気持ちを探って
「大の男が花畑で、いつまでもぼうっと……」
トラウルが、呆れた口調で言うと、ラドラスも苦く笑ってから、それを受け入れる。
「みっともない姿を見られたな」
「なぜ、求婚しないのだ」
あまりにトラウルがストレートに問うてくるので、ラドラスは苦笑で返せなくなった。
「それがその、……ニルヴァには好きな男がいる、らしい、」
「俺か⁉︎」
トラウルの即答には苦笑する。
「兄上、それはもういい」
実は散々、お前は馬鹿かと罵られたことがあった。
「ニルヴァが俺のことを好きだったというのは、本当に本当なのか?」
トラウルが眉をひそめて、言った。
「そんな素振りはとんと見たことがないのだが。ラドラス、お前の勘違いではないのか? ニルヴァがそう言ったのか?」
「いや、聞いたわけじゃねえけど」
「そうだろうとも。ちゃんと本人に聞いてみるんだな。ニルヴァ、お前はいったい誰を愛しているのだ? とな」
少し前にそのような会話が交わされたばかりだというのにと、トラウルは呆れ顔で、問うた。
「ニルヴァの好きな男だと? それはいったい、誰なんだ?」
「ニルヴァが今、料理を習っている男が、……その、なかなかの良い男なんだが、」
「シバムか。まあ確かにあいつは若いのに闊達で、しかも料理の腕も一流だ」
「俺も話したことがあるが、とても気持ちのいい男で……その、ニルヴァと仲がいいんだ」
「なんだそれは、ヤキモチか。まあ、その気持ちはわからんでもない」
「ニルヴァは優しい男が好きなんだ。だから俺のような無骨な男など、」
トラウルは遮るように唸った。
「あああ、もういいもういい。それは聞き飽きた」
「兄上」
「女は多少強引な男の方が良いものだ。ラドラス、もう有無を言わせずに、結婚してしまえばいいのではないか」
「兄上っ、そんなことをしては……」
薄ら笑いのトラウルの顔を見て、ラドラスは言葉を飲んだ。その顔が楽しんでいるように見えて、なんとも癪に触る。
(そんなことをしては、また嫌われてしまうじゃないか)
言おうとした言葉が、まるで子どものような言葉だと知ると、ラドラスはぐっと口を引き結んで、トラウルの部屋を後にした。
「あまり上手にはできていませんが、」
「いや、そんなことはない。とても美味い」
「焼き過ぎてしまったのです。シバムが、途中で気がついて火を切ってくれたのですが、それがなかったら、真っ黒焦げになっていました」
しゅんと落ち込んでいるニルヴァを横目に、ラドラスはクッキーをもう一つつまみ、口の中へ放り込んだ。確かに少し、苦味がある。
「……美味いし、これなら大丈夫だ」
その言葉を聞いて、ようやくニルヴァの顔がほころんだ。
「ありがとうございます」
けれど、はっきり言って、味はあまり頭に入ってこない。クッキーなので甘いのだろうがその甘味すら、気になることというか引っかかるものがこうもあると、まるでわからなくなるのが不思議だ。
もぐもぐと咀嚼しては、はああと落ち込んだ。もちろん、溜め息はニルヴァにわからないように、心で吐いているのだが。
ニルヴァは日がな一日、調理室にこもっていることもある。
「もう少し、お料理の腕をあげたくて……」
ニルヴァのはにかんだ顔を見る。
「アイルでは、お料理や裁縫など、何一つ教えてもらえませんでしたから、私、本当に何もできなくて……」
寂しそうな顔を見ると、料理なんかできなくていいとは、到底言えず、ラドラスは言葉を控えてしまう。
「ニーナのおやつも手作りで作ってあげたいし、その……お料理が美味しくできるようになれば、」
珍しくニルヴァが顔を赤らめた。
「料理が……なんだ?」
ラドラスが先を促すと、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「いえ、なんでもありません」
ニルヴァの本心は、なかなか掴めない。ラドラスはこの時も、もしかしたら、ニルヴァはシバムと結婚したいのだろうか、それで料理の腕をあげようとしているのではないか、などと勘ぐった。
(……情けない、)
落ち込んだ。けれど、真意は聞けず、ただ時間だけが過ぎていく。休暇もあとわずかだというのに、ラドラスの気持ちは重くなり、暗く沈んでいった。




