59時限目 少年、称号を授かる
エルトたちは、学園に戻る
当然の事ながら、ファンクラブの会員たちの熱烈な称賛を浴びた
「エルト様!!お見事です!!」
「やっぱりエルトさんはかっこいいわ!!」
中には
「エルトさんは、戦いで疲れているはずです。少し労わったらどうです?」
「無理をさせてはいけませんよ」
気遣う会員たちもちらほら
「皆さん、ありがとうございます。ですが、僕もこの学園の生徒なので、遅れた分はきっちりと埋め合わせないと」
やる気満々だった
☆
放課後
屋敷に戻ったエルトは、ルルに今日の授業の内容を自分の部屋で教えてもらっていた
はああぁ…
やっぱり、エルトはいつ見てもかっこいいよね…
誰に対しても優しいし、勉強もできて
しかも、強大な敵にも立ち向かえる強さ
もう、反則だよ…
好きだって告白したのに、エルトは悩んでいる
もっとアプローチした方がいいのかな…?
でも、姫さまたちだって何かしらのアプローチはしてくるはず
だったらここは、先手必勝
ルルは少し恥ずかしがっていた
これからすることを
ううん、ここで逃げたら、先を越されるかもしれない
覚悟を決める
そして、後ろからそっと抱きしめる
「え?ルル?」
戸惑う少年
「好きな人にこうするのに憧れてたの…。もしかして、嫌だった?」
その質問に少年は首を横に振る
「ちょっと、驚いただけ…」
良かったと安堵の声を漏らす
そして、彼の頬にキスをした
「え!?」
「お疲れ様のキスだよ…。これも嫌?」
「嫌じゃないけど…、今日のルル、やけに積極的だね…」
「だって…、本当にエルトの事が好きなんだもん…。この気持ちは簡単には抑えられないよ…」
本音で語る
「ありがとう…、そこまで真剣に考えてくれて…。でも、前にも言った通り、僕の気持ちの整理がまだつかないんだ…。だから、気持ちが固まるまで待ってくれるかな?」
「うん、何日でも何年でも待つよ」
ルルはもう一度、頬にキスをした
☆
翌日
セイント兄弟は事の顛末を聞いた国王 オリバートの命で終身刑を言い渡された
両手両足に魔力の流れを封じる枷を付けられ、一生牢の中で過ごすことになる
結果として、犯罪者奴隷よりかは甘いのかもしれないが、何もできないまま一生を終えるのが一番酷なのかもしれない
オレイアスにとっても辛いことになるが、彼女自身、彼らの事などどうでもよかった
☆
3日後
エルトはオリバートから呼び出しを受けていた
隣にはスオンもいる
「一体、何なんだろうね…?」
「多分、ゴブリンの件についてじゃないかな…」
何もわからないまま、少年は城の中へ入る
すると、周囲から大きな拍手で迎えられた
もちろん、そこには姫たちもいる
最初は驚いたものの、国王のいる玉座へと歩み寄る
立ったままでは失礼なので、すぐにかしこまる
「面を上げよ」
いつも見る国王とはかけ離れた雰囲気が漂う
「皆も知っているだろうが、ここにいるエルト=ファイザーは突如現れた3万のゴブリンを魔法を使わず、己の持つ力のみで殲滅。また、相棒であるドラゴン スオンも彼とともに戦ってくれた。それはすなわち、この国の危機を救ってくれた英雄だ」
オリバートはそれ以外にも、侯爵家別荘での生きた屍の殲滅、リベリア魔道学園で起きた魔物襲撃事件の事なども取り上げる
これらは全て、世界中に広まった
また拍手が起こる
「それらの功績をたたえ、エルト=ファイザー。汝に、『金褒章』の称号を与える」
この世界において、金褒章は最高位の称号である
褒章には金・銀・銅の3つがある
銅:一つの仕事に熱心に取り組み、その仕事に対して10年以上の実績を持ち、多くの人に影響を与えた者に与えられる
銀:様々な分野での実績を残し、その名を国中に轟かせた者に与えられる
金:国を揺るがす出来事や不祥事を事前に阻止し、その実績を世界に轟かせた者に与えられる
この世界で、金褒章を持つ者はエルトを含めて3人
エルトは、最年少で授かったのだ
そして、国王から竜を象った金のバッジと金貨10枚分の報酬を受け取った
それから、1、2回目とは比べ物にならないほどの大きな拍手を送られる
☆
その夜、祝賀会が行われた
当然、エルトは参加者から次々と質問攻めに遭うことに
しばらくして、エルトはバルコニーで休憩した
「疲れたんですか?」
声をかけたのはラディール
「少しだけ…、ラディール様は戻らなくてもいいんですか?」
「私は、あなたと少しでも一緒にいたいと思って来たんです…。迷惑でしたか?」
「いえ、そんなことは…」
姫はもう一歩近づき
「改めて、金褒章おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも、まだ実感がわかなくて…」
「まあ、無理に合わせる必要もないんじゃないですか?ですが、これから先はただの平民じゃなくなることを意識すべきだと私は思います」
「そうですよね…、自分でもどう振舞えばいいのか…」
「先ほども言ったように、無理にすることはありません。大事なのは、これまでと同じように素の自分を貫き通すことです」
その言葉に重みを感じた
「ラディール様、アドバイスありがとうございます」
「いえ、自分が思ったことを言ったまでの事ですから…」
突然の返しに、顔を赤くした
一度、咳払い
「それはそうと、エルト。この前のルルとのやり取り、正直言って羨ましかったですよ」
飲みかけたジュースが吹き出しそうになるが、なんとか堪えた
「み、見てたんですか…?」
「ごめんなさい…。何だかいい雰囲気で、皆、進展しそうでドキドキしてましたよ…。でも、まだ誰なのかは決まってないんですよね…?」
「はい…」
「でも、これだけは言わせてください。私は、私を選んでほしいとかわがままを言うつもりはありません。むしろ、あなたの気持ちを尊重したいと決心したまでのこと。あなたはあなたで、ゆっくりと考えてください」
これで、余計なプレッシャーをかけずに済んだかな?
ラディールは、内心多少の焦りもあったが、期待の方が膨らんでいた
エルトは、国王の厚意で再び城に泊まることになった
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します