイフでピッと指先を切り、ぷっくりと膨らんだ血の球を変化猫の額に塗る
猫の体が白く光り、やがて収まった
「これで、契約完了よ。よろしくね、エルト」
「こちらこそ。えっと、それでなんだけど」
「何?」
「君に名前を付けてもいいかな?」
「名前?」
「うん。さすがに変化猫って呼ぶのも、主従の関係っぽくない感じがするんだけど…。だめかな…?」
「あなた、素直というか律儀というか…。いいわよ、つけても」
「ありがとう。それじゃ、ケリーはどう?」
「ケリー。気に入ったわ」
「喜んでもらえて何より」
こうして、エルトに新たな仲間が加わった
どうも、茂美坂 時治です
半年ぶりに再開です