21時限目 少年、○○に出会う
事件から1週間が過ぎた
この期間のエルトは、市場に収穫した野菜を担当の人に渡す仕事を毎日していた
初日に限っては
「なあ、兄ちゃん、けがはもう大丈夫なのか?」
と心配していた
「ご心配をおかけしました。この通り、大丈夫です。またいつも通りにここに通いますよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけどよ、けがの事もあるんだし無理はするなよ」
といった会話もほかの人からも話しかけられる
特に子供は
「エルト兄ちゃん、僕もお兄ちゃんの手伝いがしたい」
「私も」
とエルトの体を労わるかのように自分もエルトの役に立ちたいと申し出ることもあった
「君たちの気持ちはありがたいよ。でも、これは僕の仕事なんだ。何だか、他人に仕事を取られているような気がして…」
「…あ」
「…ごめんなさい」
「いいよ、気にしなくて」
次の日以降は、いつも通りの生活だった
☆
翌日、エルトは王都を散策中している
オレイアスから
「市場に野菜を下すだけでは面白くないじゃろうに。たまには、買い物でもしてきたらどうじゃ?」
と提案があり、少年は即決した
「マスターの提案に乗ったはいいけど、何を買えばいいのかな…?」
市場に来て、手編み物や鉄製品などを見て回る
しかし、これといって自分が欲しいとは思わない
そんな時
「あれ?エルトじゃないですか」
後ろから声を掛けられる
エルトにとっては聞き覚えのある声だった
振り向くと
「ら、ラディール様?どうして、ここに?」
その後ろには護衛の人たちも歩いていた
「えっとですね、馬車に頼らず、自分で歩いてみようと決めて、お父様にもお許しを得て、ここに来たんです」
それは馬車に対するトラウマもあったりするのではとエルトは内心思った
「それで、エルトは市場で何を買おうとしているんです?」
「それが…、まだ決めてないんです」
「…はい?」
「マスターから自分で買い物してきたらどうかと提案されて、実際やってみると…、思う通りにはいかないですね…」
「…はは、私も似たようなものです。市場には足を運ばないので、どういうところなのか興味を持ちまして、来てみたらとても活気づいていいですね」
ふと、エルトは素朴な疑問を投げる
「あの、エディール様は一緒じゃないんですか?」
いつも二人で一緒にいるイメージが強かったが故の疑問だった
「お姉さまは今、あなたが昔住んでいたデソル村についての調査をお父様と一緒に行ってるところですよ」
「村に?それって、どういう…?」
「あなたの力、只者じゃないということは確かですね」
これは、エルトがいない間に姫たちで行われた緊急会議で上がった議論だ
「ただ、その村の詳細は過去の文献にもあまり明記されていないので、ほとんどが謎なんです。あなただけでなく、ご両親、村人たちも同じ力を持っているのではないかと疑問に思ったんです。それに、あなたともう一人の幼馴染が生かされた理由も知りたいですし」
「確かに、僕もそれは知りたいです。でも、あの村はもう…」
「エルト?」
黙り込むエルトにラディールは優しく問う
「あたり一面が野原になってるんです。明日は命日なので、足を運ぶ予定です」
「そ、そうですか…。他に、何か手掛かりになるようなことはないですか…?」
「そういわれてもですね…」
少し考えて、エルトはあることを思い出した
「そうだ、村のシンボルがあるんでした」
「シンボルですか?」
「はい、大きなクスノキが山のふもとにあるんです。ただ、あそこは…」
「どうされました?」
「村長がいつも言っていたんです。あの木から奥には絶対に近づくなって。そこには恐ろしい魔物がいるって…」
「そ、そうなんですか…?ただの噂では?」
「だといいんですけど…」
二人で話している途中から、周辺がやけにざわついていた
「二人とも、空を見てください!」
護衛の一人が二人に話す
同時に空を見上げると
「あれって…、ドラゴン…?」
「ですね…、それも3頭いるのは珍しい」
ドラゴンはバルムス王国のみならず、周辺国でも神の使いと崇められている
それ故、ドラゴンを殺した者には極刑が下される
さらに、ドラゴンを見た者は幸運に恵まれるという言い伝えもある
周りの人たちは
「ありがたや」
と手を合わせる
二人もつられた
ドラゴンたちは一度180度旋回した
そのうちの1頭は、何故かエルトのいるところに向かってきている
「に、逃げろーーーー!!」
市場にいた人が叫んだ瞬間
周辺の人たちは脱兎のごとく逃げ出した
「エルト、あなたも逃げなさい!」
ラディールに催促されるも
「あのドラゴン…」
エルトは皆とは反対方向に歩き出す
「ちょ、エルト!?」
そして、ドラゴンはエルトの500m先の大通りに降り立った
ドラゴンは周辺の事を気にせず、ただこちらに近づいてくる人間だけを見ていた
その距離は10mも満たないほどにまで近づいた
1人と1頭はまだ見つめ合う
先に仕掛けたのはドラゴンだ
目を大きく見開き、エルトに近づく
だが、銀髪の少年はそこから一歩も動かない
ドラゴンは、ゆっくりと息を吸う
確信を得たのか、ドラゴンは口を開け
「久しぶり~、エルト!!」
「大きくなったな、スオン!」
この会話に周辺の人はポカンとしていた
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します