83時限目 少年、召喚術を使う
エルトは、召喚獣の世界での事を話す
「そうか、魔族は生き残っておったか。しかし、さすがはエルトじゃ。傷一つなく戻ってきたんじゃからの」
「はい」
「強すぎるにもほどがありますね…」
少年は顔がまだ安堵の顔じゃない
賢者は、察した
「お主、何か隠してるじゃろ?」
「…」
「無言は、認めると同じじゃぞ。魔族に何か言われたのか?」
「…」
最期の言葉がどうしても離れなかった
これは、自分で解決するしかない
その時
頬をギュッと抓られる
「い、いひゃい!!」
「これ!!何も言わぬとはどういう事じゃ?シャキッとせんか!」
「わ、わはっははら…(わ、分かったから…)」
エルトはその言葉を伝える
「ファイザー家の恐るべき力…か。聞いたことがないの。ディルルはどうじゃ?」
「う~ん、私もその一族の事は知らないわ…。むしろ、魔族が知ってて人間やドラゴンが知らないっておかしくない?」
「お主の言っていることも分かる。加えて言えば、何故ファイザー家の力が周知されていないのも謎じゃがの」
「それもそうね」
二人の秀才でも分からないことのようだ
本当に、自分は何者なんだろう?
☆
翌日
ニルは実技の授業で召喚術を試してみる
周りの生徒も
「大丈夫かしら…?」
「もう、10回も喚び出せていなかったよね」
不安の声が漏れる
最後のチャンスだという思いで魔力を注ぐ
魔法陣は光り続け、炎狼が姿を現した
「やった…、やった!!」
2か月以上も会っていなかった相棒に出会えたのだ
その感激は計り知れないだろう
彼もまた、主人と出会えて大喜び
ペロペロと顔を舐める
「ウォン!」
炎狼が彼女に何かを発する
「それ、本当…?」
彼の言葉の意味を悟ったニル
☆
昼休み
廊下をけたたましく走る音
エルトのいる教室に入った直後、少年に抱き着く
「うわ、ニルさん!?」
エルトは突然の事に驚いていた
「ありがとう!!ありがとう、エルト君!!」
嬉し涙を流しながら礼を言うニル
その光景は、姫たちにも見られ
「ちょっと、ニル姉さん!?パンツが見えてるわよ!?」
「早く隠してください!!」
姉妹の言葉が聞こえておらず、ずっと少年を抱きしめていた
☆
放課後
「エ~ルト君!!」
上機嫌でニルが再び教室へ
「どうしました?」
「ねえ、この後時間ある?」
この流れは…
断ったとしても、ニルさんは絶対にまた来るだろうな…
「ありますけど…」
「よし!!じゃあ、一緒に来て!」
グイグイとエルトを中庭へ連れていく
☆
「で、どうかされましたか?」
「君は、召喚術を使ったことがないって言ってたよね?」
あれ?
告白じゃない…?
「言いましたけど、それが何か…?」
「もしよかったら、召喚術使ってみない?」
「あの、何が言いたいんですか…?」
目的が何かを知らない限りは先に進めない
「出会いの証にしたいんだ…」
顔を赤らめて続ける
「君はボクにとって恩人なんだ。その証として、召喚術で召喚獣同士のリンクさせたい」
リンク
すなわち、離れた場所でも同じ術が使える者同士の連絡手段として使いたい
これが、ニルならではの告白である
「お話は分かりました。僕も召喚術に興味がありましたから、やってみます」
「ありがとう!!」
もう一度、少年を抱きしめる
☆
ニルが魔法陣を書く
「いい、エルト君?一度召喚した者は逃したら二度と現れないから注意してね」
「召喚獣は皆、大人しいんですか?」
「いや、個体によっては勝負を挑まれることもあるだろうけど、ほとんどは条件をクリアしたら契約できるみたいだから」
「なるほど」
そして、エルトは魔力を注いでいく
魔法陣が光り、そこに召喚獣が現れる
「あら、エルト。また会ったわね」
「君はあの時の黒猫か」
「え?エルト君、この猫と会ったの?」
「はい」
元凶を倒したことは知っていたが、この黒猫に会っていたことは知らない
むしろ、ニルは驚きを隠せなかった
「その猫、召喚獣の中でも最高クラスの一匹だよ!!」
「え…?」
「召喚獣のクラスはEからSSSの8段階クラスに分けられていて、SSSの召喚獣は数年に一度にしか現れないことで有名だよ。それに、この猫只者じゃない…」
「よくご存じね。私は、変幻猫。その名の通り、どんなものにでも変化できるの。こんな風にね」
と猫は、エルトの姿に変身した
「どう?びっくりでしょ?」
声もエルト本人と区別がつかないほど似ている
さらに、魔法も行使できる
「すごいな、君がそんなレアな存在だったなんて」
「それで、どうする?私と契約する?」
「その前に確認したいんだけど、契約する際の条件はある?」
「そこのお嬢さんに聞いたのね。もちろんあるわ。ただし、簡単にはいかないけどね」
ニヤリと微笑む猫
超レアな召喚獣と出会えたのだ
これはぜひとも契約したい
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します