4時限目 バルムス姉妹、幼少期を思い出す
「戸籍がないってどういうことですの!?」
アデリーヌは国王の言葉に声を荒げる
「落ち着け。その前に誤解を招く言い方をしてしまった。正確には、我が国にいた記録があっただ」
「いた…?」
過去形に少し疑問を持ったエディール
「10年前に盗賊団による襲撃で全村民が殺されて廃村となったデソル村。エルトはその村の出身だという事が分かった。つまり、彼はデソル村でただ一人の生き残りなんだ」
「生き残っていたなら、全村民ではないですよね?なのに、どうして?」
「うむ、報告書ではそう記載されているのだが、彼はどうやって襲撃からが逃げて生き延びることが出来たのかが全く分からない。それ以降、村の調査はなくなり、エルトの捜索も1年足らずで打ち切りとなった」
「結果として彼は死亡扱いとなったわけですか…」
「そう考えるべきだろうな」
自分たちが聞かされていたことと食い違う
姫たちは、エルトはスラム出身だと聞いていた
しかし実際は村の出身だった
一体だれが、彼をスラム街の出身だと間違えた情報を伝えたのか
さらに謎が増えた
「お父様、エルトは?」
姫たちは、早くエルトの顔が見たいと急かしていた
「ああ、彼の様子を見たいのだろ?セドリック、案内を」
「はっ」
セドリックに案内され、部屋の中に入ると
ベッドに横たわるエルトの姿
一般の人なら大怪我どころでは済まないほどの傷を負ったにもかかわらず
エルトは奇跡的に一命を取り留めた
しかし、まだ安心はできない
姫たちは彼の顔を見て
「エルト…」
「何か…申し訳ない気分だな」
「ウチもや」
「触れてもいいでしょうか?」
アデリーヌは彼の頬に手を添える
少し冷たい
でも生きている
少しだけ安心した顔をする
ふと、首元に目をやると
キラッと光るものが
「何でしょうか?」
紐のような物が見えたので
アデリーヌはそっと彼の胸元から取り出す
それはペンダントだった
ペンダントの先にはキラキラと輝く宝石
しかし、何故か砕けたように見える形だった
「何の石でしょうか?」
すると
「ちょ、ちょっといいかしら?」
「うん、私にも見せて」
エディールとラディールはその石を見て、見覚えのある形だとすぐに分かった
「どないしたんや、二人とも!?」
「何かあったんですの?」
「これ、ダイヤモンドよね?」
「そうですね、お姉さま…」
「なあ、お前らそのダイヤモンドに何かあるのか?」
ジェミナ―が問いかけるも
「あの時の男の子って…」
「そういえば…」
3人の質問にも無視して話し続ける二人
フィルラーがパンと手を思い切り叩く
「び、びっくりしたぁ!」
「お、驚かさないで!」
「二人してウチらの質問に無視かいな?そのダイヤモンドがどないしたって?」
「ご、ごめんなさい」
「ちょっと昔の事を思い出して」
二人は3人に謝って、話を再開する
「みんなはバルムス王国の王族は5歳から国王と王妃に連れられて色々な街や村に出向いて挨拶をする風習が古くからあるって話したわよね?」
「ああ」
「覚えてるで」
「はい」
「その…10年前に、デソル村に行ったことが一番印象に残っているの」
「それが、ダイヤモンドのペンダントという訳か」
「ええ、私たちもあまりの美しさに目を奪われたわ。その時付けていたのが、私やラディールと同い年ぐらいの男の子だった」
「で、その男の子、銀髪だったのも覚えています」
銀髪…
姫たちはエルトの方に目を向ける
エルトの髪も銀髪
偶然なのか…
「私たち、ダイヤモンドのペンダントが欲しいとお父様にお願いしたけど、ダメだと断られてしまって」
「そうしたら、その男の子、ちょっと待っててと言って家に戻って何かの作業をしていました。その後、私たちは驚いたんです」
「彼は何と、そのダイヤモンドを私たち二人分のペンダントを作ってくれたの」
「しかも、彼のペンダントのダイヤモンドは砕けてました」
ダイヤモンドは世界で最も硬い鉱石としても有名だが、彼はどうやって砕いたのか?
姉妹には分からない事だった
「私たちのために、自分が大切にしていたものを分けてくれた。彼はダイヤモンドは昔から魔よけの効果があると言われていると言って、これはそのおすそ分けとかけてくれた」
「今でも大切にしています」
二人は胸の中からそのペンダントを取り出す
すると
「なあ、そのダイヤモンドのかけらたち繋げてみたらどうや?」
フィルラーは興味津々そうに尋ねる
「い、いいのかな?」
「何で躊躇う必要があんねん?昔の事思い出したんやろ?せやったら、やってみる価値があると思わへんのか?」
フィルラーはずいずいと二人を促す
「やってみましょう…」
「そ、そうですね…」
10年ぶりに3つのかけらを繋げてみる
かけらは吸い付くかのように間違えることなくはまった
「ぴ、ぴったり…」
「…ですね」
「すごいな」
「こんなことってあるんですね…」
二人は呆然としていた
そして
合わさったダイヤモンドの上から何かが一滴滴り落ちた
それは、エディールの涙
「私たち…、エルトに…何てこと…してしまったの…」
「ご…、ごめん…なさい…」
二人は嗚咽を漏らしていた
今まで忘れていた記憶が印象のある物を見て突然思い出す
それは人間の性と言うべきものかもしれない
姉妹は、それを忘れてしまったがためにエルトに罵倒を繰り返していた
その罪悪感が一気にこみあげて、こらえきれずに涙を流した
「エルトに…どんな顔を…すれば…いいの…?」
「エルトに…何と…言えば…」
泣いている二人とみてフィルラーはそっと肩に手を添える
「謝るんや。それしかない。ウチらも謝るさかい、みんなでエルトに謝るんや」
「そうだ。恩人に酷いことをしてしまったことを謝るしかない」
「そうですわね。私も情けないと実感しましたわ…」
3人も少し涙目な顔を浮かべる
自分たちも二人と同じことをしていたからだ
「うん…、うん…、エルトが目を覚ましたら…謝りましょう…、ラディール…」
「はい…、お姉さま…」
5人は決意を固めた
しかし翌日、エルトの体に異変が起きた
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します