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7時限目 少年、目を覚ます

姫たちがエルトの看病をして2日が経った


小鳥のさえずりが窓から聞こえる


「……う…ん…」


少年はゆっくりと目を開ける


意識が朦朧としているせいか、ぼんやりと天井を眺めるだけ


やがて意識ははっきりとしたものになって

「ここは…?」


エルトにとっては、見慣れない場所だった


「…あれ?僕、何で寝てるんだ…?」


自分は死んだんじゃないかと思い込んでいた


しかし、体を動かそうとすると

「イッ!?」


激しい痛みに襲われる


そして

「そうだ…。僕、王都で馬車を止めて…、その後倒れて…。で、ここになって…。というか、…どこだ、ここ?」


部屋のドアが開き

痛みに耐えながら音の聞こえる方向に首を向けた


そこには、水色の髪の美少女が立っていて、タオルを数枚持っていた


しかし、その少女はタオルを床に落とす


「え、エル…ト…、…エルト…」

少女の体は小刻みに震え、両目から大粒の雫を流していた


すぐに、少年の元へ駆け寄り

「エルト!」


ギュッと、しかし、優しくエルトの手を両手で包み込む


「え…?え…?」


少年は理解できなかった


どうして、こんな美少女が僕の顔を見て嬉しそうに涙を流しているんだ?


「良かった…、良かったよぉ…、エグッ…」

「あの…、あの…」

まだ戸惑っていた


少女はまだエルトの手を離さなかった


「おい、部屋のドアが…開き…っぱなしに…」

もう一人の少女が部屋に入る


黒髪の短髪少女は、ゆっくりと少年のところへ歩み寄り


「目を覚ましたんだな…、エルト」

涙を流しているわけではないが、目が潤んでいるのは少年にも分かった


「おい、来てくれ!」


黒髪の少女が大声で叫んだ


ドタドタと廊下を走る音


「どないしたんや?」

「何事ですの?」

「ジェミナー、どうしたの?」


駆けつけたのは、()()美少女だった


「エルトが、目を覚ましたぜ…」

「ほ、本当ですの…?」

「嘘やないよな…?」

「お姉さま、本当ですか…?」


水色の髪の少女は静かにうなずく


少女たちは嬉顔になる


エルトは5人の美少女に囲まれた


一体、何がどうなってるんだ?


「体、起こせるか?」

栗髪の少女に支えてもらいながら、痛みに堪え、ゆっくりと体を起こす


だが、痛みのせいで数秒で横になる


「すみません…、まだ痛みが…」

「か、堪忍な…」


エルトは彼女たちの顔や声をどこかで見た記憶があると思い出そうとする


そして

「あ…、あ…」


全て思い出した

この5人は、リベリア魔道学園でトップ5の姫たちであることを

毎日罵倒され続けていたことも全て


少年はすぐに理解した


僕が止めた馬車に乗っていたのは、この5人なんだと


でも、以前とは随分雰囲気が違う


「あの…」

エルトは話をしようとするが


「エルト、私たちあなたに言わなければいけないことがあるの」


水色の髪の少女に先に話を持っていかれる


5人は横一列に並んで


「「「「「ごめんなさい!」」」」」


大声で平謝り


「…え?」


少年はいきなりの謝罪で少し混乱していた


「あの、何で謝るんですか…?僕は、てっきり『最下位男に相応しい格好ね』とかまた罵倒されるんじゃないかと思ってしまって…」

と警戒していた


だが

「あんた、何を勘違いしてんねん?」

栗髪の少女は苦笑い

「ウチらを助けてくれた男にそないなことできるわけないやろ?」

「でも、そう思っちゃって…」

「ウチらがあんたに謝ったんはそれや。いや、それだけやない。エディール、ラディール」


二人の少女がエルトの前に立ち

胸の谷間からペンダントを取り出す

「ねえ、これ、覚えてない?」


少年はじっとそのペンダントの先にあるダイヤモンドのかけらを見る

「覚えてますよ。あの時はおじいちゃんに頼んで砕いてもらって、二人分のペンダントを急いで作って…って…、あれ?もしかして、あの時の女の子二人が、あなたたちって事ですか?」

「そうよ」

「はい」


何という事だ

自分が作ったペンダントを渡したのは2人の姫だったなんて


少年は

「大事に…して…くださったんですね」

涙を流す


「当たり前よ、私たちにとっては一番の宝物」

「そうですよ、エルトのペンダントは絶対になくしません」


少年も痛みに耐えながら、首にかけてあるペンダントを取り出す


「僕たち、つながっていたんですね…」


くすっと微笑んだ


「エルト、本当にごめんなさい」

「私からもごめんなさい」

エディールとラディールはもう一度平謝りした


「ですから、もうそれはいいですって…。それに、馬車の件と学園の事は別でしょ?」

「別って…」

「僕はただ、皆さんが無事でよかったと安心できればそれでいいんです」


少年は屈託のない純粋な笑みを浮かべた


姫たちはその笑みにときめいた


そんな時だった


「姫様方、エルト様にお会いしたいという方が来られていますが。いかがいたしましょう?」


使用人が姫たちに声を掛ける


そういえば、二日前からお父様とお母様は公務で外出しているんだった


今この城にいるのは、使用人、私たちとエルト


もしかしたら、エルトの…


いや、待って


デソル村でエルトの両親や村の人たちが盗賊に殺された

そんな中でエルトは一人だけ生き残った


つまり、エルトは天涯孤独の身という事

でも、報告では彼も死亡扱いにされている


エルトはその後どんな暮らしを送ってきたのかしら


看病に明け暮れていてそんなことを考える余裕すらなかった


しかし、エルトの事を知っている人物ならなおさらだ

会ってみたい


そんな欲が膨らんでいき

「通して」

「かしこまりました」






しばらくして


「こちらの部屋になります」

「うむ」


女性の声だ


「エルト…」

「マスター…」


マスター?


「綺麗ね…」

「ああ、女性でも一目惚れしちまいそうだ」

「でも、誰しょうね?」


5人も女性の正体は知らない


「三日も帰ってこないから、心配したぞ」

「ごめん…心配かけてしまって。家の方は大丈夫なのか?」


しかも、ため口!?


「心配いらん。()()()()()に任せておるから」

「そっか、なら安心だ」

「怪我の方はどうじゃ?」

「まだ体は動かせないかな…」

「どれ、妾が見てみよう」


女性はエルトの体をペタペタと触って

「ここまで酷い怪我をするとはな。一体、お主は何をしたんじゃ?」

「えっと…、その…」

「まあ、後で話してもらうとして。まずは、お主の体を治さねばな」


女性は右手で魔法陣を構築

そのまま魔法が発動


「なあ、今のって…」

「無詠唱…ですわね…」

「しかも、あの魔法…高難度の治癒魔法ですよね?」


姫たちはポカンとしていた


「ほれ、動かしてみぃ」


少年はゆっくりと体を起こす

痛みは…ない

他にも支障となる箇所はないか少年は全身を入念に確かめる


「動けるよ、マスター」

「よし。じゃあ、帰るか」


帰る…


「ちょっと待った!」


流れで帰そうと思ったが、そうではない


「何で帰ろうとするんですか?」

「何でって、ここはエルトの家ではなかろう?」

「そうですけど…。というか、あなたのお名前まだ聞いてませんでしたけど!?」


肝心なことを聞いていなかった


「おお、これは失礼した。妾はオレイアス。オレイアス・クレイヴじゃ」


聞いたことのある名前


オレイアス…

オレイアス…


って


「まさか、賢者オレイアス様!?」

どうも、茂美坂 時治です

随時更新します

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