47時限目 少年たち、屋敷を掃除する
「では、がんばれよ」
オリバートはそう言い残し、城へと帰った
「さ、もう日も暮れますし、私たちも帰るとしますか」
「その前に、一つ提案があるんですが、いいですか?」
「あら、エルトから提案なんて珍しい」
女子たちは興味津々だった
「明日の放課後、またここに集まって屋敷の下見をした方がいいと思うのですが」
「と言うと?」
「先ほどの陛下は15年間手入れしていないと仰ってましたね?だとすると、埃とか汚れは相当ひどいはずです。つまり、闇雲に掃除するよりも先に状態を把握して必要な道具を最低限に確保しつつ、魔法も効果的に使いながらの方が早く終わると僕は考えますけど、皆さんは何かありますか?」
黙ったまま動かない
「えっと…、だめ…ですかね…?」
気まずい空気を打ち消したのはラディールだった
「いいですね、エルト!確かに、お父様は魔法は使うなとは言ってませんでしたね。私はエルトの案に賛成です!」
「反対する要素はどこにもないわ」
「姉妹と同じや」
「すごい、さすがエルト」
高評価を受けたエルト
☆
少し離れた路地に数人の女子がこの会話を聞いていた
「聞いた、今の?」
「うん、ばっちり!」
「私たちも協力しましょう!」
彼らが知らないところで何かをしようとしていた
☆
翌日の放課後
8人は再び、屋敷の前に来た
「よし、みんな。エルトの進言通りに、屋敷の中を見るわよ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「それなら、私たちも参加させてもよろしいですか?」
ん?
この声は…
振り向くと数十人の男女がやる気満々のオーラを出していた
「え?どうして、あなたたちが?」
エルトのファンクラブに加入している生徒たちだった
「すみません、昨日偶然この場所でエルトさんたちの会話を聞いてしまって、この話をファンクラブ会員たちに流したら、ぜひとも協力したいという人が続出しまして、さすがに全員はまずいだろうということで、この人数に絞ったんです」
「それで、皆さんも掃除に参加すると…」
「はい…。それで、ダメでしょうか…?」
8人は互いに顔を向け、そして、会員たちに笑顔で答える
「ここで断るなんて言うかしら?ねえ、エルト」
「はい、エディール様。大歓迎です!ぜひ、お願いします」
会員たちは喜び、中には大喜びで涙を流す者もいた
☆
一行は玄関前に来て、エルトがそっとドアを開ける
すぐに、大量の埃がブワっと押し寄せる
「ゲホッ…ゲホッ…」
「こ、これは…なかなか…」
エントランスだけでも数え切れないほどの蜘蛛の巣や虫の死骸があちらこちらに
「うっへぇ~…、こりゃ取り除くには一苦労だな…」
おそらく、他の部屋も同じ状態だろう
「まずは、埃や床に落ちてるごみ掃除をしましょう」
「そういうと思って、私たち、箒と塵取りを持ってきました」
会員たちはその言葉を待ってたかのようにタイミングよくエルトたちに見せる
「ありがとうございます、皆さん。それじゃ、手分けしてやりましょう!」
おーっ!!!の掛け声で蜘蛛の子のように散らばり、2人1組となって掃除を始めた
エルトと掃除したいと7人は取り合いになり、じゃんけんの結果、ルルがエルトと組むことになった
「うわぁ、これはひどいな…」
「…うん」
2人は掃除する部屋に置かれていたソファーに驚いていた
ほとんどが腐食しており、悪臭も漂っていた
エルトはすぐさま窓を開け、換気する
「どうするの、これ…?」
「そうだな…」
その時、外がやけに騒がしく聞こえた
同時に、エルトにとって久しぶりに感じる気配だ
もう一度、窓越しから見て少年はその正体に気付いた
エルトはその窓から飛び降りた
「エルト!!?」
ルルが驚くのも無理はない
少年は3階から何も使わずに飛び降りたのだ
エルトは何もなかったかのようにきれいに着地し、そのまま走っていった
その正体は、グリフォンだ
「ど、どうしてここに?城にいるんじゃなかったのか?」
「うむ。我のケガも治ったのでな、国王が自由にしてよいと言ってくれたのだ。汝は、我の恩人だ。そのお礼がしたいのだ」
律儀だな
エルトは、今ここにいる状況を説明
「ふむ、理解した。ならば、中の者たちを外に出してもらえるだろうか?」
何をするんだ?
グリフォンの姿を見て驚く者もいたが、グリフォンは何も危害を加えないと一言添え
翼を大きく広げ、バサッと一振り屋敷に向けて風を起こす
屋敷に風が当たっても、崩れる気配はない
むしろ、風が優しく包み込むように渦を巻く
数秒で風がやむ
屋敷全体の汚れはごっそり落ち、輝きを増した
まさかと思い
エルトは先ほどいた部屋のソファーを確認した
予想通り、ソファーは元通りになっていた
「すごい…」
エルトは再びグリフォンの元に戻る
「いかがかな?これが我のお礼だ」
「何で、あの風だけでここまで綺麗になったんだ?」
誰もが思う疑問だ
「我の翼にある鱗粉だ?」
「鱗粉って…、蝶とかに見られるっていう…」
「いかにも。我の鱗粉は触れたものを最初の状態に戻す役割を持っている」
何とも不思議な力だ
これは、公にするとグリフォンだけでなく自分自身にも身の危険が及ぶ可能性が高くなる
エルトはすぐさまに姫たちに相談
「そうね。その方がいいわ」
「ですが、エルト。一つ、足りてないですよ?」
「…え?」
「私たちも同じでしょ?」
「そ、そうでしたね…」
何はともあれ、掃除の手間が省けた
☆
翌週の休日
エルトとスオンはオレイアス宅の自分たちの荷物をまとめた
「これで、全部かな?」
「うん、ばっちり!」
最終確認をし、10年間過ごした部屋を出て
オレイアスと精霊たちに挨拶をした
「今までありがとうございました…。これも全てマスターのおかげです」
「よ、よせ…。堂々とそういうことを言うでない!」
やっぱり、こういうことには慣れてないんだね…
「こ、コホン…。少し寂しい気持ちになるが、またいつでも戻ってくると良い」
「エルト、私たちも待ってるからね!」
エルトは少し涙ぐんでしまうが、我慢した
そして、2人はオレイアスの家を離れ、新居に向かった
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します