10時限目 少年、国王たちに会う
姫たちは学園に戻る準備をしているが
「あの、僕は…、学園には…」
「どうした?」
「行けないです…」
ジェミナ―の質問に答えたエルトの言葉に姫たちは作業を止めた
「何でだよ?エルトも行けばいいじゃねえか!」
ジェミナ―は少年の傍に近づく
「そうしたいですけど…」
「けど、何だ?」
「僕、退学した身ですよ?」
「それがどうしたんだ?あたしらがついてるじゃねえか!安心しなって」
すると
「では、私も学園に同行させてもらおうかな?」
部屋のドアの前に国王 オリバートが立っていた
「お父様!?公務に行かれていたのでは?」
エディールは驚いた
オリバートはジェミナ―、フィルラー アデリーヌを見て
「君たちの国王方に先の件の報告に行っていたのでね、ここにお連れしたよ」
部屋に入ってくるのは、各国の国王と王妃
左から
オステリア王国 国王 バリスト=エル=オストリア
王妃 シェーン=エル=オストリア
ワシュガ帝国 皇帝 グレイン=エル=ワシュガ
皇后 ニーニャ=エル=ワシュガ
ピクス王国 国王 ボシュテル=エル=ピクス
王妃 ラトエ=エル=ピクス
そして、バルムス王国 国王 オリバートと王妃 クリスティン
・ワシュガ帝国
「ち、父上…、母上…」
「ジェミナ―、無事で何よりだ!」
皇帝 グレインはすぐに娘に駆け寄りギュッと抱きしめた
「父上、ご心配をおかけしました」
「ジェミナ―、私たちはあなたが無事でいてくれればそれでいいの」
・オストリア王国
「オトン、オカン…」
「こら、ここではその呼び方はやめなはれ!」
「す、すんません。クセで…」
「まあ、ええやろ。体は大丈夫何か?」
「大丈夫も何も、ウチはこの通り元気でっせ!」
・ピクス王国
「もう、報告を聞いた時は心配しましたわよ!」
アデリーヌの母 ラトエは涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた
「お母様、お許しくださいまし」
「まあ、ラトエ。アデリーヌが無事だったことで良しとしようじゃないか」
父 ボシュテルも少し涙ぐんでいた
と、それぞれ家族で話し合っていた
それを見ていたエルトは
「…羨ましい」
「…そうか、お主、親はいないんじゃったな…」
「ごめん、昔を思い出しちゃった…」
「謝ることではなかろう。今は、妾がお主の親みたいなものじゃ」
「ありがとう、マスター」
国王たちは姫たちと話し合った後、エルトの元へ駆け寄った
「君がエルト=ファイザー君だね?」
皇帝 グレインが最初の言葉を発する
「はい」
「報告では、大怪我をしたと聞いていたが…」
「姫様たちが尽力されたおかげで、この通りです」
「こら、エルト!妾が抜けているではないか!」
「…あ」
隣のオレイアスは少し頬を膨らましていた
「あの、こちらの女性は?」
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。オレイアス=クレイヴと申します。以後、お見知りおきを」
エルトが初めて見た、敬語を使うオレイアスの姿
そして、その名前を聞いた皇帝は
「クレイヴって、あの賢者の一族の!?」
他の国王も驚いていた
「そうです、私はその末裔です」
「そうでしたか。でも、何故エルト君と一緒に?」
「まあ、いろいろと事情がありまして…」
「そうですか。詮索はしませんが、あなたとはお話ししたいと思っておりました。ぜひ今度、ワシュガ帝国においでください」
「考えておきます」
「あ、グレインはん!抜け駆けはいけまへんで!それやったら、ウチも同じやさかい!」
「私もですぞ!」
と
「あの、皆様方。話が逸れているような」
オリバートは軽く咳払いをする
「っと、失礼しました」
「堪忍です」
「すみません…」
グレインは再びエルトに顔を向けて
「エルト君、この度は娘を助けてくれてありがとう」
と深く頭を下げた
「私からもお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございます」
皇后 ニーニャも頭を下げた
「ウチらからもお礼させてくれまへんか?エルトはん、ホンマおおきに!」
「私からもお礼させてくれ」
「エルト殿、あなたにお礼の言葉を。ありがとう」
4か国の国王がエルトに頭を下げる
前代未聞の出来事であった
「いえ、僕はただ必死でしたもので、別に見返りが欲しいという訳でやったのではありません」
「その言葉を聞いて、君はいい人だと確信したよ」
「それだったら、私からも質問させていいかしら?」
エディールが手を挙げた
「何でしょうか、エディール様?」
「どうして、私たちを助けてくれたの?」
そう、姫たちが聞きたかった肝心の質問
「そうや!ウチら、学園であんたをいじめてたのにどうして?」
「それは関係ないですよ?」
「何でや!?」
「あの時に馬車の中に人がいると分かっただけで、それが姫様たちだとまではいきませんでした。僕は明らかにおかしいと思っていましたが、それ以前にこのままでは中の人が死んでしまうと焦ってしまって…」
「それで一人で止めようと思ったの?無茶にもほどがあるわね…」
「全くだな。賢者様にも迷惑かかるだろうに」
「もう、こやつには迷惑かけられっぱなしじゃ。困っている人がいたら、何とか助けてやりたいとずっと思っとる男じゃからの。何度も怪我をして、妾がどれだけ苦労させられたか…」
「それは、大変申し訳なく…」
「だが、その信念は今でも持っとるんじゃろ?」
「うん、父さんと母さんからずっと聞かされてきた言葉『困っている人がいたら、必ず助けなさい』
それが僕の信念なんだ」
だからいじめとは関係ないと言ったんか
「話の盛り上がっているところ悪いんだけど…」
ここで、オリバートが話を止めた
「お父様?」
「さっき、フィルラーの言葉を聞き流してしまったが、学園でエルトをいじめていたのか?」
その質問に、姫たちは固まった
ついうっかり言ってしまった
やってしまった
もう言い逃れは出来ない
「…はい」
「申し訳ありませんでした…」
「すんません…」
「ごめんなさい…」
姫たちは国王たちに平手打ちを喰らった
「どういうことか説明してもらおうか?」
姫たちは学園でエルトにどんないじめをしてきたか、先ほどの賢者の魔法 記憶再生で見たもの全てを説明した
説明が終わると
国王たちは三度エルトに顔を向けて
「娘たちが申し訳ないことをしてしまった。許してくれ!」
「ウチらも謝らせてくれ!」
また深々と頭を下げた
どうも、茂美坂 時治です
随時更新します