●第7話● ひとつ言えるのはどんな世界でもかわいい子はかわいい
気を失うってのは物語ではよく聞くけれど、実際にはどんなもんなんだろうと思っていた。
昔、交通事故にあったときだって、救急車が来るまで、病院に運ばれるまで、ずっと正気を保っていた。ただ痛いだけだった。
今回はフッと暗転する感じ。これが気を失うということだとしたら、初体験が夢の中なんてなんだかなぁと思った。夢でよかったともいうべきなのか……って、そうそう気なんか失いたくないもんだなぁ。
こんなことを考えられているってことは、もう俺は正気なんだろう。
……なんか人の気配がする。
目を開ければいいだけなんだけど、開けば現実をつきつけられるようで怖い。ソファの上で目覚めるか、PPRで目覚めるか。おそらく後者なんだとは思う。そうだとしたら、ユウが横にいて、あの綺麗な黒髪と大きな瞳で心配してくれていたら嬉しいな、なんて。
ゆっくり目を開けた。
「お気づきになられましたか、シロップ様」
「あー気付いたのだ気付いのだーシロップさまぁ」
重なる声。
打ちっぱなしのコンクリートな天井に這うダクト、現代でいえばおしゃれ感もある無機質な部屋。でも俺の顔を覗き込むのは2人の少年。
やっぱり知らない場所だ。夢の中のままか。そして横にいるのは、ユウじゃなくて2人のソガキかよ。
……2人のソガキ。
は?
「シロップ様。陽が出ている状態での外出は危険でございます!」
「もー何やってるのだよーシロップさまぁはぁ。お陽様が出てるっていうのにぃ」
そのあとも同じ内容を異なる口調で次々と吐き続ける2人。口を挟む余裕なんてない、一方的だ。
ソガキが2人に見えたのは倒れた影響からかと思ったが、よく見たらオッドアイの色素が違う。左右逆の2人だ。
……それ以外はまったく同じ。こいつら双子か? となると……丁寧な言葉遣いのほうがソガキだとして、もうひとりは誰? でも今の俺の頭ではそう考えるのが限界だった。
「お聞きいただけているのですか?」
「もーちゃんと聞いてるのかだよー?」
ただでさえ朦朧として寝ているのに、2人が同時に話すから……まったく頭に入ってこない!
するとブザーが鳴り、ソガキと思われるほうがモニターへ移動、俺の視界から消えた。それから開閉の音とともに誰かが部屋に入ってきた。
「グレナ司令は大丈夫でしょうか?」
「ご無事でございます」
あ、この声はユウだ。なんだろう、まだクラクラしているのだけど、ユウにカッコ悪いところを見せたくないととっさに思った俺は、体を起こして寝ていたベッドの背に寄りかかる。それからユウのほうに向けて右手を上げた。額に乗せられていた冷たいタオルがシーツの上に落ちた。
ユウは目こそ合わせはしなかったが、俺のその姿を見てか、一瞬力が抜けたようなリアクションをしたように感じた。そして何かを言いかけようとしたように思えたが……もうひとりの少年が俺の前で満面の笑顔をつくってからユウのほうに振り向き放つ。
「あーユウっちゃ!」
「あ、ガクキくん! 帰っていらしたんですね」
「さっきなのだよー! ミミとランの相手は疲れるのだよー」
ガクキ?
そして彼女と談笑を始めた。
「そういえば出撃してないって聞いたのだよー。部屋にいると思って、さっき行ったのだよー! いなかったのだけどー」
「あ、ごめんなさい。……もしかして、いつものお土産ですか?」
「そうなのだよ。今日は黒い蛇柄の香水入れを見つけてきたのだよー!」
「うわぁ、うれしいです!」
ん? エルが言ってたのは、ソガキじゃなくてコイツのほうだったか。となると、さっきユウの部屋の前に現れたのもガクキか。
「シロップ様の部屋で騒がないでいただきたい!」
大きく咳払いをして言葉を発したソガキに黙るユウ。しかし、おかまいなしに話すガクキという少年。
「それにしてもなのだよ、今回のは人型だったのだね。エルっちゃも苦戦したとかしないとか」
「あ、はい。私も出撃するところでした」
「やはりそうなのだね」
ユウは俺のほうをチラチラ見る。なんで目を見ないんだよ。……ん? でもこれは何かの合図か?
