34時限目 少年、告白される
教室に入る前、エルトは3人組のせいで遅刻が日常茶飯事になりクラスメイトにクスクスと笑われていたことを思い出す
もう一度学園に通うのはいいものの、また同じ目に遭う可能性だってある
あまりいい気分ではなかった
それでも、エルトは一旦呼吸を整えて、教室の扉を開ける
「あ、エルト!!」
「エルトが帰って来たぞー!!」
エルトが想像していたのとは違う雰囲気だ
クラスが祝福モードになっていた
黒板に目をやると大きな文字で
『おかえりエルト!!』
と可愛らしい花や動物の絵とともに書かれていた
「あの…、何これ…?」
エルトは少し混乱していた
「何って、あなたが戻って来たからこうして祝ってるんじゃない!」
「そうだよ!英雄が来たんだからこれぐらいしないとな」
英雄…?
「それって、前の件に関係してる?」
「大ありでしょうが!魔物化したルディア様をたった一人で倒したんだから。私だったらとっくに死んでるわ!」
「俺も…、あんなでかい魔物を見たのは初めてだったから怖かったんだ…」
「それでもお前は、勇敢に立ち向かったんだ。男の俺でも惚れたんだぜ」
称賛の声を浴びせられる
エルトは恥ずかしい気持ちでいっぱいだった
「う、うれしいけど…、また前のような罵倒をさせられることがあるんじゃないかって不安なんだ…」
その言葉で教室中が静まり返る
するとルルがエルトに寄ってきて
「もうあなたの事を罵倒する人は誰もいないよ。私たち国王陛下や学園長から話を聞いて、あなたはずっと苦しい思いをしてきたのに、ひどいことばかりしてきた私たちがよっぽど恥ずかしいって思い知ったの…。偽善っぽく聞こえてしまうかもしれないけど、本当に悪いと思ってる…。だから…、ごめんなさい…」
ルルがクラスを代表して頭を下げた
「いや、僕の方こそごめんね…」
エルトも皆に向かって頭を下げる
「なんであなたが謝るの?」
クラスメイトも不思議がっていた
「僕のせいで学園はおろか君たちも不評にさらされたんじゃないかって…」
また静まりかえる
「私たちの事を心配していたの…?」
「うん…、今更かと思われるかもしれないけど、本音だ」
ルルはさらに近寄り
「優しいんだね。ますます好きになっちゃうよ…」
彼女は顔を赤くしながらエルトの頬にキスをする
女子からキャアアと黄色い歓声が沸き起こる
「え…?え…?」
エルトは何をされたのかはっきりしているのに戸惑っていた
「あの時のお礼…だよ」
ルルは恥ずかしそうに言うが、エルトはその顔がうれしそうにも見えた
それから新しい担任が入ってくる
その担任は20代前半と思われる女性だった
「初めまして、今日から皆さんのクラスを担当するペリーヌ=エウレットです。不慣れなこともあると思いますが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
男性陣から黄色い歓声が沸き起こった
というのも、巨乳で美人顔でスタイルよしの3拍子がそろっているのだ
エルトは無反応と言えば聞こえが悪いが、それほど興味を示さなかった
最初の授業は無事に終わり、20分の休憩に入った
鐘が鳴り終わると同時に、廊下を走る音が徐々に近づいてくる
そして、勢いよく教室のドアが開く
「エールート!!」
はしゃぐように入ってきたのはラディール
人目を気にせず、エルトにダイビング
少年は受け止めきれずに倒された
「いてて…」
「あ、ご、ごめんなさい…。その、どうしてもエルトに会いたくて…」
ラディールの息は少々荒かった
エルトに会うために全力で走ってきたのだろう
しかし
「ラディール様?廊下は走らないのが規則なのでは?」
「ええ、それが…?」
この人、反省する気なし?
「エディール様にお願いして、国王陛下にこのことを伝えてもらいましょうか?」
「いやいや、ここでお姉さまに言っても仕方ないでしょ?」
「そのお姉さまは今まさにあなたの後ろにいるんだけど?」
背筋の凍るような言い方をしながら仁王立ちするエディール
後ろにはフィルラー、ジェミナー、アデリーヌもいた
ラディールは体を震わせながらエディールのいる向きに首を動かす
「お、お姉さま…、その…」
「言い訳は結構よ!あとでお父様にたっぷり叱ってもらうからね!」
「ヒィッ、も、申し訳ありません!」
自分でも自覚していたのか
やれやれとあきれるエルトだった
☆
一行はエルトがいつも手入れしていた庭にいた
以前よりも花の種類が増えている
「すごいですね。どの花もきれいに咲いてる」
エルトは感激していた
「あなたが退学した後、誰も手入れしなくて雑草だらけの庭に変わってしまったわ。それで、エルトがまたこの学園に戻ってくると聞いたみんなが一致団結で草抜きをしたのよ」
「みんなが…」
「ルルなんかいっそのこともっと種類を増やしたらと提案があってね。学園長にも相談したら快諾してくれて、もっときれいな庭にしようって敷地も広くしたの」
言われてみれば広い
エルトが退学する前よりも2倍ほど広がっている
「でも、これだけ広いと手入れも大変になりますね」
「あんた、一人だけでやるつもりちゃうやろな?」
「あたしらも手伝うからさ、まずはエルトがレクチャーしてくれねえか?」
エルトにとっては思ってもみなかった言葉だった
「そういうことでしたら、喜んで!」
エルトは姫たちに雑草の抜き方やスコップの使い方など簡単に説明した
彼の横で作業しているのはエディール
姫は作業している彼の顔を見て
あなたはご両親や幼馴染を亡くされてずっと苦しくて悲しい思いを背負って生きてきた
ルルから聞いたけど、学園を退学した後もずっと私たちのことを心配してくれてたのね
自分じゃなくて私たちに…
どうして、あなたはそんな言葉が言えるの?
と、エルトが彼女の顔を見て笑顔で返す
そう、私はあなたの笑顔で救われた
婚約者だったルディアがカールおじさまを殺し、私たちを殺そうとした
正直、ショックで心が折れそうだった
でも、あなたがいた
自分の危険を顧みず、私たちを助け、学園の危機も救った
そして何より、その笑顔
あなたの屈託のない笑顔が私、いいえ、私たちの心を癒してくれた
お父様に言われそうになって恥ずかしかったけど、今なら自分から言える
エディールは無意識だったが、自然とエルトの方へと体を寄せていた
「エルト…」
「はい…?」
エルトが彼女の方に振り向いた瞬間、水色髪の少女は少年の唇に自分の唇を重ねていた
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します




