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●第1話● 振り返れば巨大ツインテール女子がいる

 

「………………さいッ!」



「……ぴーえすだぶりゅー、ですッ。………撃させてくださいッ!」



「…私に出撃許可をッ!」



 暗闇の中でだんだん大きくなっていく、力強い少女の声。

 俺は我に返った。


 あれ。どこだ、ここは。

 薄暗い照明の室内に、天井まで高く無数に積まれて輝きを放つモニター群。

 そこには何やらよくわからないグラフや数値が、上下に激しく動いている様子が映し出されている。


 あきらかに俺の家じゃない空間。冷房が効きすぎているのか肌寒い。

 えーと、たしか俺はさっきまで家でコンビニの海苔弁を食べようとしていたところで……。


 そういえばさっきの声は誰だ?

 と、椅子ごと後方へ振り返ってみると、否応にでも目に飛び込む大きなモニターの映像に俺はくぎ付けになった。



「うっは!」

 思わず、声が出た。

 なんだありゃ!?

 そこにはどこかの夜の都市が映っていたのだが、廃墟のようなビルとビルの間から、幾何学模様が描かれた物体が現れたのだ。それはそれは巨大な物体だ。

 というより、模様が水色に光り輝いているから、暗い夜の映像でも物体の巨大さがわかったというほうが正しい。

 ビルは10階以上ありそうだったが、その物体は同じくらいの大きさがある。



「おいおいおい!」

 思わず、声を出す。

 目を凝らしてみると、その水色に輝く物体はツインテールの女子だった! 

 暗闇の町に水色に輝く超でかい女子!? 

 なにこれ、特撮?

 しかも、右手を体の前方に突き出して何かに身構えている。

 何かと戦っている?


……いや待て待て、よく考えろ。なんだこの状況は。

 俺はコンビニの弁当を食べようとしてたはずだろ!?



「私もPSW(ピーエスダブリュー)ですッ。出撃許可をお願いしますッ!」


 つんざくようなめちゃくちゃ大きな声が響き渡った。


「びびったー!」

 思わず、声が出る。椅子を伝う、ビリビリとした感触。


 そうだ、そこに人がいた。

 その声で、自分がやたらフカフカな椅子に座っていることや、最初に見えた無数のモニターは部屋の後方の壁であることに気付くことができた。

 目の前に1つだけある超巨大なモニターは、まるで映画館みたいだ。


 さらに俺の前には、先端が暗くて見えないほど奥行きのあるデスクがあった。

 デスクの上には土みたいな塊が入ったシャーレが置かれている。

 何だこれ。


 そしてその巨大モニターとデスクの間にある通路に、弱めのスポットライトにぼんやりと照らされた黒髪の女の子が立っていた。

 巨大モニターの明かりとライトの光が交差して幻想的にすら思える。

 だいぶ距離があるのではっきりとはわからないが、小柄で、赤っぽい服がその黒髪をいっそうひきたてた。

 こんな華奢な体で、この身を震わすほどの大声を放っていたのか。


 驚いたな……。

 俺はしばしの間、彼女を見つめてしまったが、黒髪っ子はどうみても俺の返答を待っているようだ。

PSW(ピーエスダブリュー)って何?」とようやく声をかけようとしたとき、大きなモニターの映像に再び俺はくぎ付けになった。

「うっほ!」

 思わず、叫んだ。


 あのツインテール女子(仮)は、よく見ると体のラインがわかる、変なぴっちりスーツを着ている!

 というか、それが水色の光源となって、まるで姿を縁取られているかのように形を認識できていたのだ。

 目や鼻といった顔のパーツまでもが水色に輝いているのでなかなかに気持ち悪いが、光る体の線は神秘的……いやなんかエロい! 


「えええ!?」

 さらに声が漏れた。

 よく見たらツインテール女子(仮)は、めっちゃ痛そうな表情をしている。

 左腕は下ろしていたんじゃなくて、変な方向を向いて、いやむしろ不自然な長さまで垂れ下がってた。


……正直、意味がわからない。

 仮にもしモニターに映っているのがロボットだったとしたら、ここはよくあるSFアニメの司令室に似ている。

 でも、光っている巨大な物体はどう見てもロボットじゃなくて女の子だ。

 それも、ぷらーんと変な方向に伸びた左腕とそれをかばうように前方に右手を構える姿が生々しいツインテール女子(仮)だ。

 アニメの世界に入り込んだという表現が正しいようにも思ったが、そのツインテール女子(仮)の緊迫した表情が現実の出来事のように見える。


……いや待て待て、よく考えろ。現実なわけないだろ、ビルほどにでかい女子なんて聞いたことないし!

