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●第2話● 夢想と理想とショタとハゲ

 

 グレナデン・シロップ……。

 たしか赤いザクロの果汁と砂糖でできたシロップ。

 グレナデン・シロップ……。

 俺の日常生活には馴染みがない。しいていえばバイト先である居酒屋にあるぐらい。

 グレナデン・シロップ……それがこの世界での俺の名前。


 ここは俺の夢。

 巨大少女に司令を出すという憧れのシチュエーション。

 ずっとパイロットの主人公なんかより、命令を出す側になってみたかったんだ。

 だってそうだろ、物語の主人公に多いパイロットたちはほとんど何も知らされないまま戦いに飲み込まれていく。

 そして多かれ少なかれ、正義も悪も組織のトップが絡んでいるオチが待ち受けるんだ。

……だったら世界を把握したい、自分の手でどうなろうとも動かしてみたい。

 いつからか俺はそんなことを夢想する少年だった。


 だから、グレナデン・シロップって名前ぐらいなんだ、受け入れがたいのは。


……けど、一瞬かもしれないが、夢が叶ったんだから、その名前、受け入れてやる!

 赤くったっていいじゃないか! 

 っていうか、そもそも夢だし、これ以上悩むのも馬鹿らしい。


……と思うものの、やっぱりなぁ。名前だもんなぁ。

 夢だからこそ、そこが重要なんじゃないの? だって俺の夢だよ、とも思う。

 普段世知辛い人生をおくってるんだからさ、夢ぐらい思い通りに描かれたっていいじゃないか。


 いや、待て待て。

 もしかしたら、俺の聞き間違いで本当はグレナデン・シロップなんて名前じゃないかもしれない。

 まだワンチャンあるかも!?


「シロップ様、グレナデン・シロップ様、どうされましたか?」


 頭を抱えてうなっている俺に隣の男が心配そうに語りかける。


 ワンチャンなかったー! 俺、グレナデン・シロップ確定ー! 


 デスクに突っ伏してうなっている状態の俺は、声の方向に半分顔を向け、ジト目で男の顔を見る。

 想像してたのは、スラーッと背の高い執事タイプの爺さんだったのだが、そこにいるのは紛れもない少年だった。

 10歳前後だろうか。瞬間的にわかった、かわいい顔と特徴的なオッドアイ。

 赤と青の瞳が心配そうにこちらを見ていた。

 暗闇の中で見上げたつもりが眼の色だけでなく、ほぼ全身が視界に入った。

 さすが10歳前後。

……何も答えないまま、俺は再び額をデスクにつけるように元にもどした。


 うおーい、待て待て。

 あの位置にいるってことは、あの子が俺の参謀的なヤツ?

 声は渋いおっさんだったじゃねえか。

 しかもなんでオッドアイなんだよ。

 ああいうのは、俺の世界では女子キャラの設定に採用してほしかったんだけど!

 そんでもってあの恰好はなんだ。俺の通ってた学校のジャージじゃねえか。


 この夢はやばい。俺が世間で聞きかじったいろいろな情報が変な感じで混ざってる。

 グレナデン・シロップなんて飲んだこともねえし!


「シロップ様、少しお休みになられたほうがよろしいのではないですか? シロップ様の決定に異論はございませんが、クレイドンの配備位置から少し距離がある以上、ユウの出撃は不都合の目的を見定めてからの判断でもよかったように思います」


 おっさん少年(仮)が語りかけてくる。

 俺はデスクに突っ伏しながら聞いていた。


「も、もちろん、クレイドンを2個体しか配備できなかったのは私めの失態でございます。ですが、今シロップ様に倒れられては全体の、いや世界の存亡に関わります」


 反応がないとみると、慌てるように少年はしぶい声でたたみかけてくる。


「あ、あとでございますね。シロップ様がそうした戦況把握を……いえ、なんでもございません。あ、あの……」


 とにかくおっさん少年(仮)は焦っているようだ。

 あ、そうか。俺がもしかしてここで一番偉い人だからか?

 で、彼的にはさっきの出撃は早計だったと諫言しちゃったもんだから、俺が怒って突っ伏してるようにでも見えているのか。

 ジト目だったし。


「あのさ、出撃させるタイミングを見定めろって忠告はわかったけど、なんで俺が休めって話になるの? 今って結構やばめの戦闘中じゃないの?」

 俺はまたもやジト目でおっさん少年(仮)に問いかけた。


 おっさん少年(仮)は、いきなり振り向き放たれた言葉に全身をブルっと震わせたあと、色の違う瞳をパチクリさせながらしどろもどろに答える。

「申し訳ございません。その采配自体が私めから見て、少々お疲れの様子でございましたゆえ……」


 なるほど、いつものグレナ司令はもっと冷静に状況を判断し決断するわけか。

 でもなー、休めって言われてもなぁ。夢の中で寝ても仕方ないし、名前のことはもうあきらめたし、それっぽくやるか。

「ごめん、ごめん。ユウちゃんの気迫におされちゃってさ。エルちゃんも痛がってるみたいだったし」


 おっさん少年(仮)は、硬直して驚いた表情を見せる。ジャージのポケットから取り出したハンカチで額を拭きはじめた。

 そして右手を顎にあて、しばしうつむくとこう発した。

「ご無礼いたしました。お許しください。シロップ様」


 あれ? なんかリアクションが変じゃない? もしかして俺の口調が変だった? フランクすぎた?

