76時限目 少年たち、事情を聴く
「お、お兄様…?」
ジルファーの発言に少年は驚いた
それだけでなく
「はい!ご存じのとおり、私と姉様の姉妹で男の兄弟はいません。いつか、そんな人に会えたらなとずっと思っていたんです」
「それが僕だと?」
「ダメ…ですか?」
「ダメではないんですが…、正直驚いていますね」
「では、お兄様と呼ばせていただいても?」
「ここまで来たら、断るにも断れないじゃないですか…」
「ありがとうございます!」
そう言って少女はエルトに抱き着く
「うわっ!?」
「温かい…」
彼の体温を感じながら、抱く力を少し強める
「あの…、そろそろ離れていただけますか…?」
「もう少しだけ…」
と言いつつ、頬ずりを始める
それを見たジェミナーは
「おい…、そろそろ終わらねえか…?エルトも困ってるだろうが」
「あれぇ?もしかして姉様、嫉妬されてるんですか?」
「ば、ばか言ってんじゃねえよ…!羨ましいと思っただけだよ」
「それが嫉妬ですよ、姉様」
姉と違って余裕の態度を見せる
そのやり取りを見た姫たちはにやにやしていた
「な、何だよ…、その顔は…。お前らも何か言ってやってくれよ…」
「どうして、私たちが介入する必要があるのかしら?」
「おい…、見捨てる気か?」
「見捨てるわけじゃありませんよ?これは、あなた方姉妹の問題なので、私たちが横槍を入れるのは無粋かと」
「うっ…、返す言葉もねえ…」
妹がエルトにアプローチしているのを見て、内心焦っていることに気付く
それは、以前エルトの看病の際にメイドが言っていた“恋”の兆しでもあった
ただ、最初に告白したときの気持ちは今ほど強くはなかった
が、今はどうだ
日に日に少年に対する気持ちが強くなってきている
もう一度、自分の気持ちを改めて振り返ろう
この時、ジェミナーは決めた
☆
翌日
いつものように学園に登校する
が、今日から違うのが、ジルファーも同行していることだ
好きな相手と少しだけでも一緒にいたい
その想いがしっかりと出ていた
正門の前に数台の馬車が止まっていた
「あれ、帝国の馬車だ…」
ジェミナーは紋章や模様を一目で気付いた
つまり、皇帝がこの学園に来ていることになる
ペリーヌが一行の元へ駆け寄ってきた
「エルト君…ジェミナー様、皇帝陛下があなた方にお話があるそうよ…」
担任らしい言葉を交わす
一行もすでに分かっていた
「あの、私はここで…」
ジルファーはこの学園の生徒ではないからと帰路に就こうとするが、姉がそれを止めた
「いや、お前の事も絡んでいるはずだ。一緒に同行させてもいいか?」
「大丈夫です」
許可は取った
☆
学園長室にて
「お父様!?」
「驚いた顔をしているな」
オリバートも同席していた
「グレイン皇帝から連絡が来てな、急遽こちらに来たんだ」
「え、という事は?」
「ああ、話はこれからだ」
どうやら、一行が来るのを待ってくれていたのだ
「さて、まずは…」
皇帝は、最初にジルファーの顔を窺う
「呪いが解けたんだな…」
「はい…、お父様…」
その目には涙が
「っと、浮かれている場合じゃないな…。経緯を話さないとな」
皇帝が話すには
ジルファーの目に見えざる呪いをかけたのは、姉の婚約者であるギングル=フォン=ウェレチア
彼は、帝国貴族において、次期伯爵になる予定である跡取り息子でもある
ジェミナーとの縁談が上がったとき、彼は妹のジルファーの事を快く思っていなかった
その理由が、両目が違う色をしているからだという
これは、エルトが解いたときに流れた記憶の一部と一致している
ここからが、一行の知らないことだ
ギングルは、父であるエデル=フォン=ウェレチアと協力して妹の件を利用して、皇帝一族の評判をがた落ちさせ、のちに父親が皇帝となり、その後に自分が跡を継ぐことの計画を立てた
そのために、まず親しみのある貴族たちをジルファーの目で殺していくことが彼女が眼帯をつけることになる発端だ
最初は、順調に事が進んでいったようだが、徐々にその計画に歯止めがかかってくる
だが、父から“焦るな、時間はまだたっぷりある”と周囲に悟られてはいけないと釘を打たれる
それからずっと、辛抱し続けた
だが、昨日ギングルが突如失明したのだ
そして、皇帝の前でボロを出してしまった
それから、皇帝に洗いざらい全てを話したのだった
結果として、爵位および領地の剥奪、それに伴う借金返済のための永久労働がウェレチア家に課せられた
もう二度と社会復帰が見込めず、自業自得としか言いようがない
☆
「最低だぜ…、ギングルと婚約するのは間違いだったって早く気付くべきだったな…」
「ああ。だが、それを救ってくれたのがエルト君だ」
皇帝は少年の前で頭を下げる
「娘の呪いを解いてくれて、本当にありがとう!!この恩は必ず返す!」
「あたしからも、改めてお礼を言うよ」
ジェミナーも同じように頭を下げる
皇帝が話を変える
「エルト君、君は剣術はできるか?」
「え?マスターにある程度は教わりましたけど…、それが何か?」
「良ければ私と手合わせ願えないか?」
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します