 何度も言うが、俺はコンビニの弁当を食べようとして(以下略)。



 ふと俺はツインテール女子(仮)が身構える、その視線の先に目をやった……


「ん? はああああああああああ?」

 思わず、本気で叫んだ。

 そこには真っ赤に輝きを放つ人型の物体。

 縁取りではなく、体の中央から放射状に赤い光で全身を映し出しているとでも表現すればいいだろうか。

 無表情に立つ、よく見慣れた顔。


……巨大な俺の姿があった。


 待て待て、意味がわからない。

 俺が敵? というか、ツインテール女子(仮)が敵?

 ここが司令室だとして、ツインテール女子は俺と戦っている? 

 それとも俺がツインテール女子(仮)と戦っている?

 でも、俺はここにいるし……俺は誰だ? 

……やばい、ゲシュタルト崩壊。


 状況がまったく飲み込めないまま、どんどん理解できないことが増えていく。

 俺が思考をやめ、真っ白になって硬直したとき、その声は沈黙を切り裂いた。


「グレナ司令! 私もPSW(ピーエスダブリュー)ですッ。出撃許可をッ! このままではエルちゃんがッ!」


 引き戻される。そうだった、この黒髪っ子に話しかけられている最中だった。

 しかし、俺は何と答えていいかわからない。

 出撃って何だ? エル? モニターで起こっていることはやはり特撮やアニメではなく現実?


 だめだ。一度、状況を整理してみよう。



 ***


俺はさっきまでコンビニ弁当を食べようとしていた

↑理解可能


変な司令室みたいなところにいて戦況を見ている

↑理解不可能


巨大なツインテール女子(仮)と巨大な俺が戦っている?

↑理解不可能


黒髪の女の子がグレナ司令に出撃許可を求めている

↑理解不可能


おそらくグレナ司令とは俺のこと

↑理解不可能


たぶんエルという子がツインテール女子(仮)

↑理解不可能


となると、巨大な俺が敵

↑理解不可能


司令の俺は、出撃させた女の子で俺と戦っている

↑理解不可能


 ***



 整理しても面白いぐらいに理解不可能だ。

 しかし、俺の中で答えはでた。


 理解不可能をまとめて理解するとなると……ようは夢だ、これは夢でしかありえない。

 しかも俺の憧れていた「ロボットアニメの世界や変身ヒーロー特撮+美少女」という、最強シチュエーションの夢だ。

 間違いない。だってそれ以外ありえないし、大好きな設定に心が踊ったから、夢と断定しよう。

 敵が俺なのはどうかと思うが……とりあえずあの俺は俺(仮)と呼ぶ。


 というわけで、俺は好き勝手やることに決めた。

 どうせ夢だし、楽しまなきゃ損だ。


 ビシッと司令官を演じて、俺(仮)の魔の手からあのツインテール女子(仮)を、この世界を、俺自身で救おうではないか! 

 となれば、やることはひとつだ。 


 俺はデスクに肘を乗せ、手を組み、口の前に持っていく。そして自分なりに精一杯の渋い声で呟く。

……正直、ゾクゾクする。


「……レイ、出撃だ」


「私、ユウですが」


…………………………。


……動じないぞ。だって夢だもん。


「ユウ、出撃だ」


 ユウは右手の握りこぶしを水平に胸にあてて上に曲げる。上げる瞬間に指は真っすぐに伸びた。

「コールPSW(ピーエスダブリュー)!」


 やばいやばいやばい。特撮の防衛軍みたいじゃん。ポーズとセリフかっけええ。

 いやぁアドレナリンでたぁ。ユウちゃんの返事も即答で素晴らしかった。

 名前は違ったけど。レイだと思ったんだけどな、夢ならとくに。

 まぁでも全身鳥肌ものだ。最高の演出だったな。


「見ていてください。グレナデン司令」

 そう言うと、ユウと名乗った少女は暗闇の中に走って消えた。



「シロップ様。先刻まで制止されておりましたが……本当にユウを行かせてしまってもよろしかったのでしょうか? あの地区でのクレイドンは2個体しか配備できておりませんが……」


 横にいつの間にか立っていた男の影が、俺の後方から知らない単語を投げかけてきた。

 が、今の俺にはそんなことはどうでもよかった。

 それより気になることがあったからだ。


 グレナデン司令に、シロップ様。

……もしかして、俺。

 ここで「グレナデン・シロップ」って名前なの!?


…………………………………。


 グレナデン・シロップ……。たしか、“ザクロの果汁と砂糖でできた赤いシロップ”。



嫌すぎるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅ!


 俺は夢なのに動揺した。

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