「あーーー! お土産を部屋に置いてきてしまったのだよー、持ってくるのだよー!」
「あ、いえ、今は……」
俺の方向をまた確認するユウ。
あ、そういうことか。察する俺。ガクキを止めろってことだろう、これは。ソガキにその役目を担わせようと思ったが、ソガキは右手を顎にあて考えこんでいるようだった。んだよ、こういうときこそ出番じゃないの?
「いいのだよー。持ってくるのだよ!」
ガクキの声のトーンが一段階あがったところで、俺は精一杯の大声を出してみた。
「静かにしろっ!」
あークラクラする。
でも効果は抜群だ。ガクキはこちらを見て固まり、目を俺に合わせたまま「シロップ様、大変失礼いたしました。ご回復されたようですので、私めは退出させていただきます」と後ずさる。そして視線を外すことなく「では、クレイドン設置のご報告はまた後程」と残し部屋から出ていった。こいつら怒ると口調が変わるのな。
扉が閉まるとソガキが口を開いた。
「シロップ様。お騒がせ致しました。私めの双子の弟、ガクキでございます。……思い出されませんか?」
いや、思い出すも何も……そうだ。その前に俺はユウにまず言うことがあった。
「ユウ、さっきは待ってなくてすま…」まで言いかけたとき、彼女はつんざく大きな声でかき消した。
「グレナ司令がいかに危険なことをされようとしていたか、これからソガキくんとちゃんと説明しますので、もう勝手な行動をとるのはやめてくださいね!」
びっくりしたー。
ソガキ少年も目をパチクリさせている。
ユウは続ける。
「ソガキくんには、グレナ司令の記憶がないことはお話しさせていただきました」
「はい。記憶のほうはユウからお聞きしました。それでお体のほうはいかがでしょうか?」
え? 記憶喪失? どういうこと?
俺、記憶喪失ってことになってるの?
いや、待て待て。
俺の夢の中で、勝手にキャラが設定をかぶせるのやめてくれ。しかも、さっきの感じだと、ユウと一緒に部屋にいたことは内緒みたいだし……ややこしいうえにこんがらがる!
ソガキは返答を待っているのか、2色の瞳で真っすぐに俺を見つめる。
「少しクラクラするがなんとか大丈夫だ」
「左様でございますか。安心いたしました」
ソガキは記憶喪失のことよりも、熱風で意識を失ったことのほうを心配しているようだ。
そうだ。記憶喪失設定になっているわけだから、それっぽいことも言わないとダメだよな……。
「思い出してやれなくてすまない」
「いえ、そんなことはございません。シロップ様はこの状況を予見されておりました。その時がきた、それだけのことでございます」
は?
え?
どういうこと?
「覚えていないかと思いますが、グレナ司令が外に出て倒れることも、事前に司令がソガキくんに指示をされていたそうです。だからこうして、大事になる前に救助できたんです」
ユウはソガキと同じ位置、つまり俺のベッドの傍まで近づきながら言った。部屋に入ってから、一回も目が合わないのは、彼女が意識的に外しているとしかもう思えない。
「はい。シロップ様が以前、もし不都合との交戦中に不自然な言動や行動をとられることがあれば……と、私めに指示を残されました。そこで失礼ながら、1Fフロアを監視させていただいておりました」
ど、どういうことだ。何を言っているんだ?
そのとき、ソガキの右腕の例の通信機器が輝き振動した。
「わかりました。すぐに向かいましょう」
通信機に向けそう言うと、ソガキは「一度失礼させていただきます」と部屋の入口へ移動する。そしてこちらに向き直すと、「今は少しお休みになられるのがよろしいかと。改めてまたお話にあがります」と続けた。
いやいや、待て待て。
思わせぶりな謎を残して去るのはもうやめてくれ。
「私めからひとつだけ言えることは、シロップ様なしではこの世界は救えぬということです。ですが、今はご無理をなさらず、回復を最優先にお考えください」
語尾に力が入っている。なんかやる気に満ちている顔に見えるのは気のせいか?
