1時限目 少年、学園を去る
「エルト君、また遅刻ですか?いい加減にしなさい!」
次の授業の鐘が鳴ったというのに、一人の少年が遅れて入ってきた
当然のように教壇に上がった先生に叱られた
「だっせー。これだから不良で最下位の奴は」
「また庭でやらかしたって話だよ」
少年の事を気にせずぼそぼそと話すクラスメイト
少年はクラス、いや、学園の笑いものにされていた
「……でも」
「言い訳は結構です。あなた、自分の立場が分かっているんですか?もう、学園にいることすら危ぶまれている状況なんですよ?次に同じことをしたら、この学園には来れないと覚えておきなさい」
先生にくぎを刺された
「…はい、ごめんなさい…」
謝るしかなった
休み時間
「よお、落ちこぼれのエルトく~ん」
「また怒られたらしいな」
「学園にとっては汚物にしかならねえよ、てめぇは」
男3人組に絡まれる
少年は逃げようとするが、がっしりと掴まれた
「おい、どこに逃げようとしてんだ?俺たちから逃げようなんざ、いい度胸してんじゃねえか」
「お前は俺らの飼い犬だからな。犬にはしっかりと躾けねえとな!」
一人の男が少年の腹に一蹴り
「グハッ!?」
その場で倒れ込む
「いいねえ、もっとやれ」
「あ、でも。やり過ぎもいけねえんじゃね?」
「いいって、こんなド田舎からきた奴なんて俺らみたいな貴族様には逆らえねえって」
「それもそうだな」
「お前ら、遊ぶのも大概にしろよ。もうそろそろ次の授業が鳴るぞ」
「はい」
「分かりました」
先生が廊下を通るたびにいい子ぶる3人組
「じゃあ、もう二度と学園来れねえようにもう一蹴りっと!」
「グゥッ…」
同じ箇所をまた蹴られる
「じゃあな、汚物野郎」
笑いながらその場を去っていった
☆
彼らが通うリベリア魔道学園
バルムス王国にある世界で唯一の魔道学園だ
各国からの王族や貴族、成績優秀な平民たちが集まる
魔導士を目指す人なら誰もが憧れる学園だ
少年 エルト・ファイザーもこの学園に通っているが
彼の場合は少し特殊だ
その前に彼のステータスを見てみよう
エルト・ファイザー
年齢:15
魔力値:1
火属性:0
水属性:0
雷属性:0
光属性:0
闇属性:0
無属性:1
スキル:なし
学園ランキング:2000位(最下位)
学園が要求する適正魔力値は100以上とされているが
当然エルトの場合は合格することは不可能
では、何故彼がこの学園に通えるようになったのか?
彼が受けた年の受験人数は、予定よりも1人少ない状況だった
学園側も一人生徒が欠けるだけでも各国から批判を浴びる危険性がある
昔、2人生徒の確保ができなかったために各国から痛烈な批判を浴びたとも言われている
それをなるべく避けるために、エルトを特別に入学を許可したという
しかし、現実はエルトがいじめられる、さらには教師陣もいじめを放棄
彼を生徒と認める教師など誰一人いなかった
彼がこの学園を通うようになったのにはとある事情があるためだ
☆
授業まであと1分
「ねえ、そこの最下位男」
「邪魔だからどいてくれる?」
痛みに堪えながらエルトは振り返る
横一列に並んでいる5人の女子生徒
彼は知っていた
いや、知らない人はいない有名な人たちだ
バルムス王国第一王女 エディール=エル=バルムス
学園ランキング:1位
バルムス王国第二王女 ラディール=エル=バルムス
学園ランキング:2位
オステリア王国第二王女 フィルラー=エル=オストリア
学園ランキング:3位
ワシュガ帝国第一王女 ジェミナー=エル=ワシュガ
学園ランキング:4位
ピクス王国第三王女 アデリーヌ=エル=ピクス
学園ランキング:5位
彼女たちは学園でトップ5と呼ばれている強者だ
王族だけがトップ5というのもおかしな話と思うが
彼女たちは血のにじむような努力をしてきた
その結果がこれという訳だ
彼女たちもまた王族でありながら魔導士を目指すという変わった人たちだ
国王や皇帝なら反対しそうだが、彼らは一切の反対はなかったらしい
「フン、最下位がよくもこの学園に居続けられますわね」
「目障りだから、消えな」
「ホンマ、気持ち悪いわ」
彼を見下し、蔑む
エルトにとってはこれが日常茶飯事
学園に通うなど最初から無理だという事は分かっていた
次の授業の鐘が鳴る
エルトはまた遅刻
「はぁ、エルト君。これで何度目でしょうね?もう私からもあなたの事を庇いきれませんよ。昼休みに学園長に報告しますのでそのつもりで」
「……分かりました」
クラスからはくすくすと密かに笑う声
昼休み
エルトは学園長に呼び出されていた
「エルトやら、君は入学してどれくらい経つ?」
仙人のような髭を生やした学園長 サロア=ドグラットに睨みつけられる
「半年ほどです」
「君の悪行はわしの耳にも届いておるよ。君はこの学園を壊すつもりかね?」
「そんなつもりは……」
「毛頭ないと言うのかね?いい加減にしたまえ!」
サロアは激怒する
エルトは何もしていない
庭では花をただ眺めていただけなのに
3人組にいつも絡まれる
他の事にも絶対に絡まれる
そのせいで、学園は皆エルトの仕業だと思い込んでいる
3人組は貴族だ
エルトが反論したところで
彼らが権力を使ってねじ伏せる
エルトもそれが分かっていたから、反論するつもりなどなかったのだ
☆
ここで3人組の紹介
バルムス王国 公爵家次男 ルディア=フェン=ゲプカ
学園ランキング:7位
バルムス王国 子爵家次男 クルム=フェン=ザリウス
学園ランキング:9位
バルムス王国 男爵家次男 イアン=フェン=ベゲット
学園ランキング:10位
3人も上位にいる実力者である
☆
授業も真面目に聞いているのに、先生からも軽蔑される始末
トップ5の姫たちからも蔑まれる
もう、生きている心地がしなかった
「まったく、君を入学させたのは間違いだった。もうこの学園に通う必要はない。今日を持って退学処分とする。何か言う事はあるかね?」
「いえ、ありません……」
「そうか。では、今すぐ出ていきたまえ」
半年ほどの学園生活
それは地獄という言葉が相応しかった
どうも、茂美坂 時治です
新連載です