77時限目 少年、皇帝と模擬戦をする
突然の誘いにエルトは正直驚いていた
皇帝自ら、指名して模擬戦を申し込んだ
ただ、真剣では危険なので木剣での戦いとなる
さすがに、登校したばかりなので実技の授業でと先延ばしになった
☆
実技の授業開始前
ワシュガ姉妹はエルトにアドバイスを送る
「気を付けろよ、エルト。父上は、はっきり言って強いぞ」
「はい、私も同感です」
どれほど強いのかというと
「父上は、数多の敵を剣一本で悉く薙ぎ払って来た猛者だ。しかも、一つも傷を負わずにな」
「そのおかげもあって、父様は『剣聖』や『血塗れ皇子』などの異名を持ったのです」
二人の言葉から察するに、皇帝はとてつもなくつよいことが分かる
つまり
「お前には申し訳ないが、この試合は分が悪いとあたしは思ってる」
「今の話を聞く限りでは、不利なのは分かっています」
「でも、エルトさん。その割には不安な顔はされてませんよね?」
「だって、皇帝陛下自ら僕を指名してきたんですよ?不安よりも喜びが勝ってます!」
心配していた姉妹だが、彼の楽しみにしている顔を見て杞憂だと悟る
「分かった。もう、何も言わない。ただ…」
「何です?」
「存分に楽しんで来い!」
姉妹は笑顔で彼を見送った
☆
実技の授業が始まった
皇帝とエルトの模擬戦
一目見たいと、全校生徒が集まっていた
それもそのはず、サロアがこの情報をホームルームで伝えるよう教師全員に促していた
もちろん、許可は下りている
「何だか、すごいことになりましたね…」
開始前、エルトは全校生徒がギャラリーとして集まっていると知って驚く
「はは、無理もないさ。この学園に私が模擬戦をするとなったら、隠すなんてことできるわけないだろ?」
「そうですね…。ですが、全力でいきますよ?」
「もとよりそのつもりだ。手を抜くなど言語道断だからな」
審判の実技担当の教師が二人を呼ぶ
「両者、前へ!」
互いに緊張しているのか、ピリピリしたムードが続く
「なあ、この勝負どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、皇帝陛下に決まってんだろ?何せ、『剣聖』と呼ばれていたすごい方だからな」
ギャラリーはすでに皇帝の勝利だと確定していた
「では、これより模擬戦を開始する。制限時間は無制限、戦闘不能になるかどちらかが『降参』と告げた時点で終了とする。両者、異議は?」
二人は横に首を振る
「では、開始!!」
先に仕掛けてきたのは皇帝
正面から向かい、隙を与えることなく攻撃
対するエルトは、その攻撃を表情を変えないまま受け流していく
「皇帝陛下、本気出してませんよね?」
受けきった状態で挑発
「さすがにバレたか。ならば、本気で行かせてもらうぞ!!」
呼吸を整え、集中力が増していく
そのオーラにギャラリーのボルテージは急上昇
「すげえ!!これが剣聖の本気か!!」
「ああ、肌がビリビリと感じるぜ」
「あちゃぁ、エルトさん負けちゃったな…」
先ほどとは比べ物にならないほどのスピードで、連撃していく
皇帝の連撃は右に出る者はいないとの評判があった
だが、エルトは
先ほど同様、息も切らさず、表情も変えずに軽々と受け流していく
☆
な、なんだ…この違和感は…?
私は剣ならだれにも負けない自信がある
それがどうだ?
目の前にいる娘の恩人が私の剣術を苦にすることなく全て受けきっている
こんなことは初めてだ…
もしかして、エルト君自身本気を出してないのか?
だとしたら、彼の本気を見たい!
これも、私自身が持つ性というものだろう
☆
数分後
皇帝は、肩で息をしていた
「お、おいおい…、嘘だろ…?」
「剣聖が押し負けている…」
ギャラリーは騒然としていた
「つ、強いな…、エルト君」
「恐れ入ります」
「しかし…、君はまだ本気じゃないんだろ?だったら、私にも見せてくれ」
「良いんですか?」
「いいも何も、私は君の実力を見たいんだ!遠慮せずにかかってこい!」
半分強がっていた
だが、後には引けない
「では、行きます」
集中力が増していく
そして、皇帝の剣に人間業とは思えないほどの速さで打ち込んでいく
「なっ!!?」
「何、あのスピード!?」
「は、速すぎて剣筋が見えない…」
☆
何だ、この異常ともいえる速さは!?
この私が、ギリギリで対処するのが精一杯だ…
油断すると、体中が痣だらけになってしまう
しかし、エルト君は素晴らしい!!
無駄のない滑らかな動き
ブレのない剣筋
そして何より最小限で、かつ、的確に打ち込む速さ
オレイアス殿から教わったと聞いたが、これである程度なのか…
彼自身の努力もちゃんと剣筋に現れている
☆
さらに数分後
皇帝の木剣が折れた
「参った…」
エルトの勝利が決まった
ギャラリーからは
「すごーい!!」
「エルトさん、かっこいい!!」
などの称賛の声が上がる
少年は握手を交わす
「ここまでやられるとは、思いもしなかった…。君のような逸材がいたとは…」
「僕はただ、自分の身を守るためにマスターから教わっただけです…」
「謙遜するな。君の実力は申し分ない。よかったら、我が帝国で剣術の講師をしてくれないか?」
「……はい?」
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します




