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61時限目 少年、倒れる

翌日


エルトたちが正門を通ったとき、生徒たちが押しかけた


「エルト様!!金褒章おめでとうございます!!」

「さすが、この国の英雄様だ!!」

「それで、褒美は何を頂いたんですか?」

と次々と質問攻めに遭う


しかし

「すみません、今はそっとしていただけますか?」

エルトは答える気がなかった

それでも、ファンクラブの会員たちは諦めずに質問をつづけた


これには、姫たちもイライラしてきた


「あなたたち、そこまでにしたら?」

「せや、遅刻するで」

エディールやフィルラーが止めようとしても、皆興奮状態なのか聞く耳を持たなかった


「あたしらも何とかしねえと」

「そうですわね…、って、ラディール?どうされましたの?」


ラディールは大きく息を吸って


「いい加減にしなさーーーーーーい!!!!!!!!!」

怒鳴り声が響く


「何ですか、あなたたちは!?自分のやっていることがエルトにどれだけ迷惑をかけているのか分かっているんですか?」

「いや、でも…」

「でもじゃありません!!あなたたちもエルトの立場になって考えてみなさい。もし、今の状況で相手が諦めずにしつこく質問されたらどんな気持ちになりますか?」


その場にいる全員が黙り込む


「それに、ファンクラブなら彼の気持ちも尊重することも大事だと私は思います」

ラディールはスッキリした顔をして

「行きましょう」

エルトの腕を引っ張り、校内へと入る


「ありがとうございました…。僕、ああいうのに慣れていなくて…」

「まあ、あの人たちの言動にも度が過ぎていたのでカチンと来ただけですよ」

「それでも、お礼を言わせてください」

と、少年はもう一度頭を下げた



昼休み


「エルト、食堂に行こう」


ルルに誘われ、教室を出ようとしたとき


突然、少年の視界が歪む

「あ…、あれ……?」

体が重く感じ、思い通りに動かない

目の前の景色が暗くなっていく


バランスを崩し、その場に倒れてしまう


「エルト…?」

ルルが少年の体をゆすっても反応がない


「エルト!?しっかりして!!」

何度声をかけても、反応しなかった


「ルル、どうした!?」

イアンとクルムが駆け付けた


「エルトが突然倒れてしまったんです!」

涙目で訴えた


イアンはエルトの口元に手を当てる

「息はしている。だが、倒れた原因は…」

「とりあえず、保健室だ!」

クルムが少年をおんぶして、保健室へ運んだ


一部始終を見ていたファンクラブの会員たちは

「エルト様…」

「死なないですよね…?」

不安の言葉を言うだけで、その場から動くことはできなかった



保健室にて


偶然にも、王族専属医のセドリックがいた

その横には、リベリア魔道学園校医、エトレーゼ=ファルトルも

彼女はセドリックの元で研修を受けていた

いわば、エリートの医者だ


「エルト君の身に何かあったのですか?」

「突然倒れたらしい…、すぐに診てくれないか?」

「私が診ましょう」


セドリックはエルトの体を診察


その途中で、姫たちも駆けつけた


「エルトは大丈夫なの!?」

「姫様、今は診察中です。お静かにお願いします」

エトレーゼから注意を受けた


セドリックは自身のカバンから赤色の液体が入った小瓶を取り出す


「セドリック、それは?」

姫たちも初めて見るものだった


「これは、体の異常を調べるための薬です」


エルトの体に注射していく


この液体は注射してから数分で体のどこかが赤く反応する仕組みになっている

しかし、()()()()()()()()()()()()()


そして、エルトのこれまでの状況を姫たちから聞き出す


「診断の結果、エルト君は過労ですね」


結果を聞いた姫たちは、疑問に思った


「過労って、エルトは疲れている様子は見せなかったわ!」

「彼の場合、身体的疲労と精神的疲労、両方からきています。それに今、見せなかったと仰いましたね。おそらく彼は、自分の体の事を()()()()()()()()()()んだと思います」


セドリックはさらに詳しく説明した


「エルト君はこれまで、この学園での戦いや、先日のゴブリン殲滅など、体を酷使していたことは何度かあるはずです。多少の疲れは取れたとしても、体に蓄積される疲労は彼の想像を大きく超えていた。これが、身体的疲労の主な要因です。そして、精神的疲労ですが…」


姫たちの方を見つめ

「あなた方がエルト君に告白して返事を待っていることや行動するときは誰かと同行することなどを言ったそうですね」

「ええ…」

「それが、彼にとっては精神的に追い詰められていたのではないかと」

「そんな…、私たちはそんなつもりで言ったんじゃ…」


姫たちは焦った


「確かに、姫様方から見ればそう思うのも不思議ではありません。ですが、エルト君の場合だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか、要因は様々です。何より、彼の精神的負担を一番大きくかけたのが、学園のいじめ問題でしょうね…」


セドリックの言葉で当時の記憶がよみがえる


確かに自分たちは、彼を最下位でクズ男などと罵声を浴びせ続けていた

それでも、エルトは半年もの間、必死に耐え続けた


彼をここまで追い詰めたのは、自分たちを含めた学園が最大の原因


これでは、いじめていたときとほとんど変わらないじゃない…


「何で…、一人で全てを背負い込もうとするの…?」

「私たちもいるというのに、不器用ですね…」

「そういうあたしらも不器用だけどな…」

「今更気付くなんてな…」

「後悔先に立たず…ですわね…」


それから、セドリックの助言を受け、エルトは彼が兼務している病院へ入院することになった

それはつまり、エルトのいない学園生活の始まりを意味していた

どうも、茂美坂 時治です

随時更新します

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