表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/55

泡になって消える


「ニルヴァああ、」


絶叫とともに剣を放り投げると、冷たい大理石の床にガランと音を立てて落ちた。


大広間の中央には、倒れ伏している男たちと、真っ二つに割れた獅子舞の獅子の仮面。その中に、非常に小柄な男が身を潜めていて王を狙ったのだ、ということになる。


王トラウルを狙った、暗殺者だった。


サンダンスとの関係に不穏な要素を持つ国は多くない。捕らえられた者の中にはすでに自害した者もあり、ラドラスに骨を折られて、それすらできず悶絶している者もいる。


そして彼らは、ほどなくして王暗殺の罪人として、鎖に繋がれ連行されていった。


ラドラスがすぐに、警備隊に来賓を守ることと、他に怪しい輩が居ないかを確認するよう指示を出し、そしてそれを警備隊が忠実に実行したのもある。


また、暗殺の的となった王トラウルの警護は、その後最優先で手厚くされた。


トラウルは、飛んできた短剣をニルヴァが受けてからすぐに、警備隊によって自室へと連れていかれ、その難を逃れている。


「なんと、こんなことがあるとは思いも寄らなかった」


相当飲んでいた酔いも見事に去った。


妻のリアナも無事だ。その事実に、トラウルはほっと胸を撫で下ろしたのだった。


だが。


ニルヴァが代わりに刺されてしまった。


ニルヴァはラドラスの手によって、イロンの診療所へと担ぎ込まれている。


「イロンっっ、ニルヴァが刺されたっ」


驚いた様子でイロンはニルヴァをベッドに寝かせるように指示した。


「イロン、ニルヴァはどうなのだ」


「ラドラス様、離れてください」


「ここを刺されているんだ、どうしたらいい? もうこの剣を抜いてもいいのか?」


「待ってくださいっっ、今、止血剤を、」


「イロン、助けてくれ、ニルヴァを助けてくれっっ」


取り乱すラドラスをなだめようと、イロンが薬棚から止血剤を出す手を止めた。


「ラドラス様、できる限りのことはしますから、」


「ニルヴァを、ニルヴァを」


ラドラスに構わず、止血剤の瓶の蓋を開ける。


「イロン、血が止まらねえ……どうしたらいいんだよ、早くしてくれっっ」


「剣を抜いてはいけません」


「早く抜かねえと……ニルヴァが苦しがってんだ」


顔面蒼白なニルヴァの顔は、その苦痛にひどく歪んでいて、見るに耐えない表情を浮かべている。


その額には脂汗が滲み、息もはあはあと荒い。


「まだ抜いてはいけない」


そのイロンの言葉を無視して、ラドラスが短剣の柄に手をかけた時。パンっと乾いた音が響いた。イロンが、ラドラスの頬を平手で打ったのだ。


「まだ抜くなと言っているっっ‼︎ 手術の用意をしてからだ、わかったらここから出て行くか、私の言うことを聞くかのどっちかにしろっっ‼︎」


ラドラスは、よろと立ち上がると、今にも泣きそうに歪んだ顔を、イロンに向けた。


「俺はなにをしたらいい?」


サンダンスを守る赤髪王の弱々しい声に、イロンは苦く笑うと、「たくさんのお湯を沸かしてください。あと、ありったけのタオルと脱脂綿を」


ラドラスは慌てて、診療所の給仕場に走り込んだ。大鍋に水を張って、コンロに火をつけた。


早く沸けと、鍋を何度も覗き込む。湯に移るラドラスの顔は、ぐにゃぐにゃと曲がり、そして泡になって消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