13時限目 少年、過去を話す ③
オレイアスは、倒れているエルトの体を見る
手足には少し血がついている
服はボロボロではないものの汚れている
ここに来るまで何かがあった
それも、ヤバいことが
しかし、ここは森の奥深く
さすがに小さな子供がこんな夜の森を一人で歩くなんて自殺行為だ
このまま放っておくわけにもいかない
「お主、妾の家に来るか?」
「…え?」
「ここでは話するにも危険が多い。とりあえず、妾の家に案内しよう」
「…でも」
「遠慮することはない。食も風呂も用意するから」
その言葉を聞いて、エルトは最後の力を振り絞りながら立ち上がる
が、すぐにふらつく
「っと!大丈夫か?」
倒れそうになったが、オレイアスの腕に支えられる
「ごめん…なさい…」
「気にするな」
オレイアスとエルトは森を抜け出し、広い草原についた
しかし、家らしきものはどこにもない
すると、オレイアスは地面に巨大な魔法陣を展開
何をする気だろうとエルトはそう考える間もなく
眩い光に包まれる
「ほれ、着いたぞ」
エルトはゆっくりと目を開ける
そこには
さっきいた場所とは思えないほど花畑が広がっている
奥のほうには風車も見える
「ここが妾の土地じゃ」
「ここが…」
と空から何かがこちらにやってくる
「マスター、お帰りなさい…と、あら、かわいい男の子ですね…。でも…」
小さな女の子だ
空を飛んでいるのに羽らしきものは見えない
「すまぬが、すぐにこやつに風呂を入れてやってくれ」
「はい!」
何者なんだと考える時間もなく
エルトは、女の子の浮遊魔法で自らも宙に浮く
「う、うわ…」
「さ、こっちよ」
自分は夢でも見てるんじゃないかと錯覚しているようだった
だが、悲しい現実が記憶としてよみがえる
僕は、まだ生きているんだ…
エルトは、すぐに風呂に入って汚れをきれいに落とす
「お風呂いただきました…」
「もう上がったのか?烏の行水じゃの」
エルトの目線の先にはおいしそうに焼きあがった骨付き肉
そして、色とりどりの野菜
これは、エルトにとってごちそうだった
「いただきます…」
ゆっくり、またゆっくりとエルトは食材をかみしめる
しかし、あまりにもゆっくり過ぎるため
「どうした?口に合わなかったか?」
オレイアスは真剣なまなざしでエルトを見つめるが
その幼い少年は、少しうつむいている
というよりかは、顔色が優れない
オレイアスは、出会った時のエルトの格好を思い出す
この小さな男の子は何かひどいことを経験したのか…
彼女は意を決して
「すまぬが、お主の記憶を見させてもらえぬか?」
「…え?」
「お主、とても人前では言えないことを抱え込んでいるんじゃろ?」
「それは…、まあ…」
「妾はそれを知りたいんじゃ…」
「どうして?」
エルトは不思議そうに彼女の目を見つめる
「どうして知りたいかって顔をしておるの。たしかに、人のあれこれをいちいち聞くのは失礼というものじゃが。お主、年はいくつじゃ?」
「5歳…です」
「なら、なおのことじゃ。妾は、そうやって抱え込んだまま荒んだ心になってしまった子供たちを多く見てきたからの。そして、その多くは犯罪に手を伸ばし、牢に入れられたのじゃ。お主は、そうなりたいか?」
エルトは何も答えない…ように思えたが
「…だ」
「ん?」
「そんなの、いやだ…」
「なら、どうしたい?」
エルトは両目に涙を浮かべ
「お願い…です…、僕を…助けて…ください…」
オレイアスは安堵の表情をして
「その言葉が聞きたかった」
彼女は、エルトの後ろに立ち
「では、準備はいいか?」
銀髪の幼児はこくりとうなずく
オレイアスは、彼の頭に手を添えて
記憶再生を発動
彼女が目にしたのは
幼馴染と河原で遊んでいるエルト
直後に、何者かが彼のいる村に襲撃している音
そのあとに、村人全員、その中に彼の両親が無残に殺されていること
幼馴染の両親も同じ目に遭っていることも見た
さらには、叔父に引き取られるも
その叔父や奥さんも殺された
そして、そのあとを追いかけようと自殺を試みるエルトだができなかった記憶
オレイアスは即座に魔法を止めた
「な、何ということじゃ…。5歳の子供が見るには強烈すぎる…。あまりにも残酷ではないか。こんな子を見るのは初めてじゃ…」
「……」
「す、すまぬ…。嫌なことを思い出させてしまったようで…、申し訳ない…」
エルトは首を横に振る
しかし、オレイアスは彼の記憶を見てすぐに気づいた
この子は、天涯孤独なんだと
残酷な運命
そして、その運命から逃れようと自殺を試みた
このまま放っておけばまた自殺を図る可能性が極めて高い
そう心配したオレイアスは
この子の精神的ケアをしたいと心の中で決めた
「お主、ここで暮らさないか?」
「…え?」
「妾はお主のことがなんだか放っておけないのじゃ。それに、お主の戻る場所はあるのか?」
「…ない…です…」
「ここをお主の新たな住みかとすればよい」
「でも、お金は…」
「心配ない。妾は自給自足の生活をしておるからの。この子たちに任せれば、服だって作れるぞ」
「呼びました、マスター?」
家の窓から次々と小さな女の子たちが入ってくる
「この子たちは精霊と呼ばれる魔法に特化した生き物じゃ。妾はこやつらを使役しておる。妾の命なら何でも聞く優秀な子たちじゃ」
「ほめ過ぎですよ、マスター。それで、この男の子に何をすれば?」
「服を作ってやってくれんか?」
「それなら、お安い御用です」
しかし、肝心なことを忘れていた
「そういえば、お主の名を聞いておらなんだな」
「エルト…、エルト=ファイザー…です」
「エルト、良い名じゃな。妾は、オレイアス。オレイアス=クレイヴじゃ」
「オレイアスさん、いえ、マスター。よろしく…お願いします」
エルトは泣きながらオレイアスに礼をした
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します