「それでは失礼致します。ユウ、行きましょう」
「は、はい」
ユウもソガキに呼ばれ扉の前へ駆ける。
「ちょっと待て」
俺は思わず呼び止める。だって、謎が謎を呼んでるし、俺はベッドから出られる状態じゃないし、またここでひとりで待って、嫌なことを考えるのもごめんだ。この夢は覚めないし……覚める自信もなくなってきたし……というか、本当に記憶喪失だったらどうしよう!? わけがわからん!
ソガキはこちらを向いて「ご安心ください。記憶の件は私めとユウのみで守ります。他言は致しません。記憶が戻るその日までは我らが全力でシロップ様をサポート致します」
……ありがたいけど、そうじゃなーい。こうなったらユウに聞くしかない。約束したし!
「そうか。少し聞きたいことがあるからユウは残ってくれ」
「左様でございますか」
ソガキはユウに向けて頷くと彼女も頷き返した。
「では私めはこれにて失礼致します」
ソガキは部屋を出ていき、ユウだけが残る。
重い沈黙……。
「なぁ、俺って記憶喪失なのか?」
「……わからない……です。グレちゃ……私が思いたいだけかもしれない」
ユウは感情を圧し潰すようにゆっくりと口を開いた。
「そうか」
目を見ない理由は、まぁそんなところだよな……。
「そのさ、さっきは部屋で待っていなくてごめん」
「いえ……ただ、この時間、外は危険です。普段なら……私たちも休んでいます」
しばしの沈黙の後、ユウはこちらを睨んで口を開いた。初めて目が合った。
「…もう絶対危険なことしないでくださいッ! あなたに何かあったら……私ッ……わ…」感極まったのか、最初は大声だったが、最後は声にならない泣き声まじりで、彼女は俺にすがりつく。
……ユウの何とも言い難い小さな声だけが部屋に響く。
俺は何て声をかければいい? こういうときイケてる男はどうするんだ? 抱きしめていいのか?
「あ、あのさ。ユウは確かめたいことがあるって出ていったじゃないか。ソガキに何かを聞きに行ったんじゃないのか?」
彼女は俺から離れて、ベッドに座った。少し落ち着いたようにも見えた。
「……はい。あなたの話を聞いて、先ほどの戦いが少しおかしいと感じたのです。グレナ司令の命令には絶対に従うはずのソガキくんが、どうしてあそこで出撃を止めたんだろうって」
(「……肝心の出撃はダイブまでしたんだけど、後から来たソガキくんに止められちゃってー」)
(「ん? ソガキが?」)
(「ちょっと待ってくれって。私、エルちゃんが心配でそれでも無理矢理出ようとしたんだけど、ダメだったよ」)
俺もおかしいと思ってた。
「それでソガキくんを問い詰めたんです。そうしたら司令から事前に指示をもらっていたんだそうです」
「俺からソガキが? どんな?」
「もし人型の不都合との戦いで、グレナ司令がおかしいと感じたら、ソガキくんの判断で私の出撃を何としても阻止しろって」
「なんだよそれ」
「私にもわかりません。でも、あのエルちゃんがあそこまでやられて、ソガキくんも判断がつかなくなって、結局私を出撃させることにしたとは言ってました」
結果、ユウの出撃はなかったが……どういうことなんだ?
「私、それで……もしかしたら、あなたは記憶喪失の可能性もあるんじゃないか? と思うようになったんです。だってソガキくんに命令していたなんておかしいじゃないですか!」
「な、なるほど」
「ソガキくんにもそう伝えました。でもソガキくんは驚いた様子もなくて、これは予期されていた事態だから大丈夫って言ってました。お医者様への報告もやめて、2人で記憶が戻る日まで隠しとおそうって」
え? は?
