80時限目 少年、姫の従姉と話す
登校するや、クラスメイトどころか大勢の生徒が玄関前に立っていた
「お、エルトさんが来たよ~!」
一人の女子生徒が叫ぶと、周りの女子生徒も黄色い歓声を上げる
最初は驚いたものの、エルトもだんだんと慣れてきた
最近の生徒たちは、エルトに集中
それを見ていた姫たちは、少しだけ嫉妬していた
「ぐぬぬ…、エルト…、みんなの前で鼻の下伸ばして~…」
「お姉さま、落ち着いて…。ここで暴走したら、私たちの評価はがた落ちですよ?」
「せやで…。ここは辛抱や…」
☆
昼休み
廊下の様子が慌ただしかった
黄色い歓声も混じっている
誰か通るのか?
その人物は、廊下を通ることなく、エルトのいる教室へと入っていく
誰かの知り合いかな?
「あれ?ニル姉さんじゃない」
「本当ですね、ニルさん!」
「お?お二人さん、元気そうだね」
バルムス姉妹は、面識があってしかも仲もよさそうな感じだ
「エルト、紹介するわ。こちら、私たちの従姉のニルさんよ」
「初めまして、エルト君。3年のニル=フェン=クラリスだよ。よろしくね」
「は、はい…。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ははは、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「それで、姉さん。この教室まで来て何か?」
「うん、エルト君と少しお話がしたくてね。みんなには申し訳ないけど、借りていくね」
そう言って、ニルは少年の手を引っ張ってどこかへ行った
「お姉さま、もしかして…」
「うん、分かってる…」
二人は何かを察したようだ
☆
「さて…と…」
ニルは、中庭へエルトを引き連れていた
しかし、エルトはニルの魔力自体に何の問題もないとすでに感知している
別の問題があるとにらむ
「まずは、あの子たちの事を助けてくれてありがとうね」
「はい…?」
「ほら、君が暴走馬車を止めた件だよ」
「ああ…」
もうどれほどの日数が経っているのか
あの時の感情や痛みが少しだけよみがえる
今思えば、よく生き延びたな…
「あの子たち、以前は自分の立場を考えなさいとか使えない平民はいらないとか平然で言っててさ、恨みを買ってもおかしくないような言動が多くて、ボクも少し手を焼いていたんだ。でも、君が助けた後はすごく柔らかくなって、誰に対してもそんな言い方はしなくなった。周りの人からも、頭がおかしくなったんじゃないかって疑問に思ってる人も少なくなかったんだよ」
「そんなことがあったんですね…」
「まあ、君にはずっとあの子たちの面倒を見てほしいなって…」
「え?今、何て…?」
最後の部分がごにょごにょと小声で言っていたので聞き取れなかった
「あ、いや。何でもないよ…」
「まさか、そのためだけに僕を呼んだとか?」
「違うよ。心配しないで、本題に入るから」
と、ニルは地面に何かを書き始めた
「これは、召喚術の魔法陣?」
「そうだよ」
召喚術
専用の魔法陣を使って、闇属性の魔力を注ぎ、召喚獣を呼び寄せるための術
基本的には、小鳥やウサギと言った小動物が多い
稀に、ワイバーンなどの大型動物が出現することもある
ただし、召喚できたからと言ってすぐに契約できるわけではない
召喚獣によって契約の条件を突き付けてくることもあるのだ
が、エルト自身一度もしたことがないので、こればかりは何とも言えない
ニルは、魔法陣に魔力を注いでいく
光ったが、すぐに消えてしまった
「これが…、ボクの悩みだよ…」
「召喚獣を呼び出せなくなった…ということですか」
本来なら、召喚術は召喚獣が現れるまで魔法陣の光が消えることはない
しかし、ニルの魔法陣はそれとは関係なくすぐに消える
これは明らかにおかしい
「いつからこうなったんですか?」
「2か月ほどぐらい前から…。それまでは、何の問題もなく呼び出せていたんだよ…」
「ご家族や先生方には相談されましたか?」
「うん。でも、こんなことは初めてだからどう対処すればいいのか分からないって言われたんだ。ボクも、召喚術に関する資料とか読み漁ったけど、効果的な対処法は見つからなかった…」
徐々に泣き顔になっていく
「せっかく、なかよくなれたのに…。呼び出せなくなるなんて…嫌だよ…」
ついには、涙をこぼす
エルトはもう一つ質問をする
「ニルさんの周りで、召喚術だけじゃなく、それ以外の魔法が使えなくなった方はいらっしゃいますか?」
「いないよ…。両親や親せきは全員使えるし…、クラスでも使えない子はいないよ…」
特定の人にのみ、術が使えなくなる
これは明らかに人為的に使えなくさせた、もしくは召喚獣自体に問題があるのか
いずれにしても、はっきりとはしない
何かいい方法はあるのだろうか
しかし、タイミングの悪いことに、次の授業の予鈴が鳴った
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します