嫌われ者
「ラドラスが女を独り占めしてるんだとよ」
「いつものことだろう」
「それにまあ、すぐに飽きるんじゃねえのか」
「いつも通り、お下がりになるまで待つのかよー」
「おい、ラドラス‼︎ 早めに頼んだぜ」
遊び仲間が口々に声を掛けてくる。
ラドラスは手を軽く上げながら、城の廊下を足早に歩いた。
サンダンス王国。
大陸とは陸地で繋がっているが、深い山々によってほぼ隔離されている国。土地も広いとは言えず、国民の人口もそれほど多くない。
ただ、山々から出る湧き水が綺麗なこともあり、肥沃な土地での農業は盛んに行われている。
その山際に造られた城に、ラドラスは住んでいた。唯一の兄弟である兄トラウルが王位を継承してからは、少しだけ遊ぶのを控えるようにはなったが、ラドラスは遊び仲間と国の僻地へと行っては、村人から金を巻き上げたり、女を買ったりしていた。
「ラドラス様、もう少し外出をお控えください」
「なんだ、お前は俺に指図をするつもりか」
「王の弟君が地方で手に負えない狼藉を繰り返しているという悪い噂が、あちこちで立っているのです」
兄王の宰相に諌められても、ラドラスは聞く耳を持たなかった。
「はは、噂か。噂であれば、放っておけばいい」
「ラドラス様」
「うるさい、もういい、下がれ」
「国王陛下の顔に泥を塗るつもりですか」
そう忠進した宰相の顔面を、ラドラスは握りこぶしで殴り、そしてその場に倒したことがあった。倒れた時に頭を打った宰相は、そのまま眠り続け、未だ意識を戻していない。
乱暴者、粗暴、どうしようもない愚か者、との評判は、サンダンス王国の城内だけでなく、周辺の村にも響き渡っている。
(どうせ俺なぞ、王位にもつけない、はみ出しものだ)
兄、トラウルが世継ぎを産めば、弟の出る幕など微塵もない。しかも、トラウルは国民からの信頼も絶大で、優しく気遣いができるため、姫君たちからも好かれ、人気が高い。
(兄上はみなに好かれ、そして求められる。それに比べたら、俺は……)
赤髪は嫌われる。どこに行っても奇異な目で見られ、それが王トラウルの弟だと知れると、みな一様にして憐れみの目を向ける。そんな冷ややかな視線を誰よりも敏感に感じてきた。
(俺は、……王になる兄上には、邪魔なだけの存在だ)
物心ついた時にそう気づいたラドラスは、それ以来、トラウルとも一定の距離を置くようになった。
「ラドラスっっ、早く女をよこせよっっ」
背中にかかる悪友たちの、わははという笑い声に、手を上げて応えると、廊下を大股で進んでいった。