「いや、ちょっと待ってくれ。そもそも俺は記憶喪失なんかじゃないってさっき……」
「わかってますッ! そんなことはわかっているんですッ! でも、少しでもいいんです。信じさせてください……」
沈黙。
とりあえずどうすればいい? 夢オチを伝えても意味がないことは、さすがの俺もわかっている。が、彼女が深刻にかかえるほどにはこの状況を受け止めきれない。なぜなら、彼女はさっきまで全然知らない子だもの。かわいいから困るだけで……ただこの沈黙は重い。
彼女の悲しみに寄りそうこともできそうにない。だって、俺はグレナデン・シロップじゃなくて成瀬太一なんだもん。とはいえ、この状況のままじゃ何も進展しないよな。
……女子免疫がない俺でも、この空気を変える精一杯の努力はしてみようと思った。
「あ、あのさ。俺も正直よくわからないんだ。ユウに言われて記憶喪失かもしれないと思いはじめたよ」
「ほ、本当ですか? あ、いや……でも」
そんなことぐらいしか言ってやれないけども。
「だからさ、記憶を戻すためにもこの世界のことをできるだけ教えてくれよ」
話すことで少しでも彼女の気持ちが落ち着くなら……いや俺が知りたいだけかもしれないけれど、そんなことを発していた。
「……それはもちろんです。私が知っていることは何でもお答えすると約束しましたから」
それから、とても長い時間をユウと話した。
箇条書きでまとめて見る。
3年前「消失の日」と不都合とは?
・世界が熱風に包まれ陽があるうちは外に出られなくなった
・世界全体の水位があがり、大陸の大半は沈み、人口が激減
・同時に不都合と呼ばれる巨大な物体が現れるようになる
・不都合の目的や出現する場所は未だに不明
PPRとは?
・PPRは対不都合迎撃統率基地。ここは本部で世界中に支部がある
・グレナデン・シロップは最高責任者にして創設者
・参謀筆頭がソガキ、ガクキの2人。彼らを軸に本部の統制が図られている
・スタッフならびにPSWは任意でこの施設で暮らしているものも多い
PSWとは?
・PSWとは水球と呼ばれるポッドにダイブし戦う女子
・ポッド内にダイブすると装備はそのままに、クレイドンと呼ばれる土に体を投影反映し具現化できる
・ポッド内のPSWは世界各地に設置されたクレイドンを通して不都合を迎撃
・PSWは神経接続されているため、投影された体でも敵の攻撃で損傷、損壊する
・ポッドから出れば肉体ダメージは回復する
・ポッド内はソルファと呼ばれる認識水で満たされているため、水中で体を動かすように投影された体を操作する
「なぁユウ、なんでPSWは女子だけなんだ?」
「え? それは……」とユウが話し始めると、「ん?」と自分の腕に視線を動かした。違和感を感じたのか、袖をめくり通信機器を触る。
『不都合出現。PSW出撃準備』
「コールPSW」
ユウはそう通信機器に向かって言うと俺の方を見上げる。
「グレ……司令。私行ってきます」
「まだ聞きたいことがあったんだけどな」
「今はGSで調べてみてください。特殊端末にアクセスができますので、あなたの知りたいことをある程度は検索できるはずです」
「GS?」
「これのことです」ユウは自分の通信機器を指さす。
あ、それGSっていうんだ。
って、自分の腕を見てみると、ジャージの上に付いてた! あまりにも軽いしフィットしすぎててわからなかった!
「そういえばソガキくんがあなたのGSの主電源を切ったようなんですが、また入れ直しておいたので使えるようになっているって言ってました」
ん? どういうこと?
なんで電源が切られたんだ? 電源が入っているとまずいことでもあったんだろうか。
まぁ考えても答えなんて出ないんだけど、例えばメイン機器からこの子機であるGSを使って、俺のことを監視すりゃいいんじゃないのか? とかさ。GSの機能を知らないから……そんなGPS機能みたいのがあるかどうかも知らないけど、使い道はいろいろありそうだけどなあ。
それにしても、ソガキ……事前に受けた指示の話もそうだが、もっと何かを隠している気がする。俺は電源を切る理由があったということだけは、覚えておいたほうがいいと思った。
そんなことを考えていたら、ユウのGSから声が漏れた。
『不都合進行中。ユウ急いで!』
「すみません、私もう行きますね」
「ああ。でも本当に不都合ってヤツはいつ出現するのかわからないんだな」
ユウはちょっと微笑んで答える。
「……あなたが笑いながら名付けたんじゃないですか。不都合って。こっちの都合なんか考えてもくれないとか言って……」
不都合って、お、俺が名付けたんだ?