 グレナ司令ってのは、普段どんな口調なんだ?

 頭の中でこれまで得た趣味の世界の知識に検索をかけ、精一杯の回答を導き出す。


「気にするな。エルもユウも大事な戦力だ。考えたうえでの行動である」

 さぁ、今度はどうだ?


 おっさん少年(仮)はあきらかにホッとした表情で「左様でございましたか。どちらにしましても大変失礼致しました」と答えた。


 よーし、口調はこんな感じで大丈夫っぽいな。

 しかしおっさん少年(仮)っていちいち言うのも面倒くさい。

 俺は首を横に向けたまま、おっさん少年(仮)に聞いた。

「ところで、お前の名は何と言ったか?」


「や、やはりお怒りなんですねえええ。ソガキですぅう。お忘れですかあああ。……失礼しましたああ」

 ソガキと名乗ったおっさん少年(仮)は、俺から目を逸らさず後方へダッシュ。

 そのままモニターの奥へ、アッという間に消えていった。


……え? 何々? アイツどうした? あと口調がいきなり変わったぞ? 


 あっけにとられる俺だったが、突如、赤い光の帯が無数に見えた。

 巨大モニター方面から赤い光が放出されているのだろう。

 俺は顔をあげ正面を見る。

 巨大モニターに映っていたのは、赤い俺(仮)の赤い閃光が、モニターを映しているカメラ方面に向けて放出されていた。


「きゃああ」悲鳴が部屋全体から聞こえてくる。

 これはエルの声だろう。そして、おそらくパイロットの声が司令室全体とつながっているから聞こえる、よくある設定のやつだ。

 エルはカメラのある方向を身を呈して守り、自身で閃光を受け止めていた。

 やっぱり、被弾した声か。

 女の子が攻撃を受けているのに、こんなに冷静でいられるのは、きっとこれが夢だからなんだろう。


「だ、大丈夫。まだいけるわ」

 エルは聞かれてもいない相手に対して声をあげた。


 しかしまぁ、俺(仮)は一体なんなんだ。

 というか、この世界が夢なら、俺の女の子をいじめたい願望みたいなものがこういった世界を生み出しているとでもいうのか? 

 俺、深層心理ではだいぶ病んでるヤツなんじゃないか……そんなことをモニターを見ながら思う。


 俺(仮)は、今度はツインテールの片方をつかんでエルの体ごと持ち上げ、彼女をそのまま近くの廃ビルに叩きつけるようにして投げ飛ばした。

 完全に破壊されるビルと、その中に沈むエル。エルは折れ伸びた左腕を右手でかばっているため、受け身がとれずにそのまま倒壊するビルとその砂塵の中に消える。


「モニター異常ありません」

「不都合残り2分です」


 俺(仮)の光により、赤く照らされたことでわかった、前方の数名のスタッフが叫んだ。


 不都合が2分? なんだなんだ?


 そのとき俺のデスクの中央から半透明のモニターが現れた。

 モニターの下側からスライド式にせり出すトレイ、その上にはボタンがひとつ。丸いボタンだ。


「先ほどからエルがフォームチェンジ解禁許可を求めています」


 スタッフのひとりがあきらかに俺に向かって力強く叫ぶ。

 どうやらスタッフの報告に気をとられていて、エルがこちらに向かって問いかけていた声が聞こえていなかったようだ。

 で、フォームチェンジ解禁ってなんだ? 姿が変わるのか? ようわからんが、ままよ!

「ああ」と答えた。


 すると半透明のモニターとボタンに「PSW(ピーエスダブリュー)+」の文字が浮かび上がった。



「ちょ、ちょ待てよ」

 今が緊迫した状況なのは、いくらなんでも俺でももうわかっている。

 でも、そんなことよりも衝撃的な事態が起こってしまいました。

 文字の浮かび上がった部分ではないモニターに反射して映った、グレナデン・シロップ司令の顔。



 おっさんじゃねええかあああああああああああああああああああ!


 しかも、縦半分に禿げとるやないかあああああああああああ!


……た、縦? 斬新すぎない?



 夢なのに俺は動揺した。

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