53時限目 少年、絡まれる その2
加筆修正しました
姫たちはエルトとルルを見送った後、屋敷に戻った
「おかえりなさい」
スオンが出迎えた
「「「「「ただいま…」」」」」
姫たちの顔はどことなく寂しさを滲ませていた
スオンは夕食の準備に取り掛かるが、姫たちはそれぞれの部屋でゴロゴロと転がったり、ベッドの上で仰向けになって足をバタバタさせたりと落ち着かない様子だったという
☆
夕食時
姫たちは、一言も喋らず、ただひたすらに食べているだけだった
これはもしかして…
とスオンが仕掛けた
「あ、エルトが帰って来たかな?」
そういうと
「え!?本当に!?」
「なら、出迎えないと!!」
「あたしも行く!」
姫たちは揃って、玄関のドアを開ける
が、そこにエルトとルルの姿はなく、ただ道路を歩く人たちだけだった
道行く人たちも何事かとこちらを見ていた
姫たちは一度ドアを閉める
「どういうことや?まさか、スオン!ウチらを騙したんか!?」
怒った顔でスオンに訊くフィルラー
「ごめんなさい。皆さん、黙ったまま食事をするのは初めて見るので、これはと思って…」
「だからって…」
「もしかして、ルルの家に泊まるかもしれないと思ってるんですか?」
姫たちに訊いたら、全員頷いた
「エルトはルルの家に泊まると言ってましたか?」
その質問に黙る
「言ってないんだとしたら、食事だけして帰ってくると私は思います」
その数分後に玄関のドアが開き、スオンの予想通り二人が帰ってきた
「ただいま…って、何ですか…この重い空気は…?」
「スオン、何があったの?」
「内緒」
とだけ言って、その後は何事もなかったかのように時間が過ぎていった
☆
休日
エルトはヘレンと街を散策
デートがしたいと彼女が申し出たのだ
エルトは最初戸惑ったが、姫たちとの約束を守るためにも、その申し出を受け入れた
最初は洋服店に立ち寄った
「エルト君の服って、2、3着くらいしか持ってないよね?いつまでもその服を着られるわけじゃないから、こういう時こそ服を買うべきだよ!」
と強く推し進める
「でも、どういうのを着たらいいのかよく分からなくて…」
「だったら、私に任せて!」
結局、ヘレンに全てを任されることになった
何着か試着をし、エルトはそこから4着のシャツとズボンを買った
「ありがとうございます」
「エルト君はもう少し服とかに興味を持った方がいいよ。細身で、体はしっかりしてるからいろんな服が似合う!この私が保証するよ」
とそこへ
「あれ?ヘレン生徒会長じゃないですか?」
「ベニー。こんなところで会うなんてね…」
ヘレンに声をかけたのは、アフロが特徴の男
そして、2人の男がボディガードのように後ろについていた
エルトは小声で訊いた
「ヘレンさん、あの男性は?」
「ウィリムベール騎士学校 生徒会副会長 ベニー=トリンデル」
「後ろにいる男2人は?」
「彼の取り巻き。名前は知らないけど…」
こそこそと話しているのが気に入らないのかベニーは大声で
「二人でこそこそ話すとは、生徒会長として相応しいのでしょうかね?」
「ちょっと、そんな大声出さなくても!」
「そこのお前、会長と仲良くしているようだが、名前は?」
「エルト=ファイザーです」
「聞かない名前だな。どこの学校に通ってる?」
「リベリア魔道学園です」
「はっ!あの魔法だけが取り柄の学園か?我々が通うウィリムベール騎士学校の方が、誇り高き騎士に憧れる生徒が通う由緒正しき学校だ!貴様のような、魔法しか使えない能無しとはわけが違うのだ!」
「あなたね…」
さすがにヘレンもキレた
だが、エルトは止める
途中から何だ?何だ?と言わんばかりに、野次馬が集まってきた
「止めないで!これは生徒会としても見過ごせない!」
「見過ごせないなら、その男と今すぐ別れる方がよろしいですよ?俺の方がよっぽど有能ですからね!」
「言わせておけば…!」
ヘレンは今にもベニーを一発殴りたいようだった
しかし
「有能なら、もう少し言葉を選ぶはずですよ」
「何?」
「今の発言は、ヘレンさんを自分のものにしたいという欲求そのものですよ」
「ぐっ…」
「でも、それが逆効果だって気付かないなんて。あなたの方がよっぽど無能じゃないんですか?」
エルトは珍しくベニーを挑発した
「貴様、この俺に対してその言葉とはいい度胸だ!どっちが無能か教えてやるぁ!」
アフロ男は殴りかかってきた
しかし、少年はヒラリと余裕で躱す
エルトはその場で止まり、ベニーの拳を手で受け止め、強く握った
「いででででででででで!!!!折れる、折れる!!」
苦しみ悶えるベニー
「相手の実力を知らずに、殴りかかろうとするのは馬鹿がすることですよ。それに、騎士学校に通っているのなら剣で戦うのが筋じゃないですか?」
「分かった!!分かったから、手を放してくれ!」
さすがに反撃しないだろうと見込んだエルトは、握った手を離した
彼の耳元で
「今後はこんな無駄なことをしない方が身のためですよ」
とだけ言い残し、ヘレンとその場を去った
☆
「ごめんね、エルト君…」
「どうして、ヘレンさんが謝るんです?正直、ベニーさんの言動は好きじゃないですね…」
「それは、私も同感かな…。何というか、自己満足のために行動してる感じがして、面倒くさいんだよね…」
愚痴をこぼしながらも、エルトに話すと心が少しだけスッキリしたとヘレンは言った
☆
ベニーは取り巻きと別れて、路地裏を歩いていた
その場に散らかっていたごみを何度も何度も蹴った
「くそ、あの野郎…。このままで済むと思うなよ…」
密かに怒りを燃やしていた
そこへ
「なら、俺たちが手を貸そうか?」
「だ、誰だ!?」
ベニーに声をかけたのはフードを被った二人組
「さっきのやり取りを見ててな、あの銀髪野郎は正直言って邪魔だ。お前だって、あの野郎にやられて悔しいだろ?」
「ああ、悔しいさ」
「俺たちは、その悔しさを奴にぶつけるとっておきの方法を知ってる」
その言葉にベニーは大きく反応
「ど、どんな方法だ!?」
男がポケットから取り出したのは桃色の液体が入った小瓶
「これを飲めば、お前は奴の数倍の力を得て、さらにはずっと気にかけている会長とかいう女もお前にメロメロになること間違いなし!」
聞いていると、あまりにも話がうますぎる
「聞いた俺がバカだった。俺一人で何とかする」
その場を去ろうとするが
「これを見ても信じられねえか?」
男はベニーの持っている同じ液体の小瓶をグイッと飲み干す
何の変化もない
だが、効果が表れたのは数秒後だった
表から多くの女性がこちらに駆け込んできた
「な、何だありゃ!?」
男は何の魔法も使わず、建物の壁を走って上る
「待って~~!」
「絶対に捕まえて、私の旦那にしてあげるんだから~!」
女性たちは逃げていった男の追いかけていった
「これで信じてもらえたかな?」
「あ、ああ…。さっきの言葉は撤回する…」
ベニーはさっそく飲もうとするが
「ストップ!」
もう一人の男が止めた
「その液体の効果はせいぜい2時間程度だ。できれば、奴がリベリア魔道学園にいるときに使え」
何故この男はエルトという奴が、リベリア魔道学園に通っていることを知っているんだ?
ベニーは最初は疑ったものの、この男たちの言葉を信じて明日この液体を飲むことに決めた
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します