しかし、ユウと長い間話をして、だいぶ距離が縮まった気はした。質問タイムが時間切れなのは残念だけども、エルの左腕の件とか、だいぶ俺の夢の世界設定が掴めてきた。
……もちろんまだまだ謎は多いが、あとはこのGSとやらで調べてみるか。
ユウは扉の前まで移動しながら、背中越しに俺に言う。
「……グレナ司令……またお話をしに来てもいいですか?」
「もちろんだよ」
「……ありがとう…ござい……ます」
扉を開けるユウ。その背中が急に愛おしく見え、引き留めてしまう俺。
「なぁ、俺は司令なのに一緒に行かないでいいのか?」
「……グレナ司令に通信がなかったということは、今回は特例なんだと思います。きっとソガキくんが気を遣っているんじゃないですか。……休ませてあげたいって」
「そ、そうか」
いや、そうだしても、司令の仕事ってそんなんでいいの? とは思った。
「私もソガキくんに賛成です。倒れられていたんですから、司令は」
そうだった。俺は熱風でぶっ倒れていたんだ。
「でも俺は倒れていた間は寝ていたし、そもそも君の中で休んでいたさ」
思わずイケメンみたいなことを言っちゃった!
彼女は少し頬を赤らめてこちらを向くとニコッと笑った。怒られなくてよかった! しかも、この数時間中で初めて見た笑顔だ。黒い髪もいいよね!
で、俺は気を良くしてつい調子に乗ってしまった。
「なぁユウ、俺のどこを好きになったんだ?」
……最大の疑問を最後にぶつける。だって、めっちゃ変な顔だよ、おっさんだよ。
すると彼女は真顔に戻り、こちらを睨むと拳を握りながら力強く言い放つ。
「そんなこと聞かないでくださいッ!」
やべーやっちまった! 大きな声に心底びびった。ごめんなさいッ! 心の中で何度も謝る。距離が縮まったと思ったけど、まだ早かった!? む、難しい。
「……あなたが私を救ってくれたんじゃない。……ううん、それだけじゃない。私の、みんなの背中を推してくれたんじゃない!」
は?
「……私が必ずあなたの記憶を取り戻してみせます!」
そう言って廊下へ消えていくユウを見守る俺。
…………………………………………。
えーと。なんかすごいシリアスなドラマが最後に展開してたけども、ユウになんか決意させちゃった? で、俺って記憶喪失だったんだっけ?
いやいや、待て待て。
俺はタイチ! 成瀬太一! 20歳! 禿げてない!
あやうく、ユウの笑顔にコロッとやられて、自分の記憶を上書きするとこだった。
でも、つまりどういうことだ? グレナデン・シロップ。お前は本当に何者なんだ? ただのザクロじゃないのか?
ベッドの上で考えを巡らす。大好きな設定の夢なはずなのに、思ったよりも世界が重いし暗い。夜しか外に出られない世界って何だ?
天才司令となって巨大美少女に命令を出し、謎の敵と戦って世界を救う。そこにヒロインとの色恋沙汰が絡んでのあれやこれや……みたいな軽い世界だと思っていたのに!
不都合という敵をはじめとして、まだまだ知りたいことは多い。とりあえずは、ユウが言っていたとおり、このGSってヤツで調べてみるか。それ以外、とくにすることもないし。
で、これどうやって使うんだろう。俺は中央に映し出された「GS」という文字を触ってみる。するとその腕時計のような通信機器から、振動とともに勢いよく音声が飛び出した。
『YO-シロップ! YO-相変わらず変な顔!』
うっは……また変なのが出てきたあああ!