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6時限目 姫たち、看病する

最初にエルトを看病するのは、エディールだ


エルトの顔を見て、水を飲ませた時を思い出す

咄嗟とはいえ、今思い返せば、彼と口づけしてしまった


「うわぁ、今思えば恥ずかしい…」


でも、不思議と彼を見るだけでその恥ずかしさが消えていく


どうしてだろう?


「こんな事、今までなかったのに…」


自分には婚約者がいる

でも、その婚約者にときめいたことは一度もない


親が決めつけた許嫁なのに


「でも、エルトは…」


学園にいた時のエルトを、どれだけ罵倒してきたのか

そんなエルトがあれだけの大怪我をしてまで私たちを助けた


「何で…?」


エディールでも分からない


その答えが早く聞きたい


エディールはエルトの左手を優しく両手で包み込む


「エルト…、早く元気になって…」




「エディール、おつかれさん。ウチと交代や」

「うん、フィルラー。よろしく」


エディールは部屋を出る


フィルラーは、エルトの体の状態を見る


「さっきよりもだいぶマシになってきたな…」


汗などもほとんどかくことがなくなり、呼吸も安定している

「あとは、いつ目ぇ覚ますかやな」


栗髪の姫は、エルトと同様に大事なことを考える


それは、自分たちを殺そうとした犯人は誰か


「運転手もいない。せやけど、誰がウチらの行動を把握できたんや?まさか、尾行されてたとか…。いやいや、それはさすがに…あり得るか…」


犯人の手掛かりとなる決定的な証拠がない


エディールは国王が調査すると言っていたが、それでも犯人は証拠隠滅を図る可能性は十分にある


いや、とっくに隠滅されていることも考えられる


「ウチでもできることなんてあるやろか?」


考えたが、何も出ない


「こういう時に限って…。情けないな…」


きっちりと答えが出るまで考えるタチだが、ここまで彼女をもどかしくさせるのは初めての事だった


「あかんあかん!今はエルトの看病に集中や!」


フィルラーは気持ちをリセットして、エルトの看病に切り替えた




フィルラーの次はアデリーヌ


「あら、タオルが切れ掛けてますわね」


桃髪の姫はスタンドのタオルがあと1枚に気付く


急ぎ、メイドたちに新しいタオルを用意するように言った


アデリーヌはもう一度エルトの頬に触れる


「温かい…」


いや、それだけじゃない


彼に触れただけで、心まで少し温かくなった


「何でしょう…?この温もりは…」


初めて経験する気持ち


アデリーヌは先の二人が看病している間


「エルト、死なないでしょうか…?」

「大丈夫でしょうか…?」


とずっと銀髪の少年の事が気になっていて仕方がなかった


それが今ではどうだろうか


彼の顔を見るだけで、ホッとできる

触れるだけでもホッとできる


「離れたくない…」


小言を言う


次第にその気持ちが膨れ上がる


「交代したくないですわ…」


こんな気持ちになるのは初めての事で何もかもが分からない


「はぁ、エルト。目を開けてくださいまし…。私は、あなたの起きている顔を早く見たいですわ…」



「あ、それあたしが持っていくよ」


アデリーヌからタオルをと言われて、用意したメイドだが

ジェミナ―が自分で持っていくと言い出す


「ですが、これが私の仕事ですし。ジェミナ―様もエルト様の部屋に向かわれるんでしょ?でしたら、一緒に行きません?」

「ごめん、仕事を取るような言い方をしちまった…」

「フフ、それだけエルト様の事が気になるんですね」

「な、何だよ?」

「いえ、恋心を抱くジェミナ―様を見るのは初めてで、新鮮だなと思っただけで」


恋…


今までそんな考えはなかった


なのに、エルトの事を考えると気になってしまう


これが、メイドの言う恋なのか?


いや、決めつけるのはまだ早い


とにかく今は、看病だ


エルトの部屋に来てアデリーヌと交代しようとするが


「嫌ですわ!私は、ここから離れませんわ!」

アデリーヌ頑なに部屋から出ようとしない


「お、おい。みんなで1時間ごとに交代するって決めただろ?それを簡単に破るなんてお姫様としてどうかと思うぜ」

「それはそうですが…、それでも嫌ですわ」

「だから、交代だって言ってんだろ!?」


ジェスナーはアデリーヌの手を取り引っ張ろうとするが

まるで床に吸盤でも張り付いたかのように微動だにしなかった


「てめえ、いい加減にしろよ!!あとでてめえの国王に手紙でこう送ろうか。『アデリーヌは約束を簡単に破る駄々っ子姫』ってな。ま、その後の想像はつきやすいけどな」


ジェミナ―は自分が言ったからには必ず遂行する有言実行タイプ

アデリーヌは幼いころからそれを知っていた


このまま駄々をこねていては、国王に怒られる


「そ、それだけは勘弁してくださいまし…」

「だったら、交代してくれないか?」

「はい…」


ショックを受けたアデリーヌだが、しぶしぶ交代することになった


しかし、ジェミナ―自身もここまで駄々をこねるアデリーヌを見るのは初めてだった


「新鮮だな…」


メイドと同じ言葉を口にしていた


エルトの顔を見て

「なあ、エルト。あたし、約束するよ。お前の事絶対に守るって」


黒髪の短髪姫は眠っているエルトに向かって約束した


が、メイドの言っていた恋心というものがまだ分からなかった


それがはっきりとわかるのは先の話




「じゃあ、私がエルトの看病をしますね」

「おう、頼むぜ」


最後はラディール


エルトと二人きりの空間


「不思議ですね…」

独り言を言う


もうそろそろ目を覚ましてもおかしくないんじゃないかと思い、エルトの顔を見る


が、何の反応もなく眠っている


しかし、確実に回復に向かっている


「そういえば、皆さん水を飲ませたのでしょうか?」


窓に置いてあったポットの水を見ると昼に見た時と全く変わってない


「誰も飲ませていない?」


医者からこまめに水を飲ませるようにと言われていたが、誰もしていないのはおかしい


自分がエルトに水を飲ませた時を思い出す


銀髪の少年は飲むことなくむせてしまった


もう一度しても同じだったことも


「もしかして、()()が恥ずかしかったんじゃ…」


その後の姉の行動に皆が驚いていた


でも

「そろそろ水を飲ませないと」


翡翠色の髪の姫はコップに水を入れ

エルトの口まで近づける


「もし、これでもダメだったらどうしよう」


ふと、さっきの事を思い出す


なら

「自分でやってみないと」


そう言って、ラディールはコップに入れた水を自分の口に入れ

エルトの唇に合わせゆっくりと水を流し込む


「プハッ」


流し込む際、呼吸をしていなかったため少し苦しかった


でも、彼の唇に触れた瞬間、顔が赤くなっていると気付く


「お姉さまと同じことしちゃった…」


姉妹揃って、同じ行動をする

二人の共通点


だが


「でも…もう少ししたい…かな…」


ラディールはもう一度彼の唇に近づく


そして


チュッ…


もう一度


チュッ…


「エルトの唇、柔らかい…」


両手で頬を押さえ

「キャァ~、キス…しちゃった…」


ゆでだこのように真っ赤になるラディール


同時に、自分の気持ちにも気付く

「私は…エルトの事が…好き…」


言っちゃった…

言っちゃった…


「でも、これは私だけの秘密…」


ラディールはそう胸に秘め、エルトの看病に集中した

どうも、茂美坂 時治です

随時更新します

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